ライカさんは
自分にカレンの殺意が向くように
カレンを挑発したみたいだった。



なんでそんな危険なことを!

でもそんな僕に対して
ライカさんは冷静に囁いてくる。
 
 

ライカ

トーヤさん、
まだカレンさんの意識は
確実に生きています。
あの反応が
なによりの証拠です。

ライカ

そうじゃなかったら
あんなにもムキになんて
なりませんよ。

トーヤ

っ!

ライカ

カレンさんの動きは
私が止めてみせます。

ライカ

だからトーヤさんは
彼女の意識を
取り戻してあげて
ください。

トーヤ

…………。

 
 
そういうことだったのか。

ライカさんはカレンの本当の人格が
まだ残っていることを確認したのか!



確かにあの反応、
僕たちの知っているカレンの人格が
影響しているに違いない。

今の人格の彼女自身も
心が惑わされる理由が分からずに
戸惑っているみたいだし。

でも今の状況を冷静に考えたら、
僕がカレンの相手を
するわけにはいかない。
 
 

トーヤ

クロード、
ライカさんと一緒に
カレンを頼むよ。

クロード

えっ?

ライカ

トーヤさんっ!?

トーヤ

カレンの対処は
僕以外でも出来る。
でもグラン侯爵は
僕にしか止められない。

ライカ

トーヤさん!

 
 
 
 
 

 
 
 
 
 
僕はライカさんに頬を叩かれた。
思いっきり叩かれた。

叩かれたところがジンジンと痛くて熱い。



彼女を見ると瞳は潤み、
振り下ろされたその手は震えている。
 
 

ライカ

その判断は正しい
かもですがっ、
カレンさんにとっては
最悪の判断です!

ライカ

カレンさんのことを
救えるのは、
きっとトーヤさん
だけです!

トーヤ

そうかもね……。

ライカ

分かっているなら
なぜそうしないのです?
手遅れになるかも
しれないんですよ?

ライカ

こうしている間にも
カレンさんの人格は
消えかかってるんですよ?
一刻を争うんですよッ?

トーヤ

カレンの意識は
グラン侯爵を倒したあとに
取り戻してみせるよ。
絶対に!

ライカ

見損ないました!

 
 
ライカさんは本気で怒っていた。
その一方で
悔しさも滲んでいるような気がした。

きっと僕の判断がカレンのことを
思っているからこそのものだと
分かっているからだと思う。


僕たちの間には
決して誰も入れないくらいに
強い絆があるのだと思い知らされて、
嫉妬する気持ちもあるんだと思う。

それくらいは鈍感な僕にも分かる。
 
 

トーヤ

ライカさん、
僕はカレンが好きです。

トーヤ

だからライカさんの
気持ちは嬉しいけど
応えてあげることが
できません。

ライカ

…………っ!?

ライカ

トーヤさん……。

トーヤ

ごめんなさい、
ライカさん。
でもだからこそ、
カレンは僕が必ず
救ってみせますよ。

 
 
ライカさんはキョトンとしていた。

でもすぐにプッと小さく吹き出して、
僕に微笑みかけてくる。
 
 

ライカ

……ずるいですよ、
こんな時にその返事。
落ち込むことも出来ない
じゃないですか。

トーヤ

僕は昔からズルイよ。

 
 
僕とライカさんは視線を合わせて
微笑み合った。
 
 

トーヤ

クロードと一緒に
カレンのことを頼みます。

ライカ

承知ですっ!

トーヤ

クロードもお願いね!

クロード

お任せをっ!

クロード

でもなんか私も
敗北感を味わったような
気がしますね……。

ぼそぼそ……

クロード

トーヤは私のものなのに。

トーヤ

えっ? 何か言った?

クロード

いえ、なんでもないです!
トーヤはグラン侯爵を!

トーヤ

うんっ!

 
 
カレンのことはライカさんとクロードに
任せておけばきっと大丈夫。

僕以外では一番目と二番目に長く
カレンと一緒に
旅をしてきた仲間なんだから。

きっとクセとか呼吸とかを
熟知しているはずだ。
 
 

グラン

そう思い通りにさせるか!
カレン、
誰に邪魔をされようが
薬草師のガキだけを狙え!

カレン

分かっています、
お父様!

アポロ

こっちだって
そうはさせるかよ!

グラン

ふふふ、そうなる。
なぜなら我が
全力で戦うからだ!

グラン

はぁあああぁ……。

 
 
グラン侯爵は再び力を解放し始めた。
そしてまた体が銀色の光に包まれていく。

ま、まさかっ、
また分身するというのかっ!?
 
 

グラン

ふふふ……。

グラン

…………。

グラン

…………。

グラン

…………。

 
 
僕の想像は現実のものとなった。
いや、想像していたよりも事態は最悪だ。
だってグラン侯爵はその力を維持したまま
四体に分身したのだから……。



つまり僕たちがグラン侯爵を倒すためには
四体をほぼ同じタイミングで
倒さなければならないということだ。

そうじゃなかったらまた分身されてしまう。
 
 

エルム

こんなことが……。

タック

マジかよ……。

アレス

みんな、冷静に考えて!
勝機はあるよ!

トーヤ

アレスくん……。

ミリー

勝機とは?

アレス

グランは本気で
戦うと言った。

アポロ

だからこんなピンチに
なってるんじゃねーか。

アレス

つまりグランは
同時に四体までしか
分身出来ないということ。
これが最大の勢力なんだ!

ユリア

あっ!

クレア

アレス、鋭いわね。

 
 
そっか、確かにそうかも。
プランクトンなどの分裂して増える生物も
一度に分裂できる数には限界がある。

それに分裂するには大きなエネルギーが
必要になる。



そうだ、そう考えればグラン侯爵も
最初の時と比べたら力が落ちているんじゃ
ないだろうか?

事実、アレスくんの指摘を聞いて
グラン侯爵の顔には
わずかに焦りの色が見える。


きっと図星なんだ!
 
 

 
 
 
次回へ続く!
 

第231幕 グランの本気 VS ポジティブ思考

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