なぜか僕たちの目前でグラン侯爵は
悶え苦しみながら倒れ込んだ。
これは一体どういうことなんだろう?
なぜか僕たちの目前でグラン侯爵は
悶え苦しみながら倒れ込んだ。
これは一体どういうことなんだろう?
んっ? あれはっ!?
その時、僕は気が付いた。
グラン侯爵の足下にあったものに!
それは――
あれは僕がさっき
カレンの一撃を食らって
流れ出した血……。
グラン侯爵の足下には僕の血があった。
そうか、それを踏みつけたことで
わずかかもしれないけど
皮膚から血が染みこんだんだ。
それで悶え苦しんだんだ!
不老不死の薬を使った体と僕の血は
決して相容れない存在。
だからこそ、それを投与されたお父様は
尋常ではない苦しみ方をした。
今のグラン侯爵にとって
僕は天敵とも言うべき存在。
そうか、僕の血は
ああいう使い方も出来るんだ。
いずれにしても
この好機を逃すわけには
いかないっ!
僕は注射器で血液を採取し、それを持ち、
悶え苦しむグラン侯爵へ向かって
突進した。
今なら僕の一撃もきっと届く!
えっ?
その直後、なぜか僕の体は軽くなった。
チラリと後ろを見ると、
ライカさんが僕に対して微笑んでいる。
きっとライカさんが何かを察して
身体強化の魔法を
僕にかけてくれたんだろう。
ありがとう、ライカさん!
食らえぇっ!
これが命を弄んだ者への
天罰だぁぁああぁっ!
僕は注射器を握りしめたまま
その太い針の先端をグラン侯爵の
むき出しになった首の辺りに突き刺した。
そして血液をヤツの体内へ注入する。
別に治療目的じゃないから
少し乱暴に処置をしたっていいんだ!
うぎゃぁ
あああぁっ!
全身を激しく痙攣させるグラン侯爵。
針の刺さった場所はすでにドス黒く変色し
細胞が壊死している。
その範囲は秒単位で一気に広がっていき、
やがて全身が真っ黒になって
グラン侯爵は息絶えた。
もはや沈黙したまま指一本動かない。
な、なんだこれは!?
残されたもう一体のグラン侯爵は
僕たちと対峙してから初めて表情に
恐怖と戸惑いの色を滲ませた。
それはそうだ。
死なないはずなのに死んだのだから。
貴様っ、何をしたっ!
それは――。
バカね、話すはずが
ないでしょう?
クレアさん……。
クレアさんが僕の言葉を遮って
吐き捨てるように言う。
危ない危ない……。
つい秘密を喋ってしまうところだった。
気をつけないといけない。
でもこれで残りは一体。
少しは勝利も見えてきたかもしれない。
ぐぬぬぬ……。
何が起きたというのだ?
不老不死の薬は
未完成だったというのか?
いや、それはない。
拷問と薬、
それに魔法で製法を
吐き出させたのだ。
それはおあいにく様。
でも戦いでは
想定外やまさかがあるって
自分で言ってたわよね?
クレア……ッ!
グラン侯爵は額に青筋を浮かべ、
クレアさんを睨み付けていた。
でもすぐに真顔に戻ってこちらを見る。
考えても理由は分からん。
だが、その薬草師は
勇者と同等に危険だ。
それはハッキリ認識した。
癪に障るゴミどもがぁっ!
もはや遊びは終わりだ!
全力で片付けてやるっ!
カレン!
グラン侯爵はカレンを呼び寄せた。
すると
ユリアさんやビセットさんと戦っていた
カレンはふたりと間合いを取り、
グラン侯爵のかたわらへやってくる。
どうなさいました?
お前は薬草師の
ガキを殺せ。
それ以外は私が
相手をする。
承知しました。
でもお父様、
ひとつお願いがあります。
ん? なんだ?
あの女の薬草師も
私が殺していいですか?
なぜかさっきから
ムシャクシャしますの!
っ!?
八つ裂きにして
その肉片をイヌのエサに
してやらないと
気が収まりません!
好きにしろ。
ありがとうございます、
お父様。
カレンは笑顔でグラン侯爵にお礼を言うと
ライカさんに対して剣の切っ先を向けて
鬼のような形相で睨み付ける。
もしかしてさっき僕とライカさんが
キスをしたのを見ていて
嫉妬しているのかな?
ライカ、
貴様は絶対に許さない。
一緒に旅をしている時から
いけ好かなかったのよ!
なぜそんなに
怒っているのです?
嫉妬ですか?
理由は分からないけど
断じて嫉妬なんかじゃ
ないからっ!
へぇ、そうですか。
っ?
ライカさんはニタニタしながら
僕に抱きついてきてカレンに見せつける。
なんだか照れくさい――っていうか、
なんでわざわざ
カレンを挑発するようなことをするのっ?
っっっっ!
やっぱりライカ、
この世で一番嫌いッ!
私はカレンさんのこと
嫌いじゃないですよ?
だからそんなことを
言われると寂しいです。
殺す!
絶対にッ!
トーヤより
先に殺す!
っ!?
まさかライカさん、
標的を僕じゃなくて自分に向けるために
カレンを挑発したんじゃ?
なんて危険なことをっ!
次回へ続く!