グラン侯爵は左右から突進して
アレスくんたちのところへ向かっている。

それを食い止めようと
クレアさんとクロードが
それぞれ立ち塞がる。


ライカさんのかけた強化魔法で
ふたりの全能力が上がっているから
少しは力の差を埋められているはず。

でも――
 
 

トーヤ

なっ!?

 
 
突然、剣を持ったグラン侯爵は
進路を転換して僕たちの方へ向かってきた。

不意を衝かれたクロードも身を翻すけど
そのスピードにはついていけていない。


もはや僕たちとグラン侯爵の間に
立ち塞がっているのは
タックさんが行使する結界魔法だけ。
 
 

グラン

やはり回復役は
目障りだからな。
消させてもらうぞ!

トーヤ

しまった!
最初からそれが
目的だったのか!

ライカ

させません!

ライカ

…………。

 
 
 

 
 
 

 
慌ててライカさんが僕たちだけに
結界魔法をかけた。

直後、タックさんの結界の中に
ライカさんのかけた結界が展開される。
これで僕とライカさんは二重の結界で
守られたことになる。



でもあの猛烈な攻撃に
耐えられるだろうか?

今は信じるしかないけど、
万が一の時のためにも
せめてライカさんだけは守らなきゃ!
 
 

トーヤ

アレスくん、
どうかキミの勇気を
ほんのちょっぴりで
いいから
僕に分けてくれ!

 
 
僕は勇気を振り絞り、
グラン侯爵とライカさんの間に
身を乗り出そうとした。

でもそんな僕を制して
逆にライカさんが僕を包み込むように
抱きしめてくる。

温かくて柔らかくて熱くて
いい匂いがする。
 
 
 
 
 

 
 
 
 
 
 

ライカ

この命を失ったとしても
盾となってトーヤさんを
守ります!

トーヤ

ライカさん、ダメだよ!
僕よりもライカさんを!

ライカ

その命令は聞けません!

トーヤ

命令とかじゃなくて――

 
 

トーヤ

んっ!?

ライカ

…………。

 
 
突然、ライカさんは自身の口で
僕の口を塞いだ。

以前に口移しで
薬を飲ませてしまったことがあったけど、
あの時とは感触が違う。


それにこんなにも胸の鼓動が高まって
全身から力が抜けていく。
 
 

トーヤ

あ……ぁ……。

ライカ

ユリアさんたちと
話したことが
あるじゃないですか。
リーダーを守るのは
部下の役目だって。

ライカ

命を捨ててでも
守るって。

トーヤ

だけど……。

ライカ

私、
トーヤさんが好きです。

トーヤ

っ!?

ライカ

トーヤさんはカレンさんが
好きだってこと、
知ってます。
でも好きな気持ちを
伝えたかったから。

ライカ

どさくさ紛れだけど
こうしてトーヤさんと
キスが出来たし、
思い残すことはないです。

トーヤ

ライカさん……。

 
 
目の前にグラン侯爵が迫る。

ライカさんは僕を一層強い力で抱きしめ、
その命と肉体をもって庇おうとしている。




こんなの嫌だ。

僕はまた守られるだけなのか……。
女の子ひとり守れないのか……。




自分の無力さを
これでもかと思い知らされる。







でもその時――っ!
 
 

グラン

ぎゃあああぁーっ!

トーヤ

えっ?

 
 
突然、グラン侯爵は悶え苦しみながら
その場に倒れ込んだ。
僕たちとの距離はほんのわずか。

なぜグラン侯爵が
苦しみながら倒れ込んだのか
理由はさっぱり分からない。




ただ、その隙にクロードが追いつき、
グラン侯爵に対して剣での一撃。

その後、クロードは僕たちを下がらせ、
間に立って次の攻撃を警戒する。

その想定外の事態に
もう一体のグラン侯爵も突進をやめ、
後ろに飛び退いて距離を取った。
 
 

 
 
 
次回へ続く!
 

第229幕 伝えたかった気持ち

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