一時は冷静さを完全に失い、
アレスくんにまで殺意を向けたクレアさん。
でも今はその気配がすっかり消えている。


これでひとまずは安心かな。

みんなも心の中では
胸を撫で下ろしているに違いない。
 
 

クレア

ミューリエが
なぜあんなにもアレスに
肩入れするのか、
今まで理解できなかった。

クレア

それが今、
ようやく分かったような
気がするわ。

クレア

無垢で他者を慈しむ心。
真っ直ぐな意思。
あなたの存在全てが――
いえ、
それを言うのは野暮ね。

クレア

ごめんなさい、アレス。
私を許して。

アレス

クレアさんっ!

クレア

私は今、ミューリエの
命令とは関係なく
私自身の意思で
アレスの力になることを
誓うわ。

クレア

グラン、
私を挑発したのは
やぶ蛇だったわね。

 
 
 
 
 
クレアさんはピシッと
切っ先をグラン侯爵へ向けた。

するとグラン侯爵は苦笑いしながら
軽くため息をつく。
 
 

グラン

ま、戦いには想定外や
まさかがつきものだ。
それにこれで
形勢が変わったとも
思えんがな。

グラン

その証拠を見せてやろう。
そして圧倒的な力の差と
死の恐怖を
目の当たりにして
絶望するがいい。

 
 
グラン侯爵は力を解放し始めた。
全身が銀色の光に包まれ、
波動が辺りに伝播していく。

空気が震え、地面が震え、空が震える。
 
 

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

トーヤ

なっ!?

 
 
直後、なんとグラン侯爵自身を
包んでいた光も大きく震えながら
体がふたつに分裂し始めた。


最初は目の錯覚かと思った。

でも次第に光が収まっていき、
完全に光が消えた時には
ふたりのグラン侯爵がその場に佇んでいた。
 
 

グラン

ふふ、これが厳密に言う
分身というやつだ。
念のために忠告しておくが
不老不死の体質は
分身しても変わらない。

トーヤ

だが、分身した分、
力も魔法力も
半分になったはずだ!

グラン

果たしてそうかな?
従来の分身魔法なら
そうかもしれんが。
ま、試してみることだ。

グラン

ただし、
身を持って絶望しても
小便を漏らすなよ?
臭くてかなわんからな。

タック

……ハッタリだ。

クレア

デタックル、
そう言う割には
足が震えているけど?

クレア

本能では分かって
いるんじゃない?
あれがハッタリでは
ないことに。

タック

ばらすなよ、バカ。

アレス

そんなっ!

タック

それとクレア!
どさくさに紛れて
オイラのことを
デタックルと呼ぶな。

クレア

あら、失礼♪

 
 
タックさんとクレアさんの話が本当なら
とんでもないことだ。
いや、きっと本当なんだろうって
雰囲気から分かる。

みんなもそれを察して
一様に緊張の色が走っている。



力はそのままで分身なんかされたら、
僕たちは対処できるかどうか……。



ミリーさんは戦える状態じゃない。

タックさんもアレスくんや僕たちを守る
結界魔法を展開しているから
攻撃するのは無理だ。

アレスくんとシーラさんは
力を行使するにしても
どちらか一体を足止めするので
精一杯だろうな。






そうなると、攻撃できるのはクレアさん、
クロード、ライカさん、僕くらい。
圧倒的に戦力不足だ。

エルムかビセットさんを
こちらの戦闘に呼ぶしかないか……。


でもカレンの方へ視線を向けて見てみると、
ユリアさんやビセットさんは
戦いに四苦八苦しているみたい。

そりゃ、そうだ。
カレンの命を奪わずに無力化しないと
いけないんだから。



おそらくあのふたりが本気でカレンを
殺そうと思って戦っていたなら
とっくに決着は付いていると思う。

そういう点でも僕たちは不利だ。
僕の戦力の振り分けは失敗だったのか?
 
 

グラン

では、参ろう!

トーヤ

くっ!

 
 
グラン侯爵は二体ともこちらに迫ってくる。
ただ、一体は素手の状態だから
そっちは少し攻撃力が落ちるかもだけど。

いや、あの圧倒的な力の前では
誤差程度にしかならないか……。
 
 

 
 
 
次回へ続く!
 

pagetop