グラン侯爵の策略と不意打ちに
僕たちはすっかり萎縮してしまっていた。
無意識のうちに警戒感を強め、
防御に意識が集中していて
ヘタに攻撃に出られない。
これがグラン侯爵の力――。
グラン侯爵の策略と不意打ちに
僕たちはすっかり萎縮してしまっていた。
無意識のうちに警戒感を強め、
防御に意識が集中していて
ヘタに攻撃に出られない。
これがグラン侯爵の力――。
ふっふっふ。
これで終わってしまっては
呆気ない。
不老不死の我に刃向かった
その罪を身をもって
味わうがいい。
くっ……。
後悔と絶望を
充分に与えてやる。
もっと我を
楽しませてくれよ。
僕たちは負けない!
お前がどんなに強くても
僕たちが力を合わせれば
絶対に勝てる!
アレスくん……。
さすが勇者だ。
こんな状況になっても
決して諦めない心と勇気。
その姿勢を見て、
志気の下がっていた僕たち全員も
勇気づけられ
心が熱くなってくる。
んっふっふ。
なるほど、さすが勇者。
仲間の心に力を与えたか。
ますます殺しておかねばな。
二度とさせるかよ!
先ほどの攻撃で
むしろ私たちを警戒させた。
それはあなたの
戦略ミスですよ。
いや、計画通りだ。
何っ!?
それくらいでないと
あっという間に
戦いが終わって
面白くない。
舐められたものね……。
一歩前に出るクレアさん。
それを見てグラン侯爵の顔が
わずかに強張る。
ただ、それも一瞬のことで、
すぐに満面の笑みへと変わった。
クレアか。
確かにお前は少々厄介だ。
ダイスといいあなたといい
嫌悪感を持つ相手ばかりに
目を付けられたものね。
不愉快だわ。
それは誇っていいことだ。
我もダイスも
お前の力を少しは
認めているということ
なのだからな。
さすがは元・魔王の
使い魔よ。
いや、分身と言っても
良いかもしれんか。
えっ!?
クレアさんが女王様の分身っ!?
それってどういうことなのっ?
視線を向けると、
いつもは冷静なクレアさんが
隠すこともなく怒りを露わにしている。
私は私よッ!
ミューリエじゃない!
私はクレアという
ひとりの魔族よ!
だが、お前はミューリエの
体の一部を基に
呪術で作り上げられた
使い魔ではないか。
作り物。偽物。
疑似生命体。
言うなぁ!
おっと、逆鱗に
触れてしまったかな?
……殺す。
貴様は絶対に殺す!
私がこの手で!
落ち着いてください。
クレアさんらしく
ないですよ。
口を挟むなっ、アレス!
貴様も殺されたいかッ?
クレアさんが血走った目で
アレスくんを睨み付ける。
彼女が本気の敵意を
アレスくんに向けるなんて
正直言って驚いた。
でもアレスくんは全く動じず
満面の笑みでクレアさんを見つめる。
そうやって
ムキになるところ
ミューリエに似てるね。
違う! 似ていない!
貴様も下らないことを
口にするのかっ?
クレアさんは剣の切っ先を
アレスくんの喉元に突きつけた。
少し前へ突き出すだけで
アレスくんの頭と胴体は
分かれてしまうだろう。
さすがにこれにはタックさんたちも
間に入ろうとするけど、
それをアレスくん自身が制する。
普段は冷静なのに
怒った時は
見境がなくなる。
ホントにそっくり。
でもミューリエは決して
僕に本気の殺意を向けない。
それがクレアさんとの
大きな違いだ。
っ!?
ミューリエはミューリエ。
クレアさんはクレアさん。
全く別の存在だって
僕が保証するよ。
それぞれに自我がある。
自分自身の意思がある。
それは分身とは言わない。
だからクレアさんが
僕を殺したいと思うのなら
そうすればいい。
簡単だよ、僕は弱いから。
その剣を少し突き出せば
一瞬で片が付く。
…………。
その代わり、
あんな挑発に乗らずに
いつもの冷静さを
取り戻してください。
そしてみんなと一緒に
アイツを倒してください。
クレアさんは女王様に作られたタイプの
使い魔だということは知っていたけど、
そこまで詳しくは知らなかった。
自分の体の一部を使って生まれた使い魔は
主人との結びつきがより強くて、
まるで子どものように
性格や能力も主人に似るという。
一方、完全にコピーされることもなく、
固有の力や意識を持つことも
あるらしいけど。
ふ……ふははははっ!
自分の命と引き替えに
グランを倒せですって?
バカじゃない?
そんなのお断りよ!
クレアさん……。
他人に任せて
自分はあの世で
高見の見物だなんて
勇者のクセに無責任よ。
勇者なら最後まで
責任を持って戦いなさい。
私たちを
見殺しにしてでもね。
――まっ、
お優しい勇者様には
私たちを見殺しになんて
無理でしょうけど。
クレアさんっ!
クレアさんは屈託のない笑みを
浮かべていた。
それはまさに女王様の生き写し。
でも女王様よりも少し照れていて、
笑顔に慣れていないせいか
ちょっとぎこちない。
うん、アレスくんの言うように
クレアさんはクレアさんだ。
僕も保証する――なんて、
照れくさくて口には出来ないけどね。
次回へ続く!