僕は用意しておいた注射器を手に取り、
採血をしようとした。
その段階になって僕は気付く。

さっきの攻撃で大量出血をしているから
あまり多くは採れないということに。



いくら回復魔法の効果が出ているとはいえ
造血にはある程度の時間がかかる。
今、無理に採血をすると失血による
ショック症状が出てしまうかもしれない。

そもそもこうした状態で採血をするなんて
ありえないシチュエーションだ。
どうなるか分かったもんじゃない。

うまく生き残れたら
知識として蓄積されるかもだけど……。



ははは、そんなことを考えちゃうなんて、
これもまた薬草師としての職業病かな。
 
 

グラン

ぐぁああああ……。

トーヤ

えっ?

 
 
――その時だった。

ミリーさんたちの攻撃を受け、
グラン侯爵はその場に倒れ込んで
動かなくなった。


あり得ない。
そんなことはあり得ない。
不老不死のグラン侯爵が死ぬなんて!
 
 

アレス

これは……!?

シーラ

どうしたのです?

アレス

みんなっ、油断しないで!

ミリー

えっ?

タック

まさかコイツは……
偽物かっ!

グラン

半分正解、半分ハズレだ。

 
 
柱の影から声がした。
直後、
その声の主は僕たちの前に姿を現す。

それは倒したはずのグラン侯爵だった。
 
 

グラン

そいつは私の体の一部を
媒体としたキメラだ。
そこに変身魔法をかけて
より本物に近付けたわけだ。

アレス

なるほど。
それで半分正解、
半分ハズレということか。

グラン

その通り。
おかげで貴様らの
戦い方をこの目で
学習できた。

グラン

まず誰から殺すべきか――
これでハッキリしたよ。

グラン

はーっはっはっ!

タック

ちぃっ!
この数百年の間に
余計な知恵を
付けやがって。

グラン

まずは勇者と巫女。
貴様らが最も危険だ。
報告は受けていたが
これほどの力とはな。

グラン

おぉ、怖い怖い。

 
 
わざとらしい口調で言い放つグラン侯爵。
薄笑いを浮かべて
アレスくんたちを見やる。

そして間髪を入れずに彼の目が光った。
 
 

 
 
 
 
 

 
 
 

グラン

かぁっ!

 
 
 
 
 

アレス

うがぁっ!

シーラ

アレスっ!

 
 
グラン侯爵の目から光線が放たれた。
それは正確にアレスくんの心臓を射貫き、
その場に倒れてしまった。

慌てて駆け寄るシーラさん。
 
 

ミリー

危ないッ、シーラ!

シーラ

えっ!?

ミリー

あぁあああぁっ!

シーラ

ミリー!

 
 
咄嗟にシーラさんを庇ったミリーさんが
再びグラン侯爵の放った光線技を受けて
左腕が切断されてしまう。

傷口から大量に滴る血。

ミリーさんは口から泡を吹き、
全身を痙攣させている。
 
 

タック

ちくしょう!

 
 
 
 
 

 
 
 
 
 
タックさんが即座に結界魔法を発動させ、
僕たち全体を魔法の壁で包んだ。

それに呼応するようにライカさんが
ミリーさんに駆け寄って診断をする。
 
 

ライカ

大丈夫です!
今ならまだ
腕を繋げられます!

ライカ

クロードさん、
ミリーさんの腕を!

クロード

はいっ!

 
 
クロードがミリーさんの切り離された腕を
慎重に拾い上げ、
ライカさんのところへ持っていく。

おそらく今すぐに治療すれば
ライカさんの言うように
腕はくっつくだろう。

ただ、安静にしていないといけないから
戦闘を継続するのは難しいだろうな。



ミリーさんが自分の腕を犠牲にしてでも
戦いを続けるという選択をするなら
その限りじゃないけど……。
 
 

シーラ

ミリー!
私なんかをっ、
私なんかを庇ってッ!

 
 
シーラさんは自分を庇って重傷を負った
ミリーさんを見て気が動転している。

アレスくんのことから意識が離れるなんて
よっぽどショックなんだろう。
これじゃ、
回復魔法をお願いするのは無理だ。
 
 

トーヤ

今こそ僕が
なんとかしないと!

 
 
僕はアレスくんに駆け寄って
打ち抜かれた場所を見た。

すると着こんでいた鎧が
彼の体を守ったようで
光線を受けた場所が凹んだだけで
体は切り裂かれてはいなかった。



さすがは勇者の鎧。
伝説の武具というだけはある。

ただ、衝撃は体に伝わっているから
内臓はダメージを受けているかもしれない。
この内出血の具合から考えると、
少なくとも骨は折れているだろうな……。


気を失っているのも
その攻撃の激しさを物語っている。
いずれにしても急いで治療しないと。

僕は即効性の回復薬を
アレスくんに投与した。

すると程なくアレスくんは意識を取り戻し、
体を起き上がらせる。
 
 

アレス

トーヤくん……。

トーヤ

もう大丈夫だよ。

アレス

治療してくれたんだね?
ありがとう。

トーヤ

うん……。

 
 
ふと視線をミリーさんへ向けると、
彼女もライカさんの治療のおかげで
意識を取り戻したみたい。

ただ、すっかり戦意を喪失して
顔が真っ青になっている。
 
 

 
 
 
次回へ続く!
 

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