僕は不意を衝かれ、
カレンの剣による攻撃を
左脇腹に食らってしまった。


倒れ込んでしまう僕。
早くなんとかしないと手遅れになる。

薬草師だからこそそれが分かる。





でも分かってはいるけど、
体がいうことをきかないんだ……。
 
 

トーヤ

がふっ……。

 
 
あぁ……呼吸も苦し……い……。

刺し傷が消化器官を貫いて、
そこからの出血が
口へと逆流しているんだろうな。

もし気管へマトモに入り込んだら
むせることも出来ずに窒息死する。






はは……なんだろ……
こんな状況なのに冷静に体の状況を
分析するなんて職業病ってヤツかな……。
 
 

トーヤ

が……ぼぁっ……
がふ……ぅ……。

 
 
 
 
 

 
 
あぁ……目の前が暗くなっていく……。

それと同時に
不思議と痛みや苦しさが消えていくのは
死ぬ間際だからなのかな……。


ここまで来たのに……
志なかばというのに……
このまま死ぬなんて嫌だ……。
 
 

死なないで……っ!
死なないでくださいっ!
この世に帰ってきて!

 
 
 
 
 
 
 
 

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
誰かの悲痛な声がする。

なんだろう、傷口が温かくて心地いい。
全身の苦しみも徐々に消えていく。
これは……回復魔法か……?
 
 
 
 
 
 
 
 

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

トーヤさん!
トーヤさんッ!!

 
 
ゆっくりと目を開ける僕。
するとぼんやりと世界が
見えるようになってくる。


目の前で誰かが泣きながら
回復魔法を僕にかけている。
その温かな光が眩しくて気持ちいい。

この匂いには
カレンとは別の懐かしさがある。
 
 

ライカ

トーヤさん!
生きて再会すると
約束したでしょう!

トーヤ

ライカ……さん?

ライカ

っ!?

ライカ

気が付いたんですね、
トーヤさん!

ライカ

良かった!
トーヤさぁん!

 
 
 
 
 

 
 
 
 
 

ライカさんは仰向けに倒れ込んでいる
僕の体の上に覆い被さってきた。

なんだか照れくさい。


そして僕がチラリと横へ視線を向けると
僕を庇うようにクロードとクレアさんが
カレンと対峙して牽制している。
 
 

クロード

遅くなってすみません、
トーヤ。

クレア

間一髪だったわね。
トーヤを死なせたら
危うくミューリエに
叱られるところだったわ。

トーヤ

来てくれたんですね。

 
 
別行動を取っていたクロードたちが
合流してくれたようだった。
それでライカさんの治療によって
僕は一命を取り留めたらしい。


傷も体力も回復した僕は立ち上がった。
相変わらずグラン侯爵は暴れている。

ただ、その無作為な動きによって
ミリーさんやタックさんは
安易に近寄れないらしい。



一方、カレンは剣と魔法の構えを見せ、
クロードやクレアさん、ユリアさんと
お互いに隙を窺っている。
 
 

ライカ

大丈夫ですか?

トーヤ

助かったよ、ライカさん。
ありがとう。

ライカ

いえ、当然のことを
したまでです。
私は薬草師ですから。

トーヤ

ふふ、そうだね。

 
 
心強い仲間たちが合流してくれた。

これで少しは
戦いが有利に進められるかも。


ただ、さっきみたいに気を抜いたら
不意打ちを食らう可能性も
否定できないけど。
 
 

トーヤ

クレアさんとクロードは
グラン侯爵へ攻撃を。
ライカさんは結界魔法で
アレスくんたちを
守ってください。

クレア

分かったわ。

クロード

承知です。

ライカ

お任せください!

トーヤ

よし、あとは
アレスくんの力が
発動すれば僕が。

 
 
その時だった。
グラン侯爵の動きが鈍り、
振り回されていた剣も地面へと落ちる。

きっとアレスくんの力が
発動し始めたんだ!
 
 

グラン

ぐあぁあ……
今度は体が動かない。
これが話しに聞いていた
勇者の力か……。

アレス

みんな、
今だよ!

 
 
視覚を奪われ、
動きも封じられたグラン侯爵。

それを見るや否や、
ミリーさんとタックさん、クロード、
クレアさんが間を詰めて斬りかかる。


ただ、相手は不老不死だから
決め手にはならないだろう。




決着を付ける方法はただひとつ。
僕の血液を注射することだ!
 
 

 
 
 
次回へ続く!
 

第225幕 薄れゆく意識の中で

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