僕の指示を受け、
まずはユリアさんが剣で
カレンに斬りかかった。


おそらくふたりの剣の実力はほぼ互角。
それならアポロのサポートがあれば
押さえ込めるはず。

それにビセットさんもいるから、
任せておいて大丈夫だろう。
さらにエルムの援護もあるはずだし。




……そういえば、
現時点でのエルムのラーニングは
どんな技をストックしているのかな?

まぁ、エルムは賢い子だから
色々と考えてラーニングしているだろうし
適切に状況判断をして戦ってくれるはず。
 
 

トーヤ

僕はグラン侯爵との戦いに
集中しなきゃ!

アレス

行くよ、シーラ!

シーラ

はいっ!

 
 
アレスくんとシーラさんは
力の行使を始めた。
あの力が発動すれば
グラン侯爵の動きを止められるはずだ。

そうなった時こそ、
僕が自分の血液の入った注射器を
グラン侯爵へ打ち込むチャンス。
 
 

グラン

我が黙って見ているとでも
思うかぁ!

 
 
グラン侯爵は大剣を手に持ち、
アレスくんたちに向かって突進してきた。

あんなので一撃を食らったら
大抵の相手はひとたまりもない。
特にアレスくんたちは無防備な状態だし。


もちろん、
僕たちだってそれを許すわけもない。
剣を抜いたミリーさんが立ち塞がり、
グラン侯爵の攻撃に備える。
 
 

ミリー

させません!

タック

能力強化!

 
 
 

 
 
 
タックさんは攻撃力や守備力、
スピードなど
身体能力を高める魔法を
ミリーさんにかけた。

そして自身も短剣で援護へ向かう。
 
 

グラン

甘いわぁっ!

 
 
 
 
 

 
 
 
 
 

 
 
 
 
 

ミリー

なっ!?

タック

くっ……。

 
 
 
 
 

 
 
 
 
 
 
 
グラン侯爵は強烈な攻撃を繰り出した。
重い上に電光石火の一撃。

咄嗟に防御態勢へ切り替えた
ミリーさんだったけど、
そのまま吹き飛ばされてしまう。
グラン侯爵の勢いは全く衰えない。

そして返す剣でタックさんも
軽々と弾き飛ばされた。
小さな体が天井近くまで跳ねていく。




ニタリと微笑むグラン侯爵。
彼は突進しながら再び剣を振り上げ、
アレスくんたちに迫る!

でも――
 
 

トーヤ

いっけぇっ!

 
 
 
 
 

 
 
 
 
 

 
 
 
 
僕はフォーチュンにセットしていた
特殊弾をグラン侯爵に向かって放った。
それは狙い通りの軌道で
真っ直ぐグラン侯爵へ飛んでいく。


でも彼はそれを避ける素振りを見せない。
おそらく僕の一撃なんて大したことないと
高を括っているのだろう。




――そしてそれはきっと正しい。

銀や炸裂弾のように
殺傷能力の高い弾を使っても
僕の攻撃で
大ダメージを与えることは難しい。
 
 

トーヤ

でも攻撃は
ダメージを与えるだけが
目的じゃない!

 
 
グラン侯爵は僕が下民で、
カレンと一緒にいた薬草師だということを
認識しているかどうかは分からない。

ただ、箸にも棒にもかからないクズだと
思っているのは確かだろう。


だって僕は彼が意識するまでもない
弱い存在だから。
ゴミのような魔族だから。





でもだからこそ、隙が生まれるんだ。

一寸の虫にも五分の魂!
窮鼠猫を噛む!!
 
 

トーヤ

油断したことを後悔しろ!

 
 
 
 
 

 
 
 
 
 
僕は弾を放つと同時に駆け出した。
そして壁に叩きつけられて倒れている
ミリーさんのところへ向かう。

タックさんとミリーさんの位置を考えると
治療をするなら彼女の方が近いから。



直後、僕の放った弾――
照明弾がグラン侯爵に命中した。
弾は周囲の空間を飲み込むように
眩い光を放つ。
 
 

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

グラン

ぐぁあああぁ!
目がぁあああぁ!

 
 
グラン侯爵の悶え苦しむ声が
後ろから聞こえてくる。
おそらく照明弾の光を直視したのだろう。



あれは遠く離れた仲間に
位置を知らせる目的で使う弾。
決して攻撃用のものじゃない。

ただ、逆にそういう代物だからこそ
光量は強烈。
至近距離で直視なんかしたら
目が眩むのは当然だ。


幸い、アレスくんやシーラさんは
目を瞑って能力の行使に集中しているし、
ほかのみんなもカレンと戦っていて
照明弾の光をマトモに見る可能性は低い。
 
 

グラン

ぐぁああああ……。

 
 
グラン侯爵の方をチラリと見ると、
彼は片手で両目をおさえながら、
残った方の手で握った大剣を
闇雲に振り回しながら暴れている。


アレスくんやシーラさんとは
距離が離れていて彼らも無事だ。

これならもうすぐ力が発動するはず。
 
 

トーヤ

ミリーさん、回復薬です。

 
 
僕が回復薬を飲ませると、
ミリーさんはすぐに体を起き上がらせた。

彼女は物理攻撃に特化したタイプだから
魔法力の回復は考えなくていい。
傷と体力の回復のみに効く薬が
すばやく効果が出て回復量も大きい。
 
 

ミリー

ありがとうございます。
トーヤさん、
助かりました。

トーヤ

僕はタックさんの
治療へ向かいます。
ミリーさん、ご武運を。

ミリー

お任せを!

 
 
 
 
 

 
 
 
 
僕はミリーさんから離れ、
タックさんのところへ向かって
走り出した。


タックさんは上半身を起こしているから、
意識はあるようだ。
ダメージも思っていたほど大きくないかも。

でも万全の状態で戦ってもらえるように
回復をしておけば御の字だ。
 
 
 
 
 

アポロ

トーヤ、
危ねぇっ!

 
 
 
 
 

トーヤ

……え?

 
 
 
 
 

 
 
 
 
 

 
 
アポロの声が聞こえた直後、
僕の左半身に何かがぶつかってきた。
そして脇腹に溶岩のような熱さと
地獄のような激痛が神経を突き抜ける。

足がその場で止まり、
口の中に血の味が広がる。





こ……これ……は……。

懐かしい匂い。
すぐ横から漂ってくる。
 
 

カレン

もっと周囲にも
意識を向けなさい。
下民のクズくん♪

トーヤ

カ……レン……。

 
 
全身から力が抜けていく。
傷口は熱いのに、体は凍えるように寒い。
体を伝う血液の感覚が
次第に鈍くなっていく。


僕は踏ん張ることも出来ず、
その場に倒れ込んだ。
 
 

 
 
 
次回へ続く……。
 

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