翌朝。エリオット・アルテミスは侍女・アネットに会う為に城内を歩いていた。
その前夜、催淫剤も使用していないのに、それ以上の”快楽”を覚えた彼は不思議な感覚を肌で感じた。
ファノン・エクレールはあの時の行為の時に自分に言った。
”あなたは私と対となるために生まれてきた”皇子”なのよ”
と。だがその後、彼女が呟いたあの言葉が”突破口”になると思ったのだ。
”四時間も寝ていたのね”
彼が直感的に思ったのは、ファノン・エクレールは”不眠症”を患っているのではないか?ということだった。
なら、それを治すことが出来たら、もしかしたらこれが絶好のチャンスかも知れない。それを治した”報酬”として自分を元の生活に戻すことを承諾させる絶好の機会と思えるかも知れない。
今の彼を駆り立てるのは、この”想い”だった。別に金とか物とか、そんなものに自分は執着しない人間だし、それよりも日々の研究で人間の可能性を一つでも発見出来れば、彼にとってはそれは”宝物”に他ならないのだ。
確かにお金はあるに越したことはないし、生活を送るためには必要だ。物もあれば確かに最悪それを売ればお金の足しになる。宝石だったらなおのことかなりの金額で売れるだろう。
だが、研究で得たもの。自分がそれを発見したことが、彼にはかけがえのない喜びだった。それがもし、人間の進化につながるものなら、尚更それの方が意義を感じられる。
エリオット・アルテミスとはこういう考えの人間だった。
城を歩いて最初に訪れた場所は、彼がいつものように食事をする部屋だった。エクレール家の女性が支配する”背徳の宮殿”で彼が最初に案内された部屋。
確かにそこに侍女・アネットはいた。いつものように掃除に精を出している。
彼の姿を見た彼女はふと恥ずかしそうな表情をした。まるで何かをしてしまった自分に対する、一つの罪悪感みたいなものを感じている様子だった。
だが、とりあえず彼はそれを見なかったことにして、まずはファノン・エクレールを皆がいる場所に連れて来てもらいたいという依頼をすることにした。