もう、これで何回目だろう?自分の愛を無理矢理搾り取られて、身体を強引に犯されたのは?
 はっきりしない意識の中、濁流のような”快楽”と”苦痛”が彼・・・エリオット・アルテミスに襲い掛かっている。
 夜毎、彼はファノン・エクレールに無理矢理抱かれ、その身体を愛撫させられ、己の愛を捧げられてしまう・・・。

ファノン・エクレール

ふふふ・・・もう私の身体に慣れて、自分から腰を振っているわ・・・。あなた

エリオット・アルテミス

違う・・・。腰が勝手に動いて・・・

ファノン・エクレール

違うわね。あなたに流れる”特別な血”が、エクレール家の女を抱いて悦んでいるのよ

エリオット・アルテミス

うああっ

ファノン・エクレール

もっと・・・もっと私に頂戴?・・・私を選んで?エリオット?一生、贅沢をさせてあげるから・・・

ファノン・エクレール

だから・・・私を選びなさい・・・

 彼女に無理矢理快楽の絶頂へ行かされる。壁には狂気の笑顔を浮かべたピエロの仮面が・・・。彼は何故かそこから・・・まとわりつくような視線を感じた・・・。
 その”見られている”感覚が、彼を駆り立てる。
 ファノンの身体を抱きながら、彼はこう思った・・・。

エリオット・アルテミス

ピエロが・・・ピエロの仮面が見ている・・・!麝香に理性を絡め取られて、俺は深い奈落の闇の城へ連れて行かれる・・・。何が現実で何が夢なのかもうわからない・・・!

 そうして、拷問みたいな快楽の儀式を終える頃にはもう夜が明けて来ているのだ。
 ベッドの中で、荒い息遣いをあげ、気絶するようにして眠りに入った。
 そして・・・朝が来て、女性のメイド達がまた甲斐甲斐しく彼に仕えるようにご機嫌を取った。

メイド3

エリオット様。昨夜はお疲れ様でした。これから湯殿の準備と、本日は滋養強壮によい食事を・・・

エリオット・アルテミス

助けてくれ!

メイド3

はい?

エリオット・アルテミス

何で、俺がこんなに彼女に毎晩、強姦のようなセックスを強要されるんだ!?俺はただ研究に戻りたいんだ。元の生活に戻らせてくれ!

 そこに、アネット・エクレールが現れた。彼女の姿を見ると、女性のメイド達は一斉に身を引く。
 彼の尤もな質問に、彼女はこう答える。

アネット・エクレール

あなた様はもう、エクレール家の婿になっております

エリオット・アルテミス

結婚しているだと・・・?嘘だ。彼女の目はそんな目じゃないし、俺を一方的に凌辱したんだぞ!

アネット・エクレール

エクレール家に婿として入れば、あなたはずっと好きな研究を好きなだけ出来ます。ファノン様を選びさえすれば

エリオット・アルテミス

選ぶ・・・?何を?

アネット・エクレール

ファノン様を奥様として迎えることです

エリオット・アルテミス

冗談じゃない。彼女は、俺を・・・俺を・・・犯したんだぞ

アネット・エクレール

でも、悪い条件ではないはずです

エリオット・アルテミス

何故、俺でなければならない?

アネット・エクレール

それは・・・あなたが”女神の皇子”だからです

エリオット・アルテミス

女神の皇子・・・

 そこであのファノン・エクレールが姿を現した。相変わらず、傲慢そうに腕を組み、自分を見下すような視線を送っている。
 アネットが”女神の皇子”の話をしかけたことに気付いて、彼女は冷酷な声の響きして、彼女を罵倒する。

ファノン・エクレール

そこまで教えろとは言ってないわよ?アネット。あなたもこいつも僕であることを自覚していない様子ね

アネット・エクレール

お願いします。毎晩、彼を凌辱するようなセックスを強要しないであげてください・・・

ファノン・エクレール

それは、私に対する文句ということね。あなたは自分がどういう存在か弁えていないわね。やっぱり、平手打ちをくれないとわからないのかしら?

エリオット・アルテミス

や、やめろ!

 そこでファノン・エクレールがアネットの左頬に平手打ちした。思い切りたたく。彼女を頬を。アネットの頬には無残な痣が出来た。
 アネットがその左の頬を手で抑える。そして力なく座りこんだ。涙を流しかけている。
 そこで、彼、エリオット・アルテミスの怒りが頂点に達した。
 目の前で暴力を振った彼女に、彼は非難する。

エリオット・アルテミス

それが、あなたのやり方ですか。俺を殴るならわかるけど、何故彼女があなたに平手打ちをされなければならないのです?

ファノン・エクレール

この女は自分の立場をわきまえていないのよ

エリオット・アルテミス

違う。あなたの態度も問題だ。どうして、そこまで暴力で解決しようとするんだ?暴力を振るったところで、あなたが逆に敵を作ってしまう

ファノン・エクレール

敵がいるなら、叩き伏せるまでよ

エリオット・アルテミス

俺がその敵に回ってもか?

エリオット・アルテミス

今のまま、あなたにレイプされるくらいなら、俺は君のその強姦のようなセックスを拒否させてもらうよ

 そこでファノン・エクレールはまた、馬鹿にするような表情を浮かべた。憎悪に彩られた緑色の瞳がきらめいた。

ファノン・エクレール

ふん。取引が下手な男ね。そうやって男はすぐに舞い上がる。まあいいわ。私に必要なのは、あなたの肉体だけ。心も精神もいらないから、いっそのことまた薬漬けにするまで

ファノン・エクレール

催淫剤で”快楽”を貪るあなたを犯すのも美味だからねえ・・・

 そんな言葉を聞いた、エリオットはこの女は本当に自分本位でしか考えていない様子に見えた。心の底から怒りが湧いてくる。
 彼女はそんな彼に追い討ちするように、アネットに非情な命令を出した。

ファノン・エクレール

彼の私物は全部燃やしておきなさい?やらなかったらわかるわよね?

 そうして、ファノンがさっさと自分の自室に戻っていく。冷酷なハイヒールの靴の音が足早に聴こえなくなった。
 殴られたアネットに、彼が心配をして、声をかけた。

エリオット・アルテミス

大丈夫じゃないよな・・・。酷いことを君にする

アネット・エクレール

でも仕方ないこと。私はファノン様を裏切ってしまったから・・・

エリオット・アルテミス

一体、彼女はなんでああいうな態度をとっているのか、わからない

アネット・エクレール

ファノン様には、誰にも頼れる人がいないんです・・・。だから・・・いつも下僕のような男性を求めてしまう・・・

 そんな悲しい表情を浮かべるアネットの左の頬が腫れて来ていた。内出血をしているんだ!彼の左手がアネットの左の頬に触れる。
 そこで彼は咄嗟に機転を利かせて、控える女性のメイド達に指示を出した。
 

エリオット・アルテミス

確か、ここに・・!!

 彼が取り出したのは、マリーゴールドのハーブだった。それを使って急いで彼女の傷を治す。

エリオット・アルテミス

すまないが、このハーブティーを濃い目に抽出してもらいたい。それから、洗面器に氷と清潔な布巾かハンカチを

メイド1

は、はい!

エリオット・アルテミス

しばらく、横になった方がいい

メイド1

これでよろしいでしょうか?

エリオット・アルテミス

ありがとう

 彼が軽く礼をすると、その淹れられたハーブに布巾を濡らして、患部に当てる。こう説明をしながら。

エリオット・アルテミス

マリーゴールドの浸出液には、鎮痛と消炎作用があるんだ。これでその頬の腫れが引けばいいけどな・・・

 アネットが青い瞳を見開いて思っていたことは、彼に対する少しの好意だった。だけど、それがだんだん鼓動が大きくなるように脈を打っているいるのを彼女は自覚した・・・。

アネット・エクレール

聞こえませんように・・・。この高鳴る鼓動が・・・彼には聞こえませんように・・・。指先まで脈打っている

アネット・エクレール

エリオット様。私からきちんと願い出ておきます。ファノン様は私以外の人間には暴力は振るわない方です・・・。薬を使わないでほしいと私から言いますから・・・

エリオット・アルテミス

君・・・ファノンの従妹って聞いたけど。どうして、彼女はあんなまるで男を雄のように扱うんだ?

アネット・エクレール

ファノン様は・・・嫌っていらっしゃるのです。男の人も、いいえ、世の中の人間は全員敵だと思っているんです・・・

エリオット・アルテミス

全員、敵だと?じゃあ・・・ここで働くメイド達もそのことに・・・

アネット・エクレール

気付いていらっしゃいます・・・。でも、逆らったら、今度は自分が凌辱されてしまう・・・。そう思っているので、誰にも逆らえないのです・・・

 彼が手当てするハンカチに彼女の涙が流れる。アネットは今までどんな仕打ちを彼女に受けたのだろうか?
 今度は鼻から血も出てきた。
 余りにも酷い仕打ちをするファノン・エクレールに、エリオットはせっかくここまで来たのだから、少しこの城のことを調べてみようという気になれた。
 起き上がろうとするアネットを彼は引き止める。とりあえずはこのまま休んでいてもらいたいと彼は思った。

エリオット・アルテミス

無理に起き上がらないことだ。鼻血まで出ている。しばらくはそのハンカチを患部に当てて、休んでいなさい

アネット・エクレール

あの・・・?だったら、これを・・・

 彼女が彼に手渡したものは何かの薬だった。アネットが説明をする。

アネット・エクレール

あの催淫剤の中和剤です。ファノン様も飲まれています。これを飲めば、少しは意識をまともに保てると思います

エリオット・アルテミス

ありがとう・・・

 そこで彼はその中和剤を一気に飲みこんだ。少し咳き込む。思わず本音を漏らした。

エリオット・アルテミス

結構、これ、苦いね。でもこれなら、確かに効き目はありそうかな。助かったよ

アネット・エクレール

どこに行かれるのですか?

エリオット・アルテミス

ファノン・エクレールはいつもどこにいるの?

アネット・エクレール

このお城の地下牢か、もしくば最上階の自室です。でも、地下牢は入らない方が身のためですよ・・・?

エリオット・アルテミス

もしかして・・・俺のような”快楽”を得るための道具みたいな男がいるのか?

アネット・エクレール

はい・・・

エリオット・アルテミス

せいぜい、気を付けるよ

 そう優しい表情を浮かべて、彼、エリオット・アルテミスはこのフェニキア王宮の散策を開始した。
 今は彼は、普通の白いワイシャツに紺色のズボンを穿き、ネクタイはなしのラフな格好をしている。
 そうして、初めて垣間見たお城を散策した。途中で会うメイド達に道を教えてもらいながら、ファノンの下へ向かう。
 ファノン・エクレールの自室。そこには鎧兜を纏った女性兵士が片手に槍を持ち見張りをしている。凛々しい女性兵士だった。薄く化粧を施している。

女性兵士1

ここは、ファノン・エクレール様の自室です。無用の立ち入りはご遠慮ください

エリオット・アルテミス

その彼女に会いたい。取り次いでくれないかな?

女性兵士1

わかりました

 しばらく会話が聞こえる音がして、やがて彼は入室を許可された。

女性兵士1

どうぞ。お入りください

 そうして、ファノン・エクレールの自室に入った。彼が夜毎、快楽の拷問を受けた部屋・・・。
 相変わらず、彼女は腕を組んで、まるで見下したような態度で彼に接する。

ファノン・エクレール

珍しいじゃないの?あなたが自らここに来るなんて・・・?どういう風の吹き回しかしら?

エリオット・アルテミス

俺と素肌を重ねるのはしていい。その代わり・・・

ファノン・エクレール

その代わり・・・?また駆け引きなの?私に見返りは?

 憎悪に滾った緑色の瞳が冷徹な輝きを宿す。だが、ひるまないで言葉を絞り出す。

ファノン・エクレール

セックスさせてやる代わりに、自分の言うことを聞けとでも?

エリオット・アルテミス

しっかりしろ。ここで、催淫剤を使われたら・・・思いも何もかも思考が停止してしまう・・・。薬で考える力を奪われたら何も解決できない

 彼が自分に言い聞かせるように、自分に叱咤する。そうして、綺麗な紫水晶の瞳を彼女に向けた。

ファノン・エクレール

何様のつもり・・・?って言いたいけど、今日は大目に見てあげる。薬を使わなかったあなたの反応も見たいからね

 そうして、彼女が彼をベッドに押し倒す。彼が顔を背けてしまう。震えているのが自分でも判った。

ファノン・エクレール

相変わらず、被害者意識が強い人。あなた、私とのセックスに心から楽しんでいない?

エリオット・アルテミス

あれは・・・薬のせいで

ファノン・エクレール

へえ・・・?本当に?・・・なら、今度は私からの駆け引き。私は今日、指一本あなたには触れない。この唇だけであなたを喘がせて見せる。興奮させてあげる。あなたが快楽で喘いだら認めること

ファノン・エクレール

私とのセックスがこの世で最高の快楽であることに

 そうして、まずはねっとりとした濃厚なキスを彼にする。舌を絡ませて甘い吐息を絡める。唾液を絡める。彼は強引に瞼を閉じた。
 そのまま、彼の耳たぶに舌を這わせる。そして薄い白いワイシャツを剥いで、彼の胸を舌で愛撫した。乳首のところに舌を這わせる。
 彼が呻く。やがて、ズボンから分身だけを取り出したファノンは、激しい口戯を始めた。妖しく纏わりつくように舌を絡める。

エリオット・アルテミス

あうっ・・・

ファノン・エクレール

私の勝ちね

 彼女は上機嫌そうに呟いた。

ファノン・エクレール

ここを欲望でいきり立てて、まだ認めようとしないわけ?まだ被害者面をするつもりじゃないでしょうね?

ファノン・エクレール

どう?愛情なんてなくても”快楽”は得られるのよ。誰にも敵わない人間の雄の本能。でも男はそれを認めたがらない。自分が淫乱だなんて思いたくないから

 彼女の口戯が一段と激しく熱を帯びてきた。

ファノン・エクレール

あそこが欲望でいきり立っている。欲しくて欲しくてたまらないのでしょう?

 そのピエロの仮面の向こう側の壁には、実はファノンの命令でアネットがそのセックスを一部始終を見つめている。
 青い瞳を・・・密かな欲望で潤わせて、魔法の水鏡越しのセックスに触発されたように、自らの服を剥いで、自慰を始めてしまった。
 自分で露わになった乳首を転がす。花の芯を擦る。そこから欲望の蜜が滴る。

アネット・エクレール

あはあっ!!あん!ああっ・・・あん・・エリオット・・・!

 魔法の水鏡越しのセックスが白熱していく。それにつられて彼女も激しく自分の花びらをいじって欲望を満たしていく。
 そうして、アネットが悲鳴みたいな声を抑えて絶頂へ駆け上がる。彼女は恥ずかしそうに脱力していた・・・。

 その頃、エリオット・アルテミスは自分の腰が勝手に”快楽”を求めて淫らに腰を振っているのを自覚していた・・・。

エリオット・アルテミス

身体が勝手に動く・・・快楽を求めて・・・。もっと激しく・・・自分が壊れるくらいに・・・!!

ファノン・エクレール

エリオット。あなたは私と対になるために生まれてきた”皇子”なのよ。これほど身体の相性がいいのも既に生まれる前から決められていたこと・・・!女王が手にするべき高貴なる皇子!

エリオット・アルテミス

ああうっ!!

 彼女が自分の身体に密着させていく。彼も無意識で彼女を抱きしめ、そして彼女を絶頂へ導いていくようなセックスを初めてした。
 その彼女の柔肌が何故か懐かしく感じる・・・。
 そうして・・・激しいセックスを今夜もしてしまったエリオット・アルテミスは、ファノンを抱いてベッドの上にいた・・・。
 自分が信じられない。催淫剤も使用していないのに、それ以上に、気持ちが良かった。快楽を確かに感じた。

エリオット・アルテミス

俺は・・・頭がおかしいのか?どんなに身体の相性が良くたって、自分を犯した女の肌が”懐かしい”なんて

 そして、彼はファノン・エクレールの寝顔を見つめた。長いまつ毛に綺麗なローズピンクの髪の毛が乱れて咲いている。
 しばらくして・・・彼女が全裸で起き上がった。そして壁掛け時計を見て呟いた。

ファノン・エクレール

四時間も寝ていたのね。あなたとのセックスは、ここのかかりつけ医の出す睡眠導入剤より、効果があるわ。毎日でもしたいくらいね

エリオット・アルテミス

・・・眠れないのか?

ファノン・エクレール

あなたには、関係ないことよ・・・

 そこで彼はその眠れない情報で何かを掴んだ。そう。この地獄の城から出るための”突破口”である。

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