スアラはレインさんの
神滅剣によって滅され
その存在がこの世から消えた。

おそらく魂までもが消滅し、
アンデッドやモンスターとしても
二度と復活することは出来ないだろう。


でもその代償として、
神滅剣を使ったレインさんも
倒れてしまった。
 
 

トーヤ

レインさん!

 
 
僕は治療を試みようと駆け寄った。

もしかしたらエリクサーなら
なんとかなるかもしれないから。



頭の中では無理だろうって分かってる。
人間が禁呪を使ったらどうなるかくらい
僕だって知ってる。

でもこのまま何もしないままでいるなんて
僕には出来ない! 諦めたくないんだ!
 
 

レイン

…………。

トーヤ

っ!?

 
 
駆け寄っている最中、
レインさんの体は小さな光の粒子となって
風の中に消えていった。


最期に見たその顔は
満足そうに微笑んでいたような気がする。

そして僕が
レインさんのいた場所に辿り着くと同時に
彼女の体も完全に消えた。
 
 

トーヤ

あ……あぁ……。

 
 
ガックリと両膝を落し、うなだれる僕。
涙が止まらない。
止めようとしても勝手に溢れてくる。

レインさんは魔族に恐れられていたけど、
僕にとっては優しいお姉さん的な存在で
恩人だったんだ。
 
 

アレス

レインさん……
なぜあなたはいつも
自分を犠牲に……。

ビセット

それが自分の役割だと
意識していたのでしょうね。

タック

……みんな、行くぞ。
こんなところで
悲しんでいる場合じゃ
ねぇからな。

タック

悲しむのは全て決着が
ついてからにしろ。
立ち止まるな。

アレス

タック……。

トーヤ

タックさん……。

 
 
タックさんは僕たちに背を向けたまま
ひとりで先に歩き出した。

表情は見えないけど、
きっと僕たちと同じくらいに
悲しんでいるに違いない。

だってレインさんとは仲が良かったもんね。



タックさんは強いな……。
 
 

アレス

タックの言う通りだ。
先へ進もう。

 
 
アレスくんの声にその場の全員が頷く。
 
 

アレス

それにね、
僕にはレインさんが
亡くなったとは
思えないんだ。

アレス

だって
水中都市メーリンの時も
生きていたじゃないか。
きっといつかひょっこりと
顔を出すよ。

ビセット

ですね。なんだかんだで
レイン殿は
しぶといですからね。

シーラ

私もそう思います。

アポロ

本人がいないところで
ヒデェ言われようだな。

ユリア

いいんじゃない?
噂をしていれば
本当に現れるかも
しれないんだから。

ミリー

そうですよ。
これからももっと
レインさんの噂を
していきましょう。

エルム

楽観的すぎるのも
どうかと思いますが、
気分が落ち込むよりは
マシかもですね。

トーヤ

そうだね。

 
 
みんなメンタルが強いな。
さすが魔王ノーサスを倒した勇者様と
その仲間たちというだけはある。


僕ももっと強くならなきゃ。

そしてなんとしてでも
カレンやギーマ老師を助け出すんだ。
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
その後、僕たちは副都の奥へと進み、
いよいよ貴族院の建物が見えてくる。


かつては城として使われていただけあって
攻めづらい構造と防御力を
誇っているんだろうな。

敷地内も建物内も
迷路のようになっているに違いない。
 
 

エルム

兄ちゃん。

トーヤ

ん?

 
 
隣を歩いていたエルムが
不意にテレパシーで僕に話しかけてきた。

これは僕と彼が主従関係にあるから
出来ることなんだけど、
エルムは滅多にそんなことをしない。


どうしたというんだろう?
 
 

エルム

僕、しばらく前から
気になっていることが
あるんです。

トーヤ

気になっていること?

エルム

副都の結界、
消えていませんか?

トーヤ

えっ?

エルム

僕たちがダイスと
戦っている時は
結界がありました。

トーヤ

そうだね、それは僕も
確認してたよ。

エルム

でも勇者様たちと
合流した時点で
ユリアさんは召喚魔法を
使ってましたよね?

トーヤ

あっ!

 
 
エルムの言う通りだ。

自動人形やモンスターと戦っている時、
ユリアさんはゴーレムを召喚する
魔法を使っていた。

そういえばスアラとの戦いの時に
アポロも神聖魔法を使っていた。


もし結界があるなら僕たち王都側の魔族は
魔法が使えないはずだもんね。
 
 

 
 
 
次回へ続く!
 

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