アレスくんは
真っ直ぐエルムを見つめながら
彼に歩み寄った。

エルムにはどんな指示を
出す気なんだろう?
 
 

アレス

エルムくんは
ラーニングの能力が
あるんだよね?

エルム

は、はい……。

アレス

キミには今回の戦闘の中で
今後、役に立つと思う
誰かの技か魔法を
ラーニングしてほしい。

アレス

どれにするかは
キミの判断に任せるよ。
よく観察して
慎重に選択してほしい。

エルム

あ、あの……
それは構わないのですが
問題が……。

 
 
恐る恐る話しかけるエルム。

するとアレスくんはフッと頬を緩め、
やや膝を落としながら視線の高さを
エルムに合わせる。
 
 

アレス

ん、遠慮なく言ってみて。

エルム

クレアさんの
転移集合魔法は消えて
別のものに
上書きされてしまいますが
よろしいのですね?

アレス

うん。それと今後も
状況を見て自由に
ラーニングの内容を
変えて構わない。

エルム

っ!?

アレス

キミはキミの力で
何ができるか、
パーティ内でどういう
役割を果たすか――。

アレス

賢いキミなら適切な判断が
できるはずだ。
任せたよ!

エルム

勇者さん……。

エルム

は、はいっ!
お任せください!
絶対に役に立って
みせます!

アレス

んっ、お願い♪

 
 
アレスくんはエルムに微笑みかけると、
全ての意識を戦闘の方へと向けた。

そして周囲の警戒をしながら
戦況の推移を見て
適宜、指示を送っている。


なんだかその背中が
実際の数倍以上にも大きく感じる。
 
 

トーヤ

す、すごいなぁ……
アレスくん……。

 
 
アレスくんは指揮官としても立派に
役目を果たしている。

僕なんか足元にも及ばないよ……。




各々の能力を把握した上で
適切な指示を出すところもそうだけど、
エルムのやる気を引き出すところなんて
見事だとしか言いようがない。

エルムはあんなにも信頼されて任されて、
嬉しいだろうなぁ。
 
 

アレス

トーヤくん!
手がお留守だよ!

トーヤ

あっ! ご、ごめんっ!

 
 
叱られてしまった……。

僕は慌てて気を引き締め、
フォーチュンでの攻撃の準備を再開させる。



いけない、いけない……。

今は戦闘中なんだ。
アレスくんに追いつくためにも
ボーッとなんてしてちゃダメだ。
 
 

トーヤ

っ!?

 
 
 
 

 
 

 
 

 
 
 
 
 

 
 
ふと僕は遠くの上空から迫り来る
モンスターの姿に気が付いた。

今はゴマ粒ほどの大きさだけど、
物凄いスピードで近付いているのか
どんどん大きくなってくる。




ヤツはレインさんを狙っている!?
しかもまだ誰も接近に気付いていない。
 
 

トーヤ

僕がなんとかしなきゃ!

 
 
 
 
 

 
 
 
 
 

 
 
僕はフォーチュンに爆裂弾をセットし、
間髪を入れずに
そのモンスターの方へ向かって射出した。

これは射出してから一定時間が経ったり
何かに命中したりすると
小さな爆発を引き起こす弾だ。

しかも空気と共鳴して
甲高い音を発しながら飛んでいく。




殺傷能力は低い反面、
敵を怯ませたり注意を惹かせたりするには
最適なんだよね。
 
 

トーヤ

いっけぇえええぇっ!

 
 
 
 
 

 
 
 
 
 

レイン

っ!?

 
 
レインさんはモンスターの接近に
気付いてくれたみたいだった。

直後、大きく体を翻し、
かまいたちのような素速い動きで
モンスターを翻弄しながら
繰り出した魔法で返り討ちにする。
 
 

トーヤ

よしっ!

 
 
僕は心の中で満足げに頷き、
すぐに意識を周囲に戻す。

そして間を空けることなく
小石をフォーチュンにセットして、
手薄になっている方向から迫る
アンデッドやモンスターへ放ち続けた。
 
 

 
 
 
次回へ続く!
 

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