僕はこのピンチを乗り越える作戦を
思いついた。

これは僕の持っているいくつもの能力を
組み合わせることで可能になる作戦だ。



――それは麻酔で使う強力な痺れガスで
この場にいる全員の体を麻痺させて
動きを封じてしまうこと。
それならお互い無駄に傷付かなくて済む。


僕には状態異常無効化という
特殊能力がある。
つまりこの中で僕だけは
動くことが出来る。

だからその間に舟を操作して
この場から離脱してしまえばいい。


幸い、この密閉空間なら長時間に渡って
ガスを充満させることが出来る。
回避することだって難しい。

もし僕の意図に気付いたとしても
その時にはすでにガスの影響で
動けなくなりはじめているはずだ。





問題は調薬に少し時間がかかること。
手順は難しくないけど
用意する薬品の種類が多いのが問題だ。
 
 

トーヤ

ユリアさん、アポロ。
なるべく時間を稼いで。
僕に考えがある。

 
 
口の動きでラグナに内容を
悟られないように注意しながら
ボクは囁いた。

するとふたりは
視線をラグナの方へ向けたまま
静かに返事をしてくれた。
 
 

トーヤ

よしっ、すぐに調薬を
始めなきゃ!

 
 
僕は袋の中から
必要な材料や道具を取り出した。

薄暗いし揺れるけど、
この程度の悪条件なら
何度も調薬したことがあるから
問題はない。

もっと厳しい条件での調薬だってあったし。
 
 

アポロ

やいやい、
覚悟しやがれ!

ラグナ

その言葉、
そっくりそのまま
お返しします。
いつでもどうぞ。

ユリア

行くわよ、アポロ。

アポロ

あぁ!

 
 
アポロとユリアさんは武器を構え、
ラグナに攻撃を仕掛けようとしていた。

じっくりと隙を窺いながら
タイミングを計っている。


僕にとっては
それも時間稼ぎのうちに入るから
お互いに牽制し合ってくれているのは
ありがたい。
 
 

トーヤ

慎重に。
でもなるべく急いで。
失敗をしないように。

 
 
僕は着実に必要な薬品を用意していった。

それらを順番に混ぜていき、
最後は手のひら大の塊を作り上げる。
 
 
 

 
 
 

トーヤ

よし、いいぞ!
アポロたちがラグナに
仕掛ける前に完成だ!

 
 
これを海水の混じった水――
つまり僕たちの下にある水路の水に
融かしてやれば反応が起きて
この空間は麻酔ガスで満たされるはず。


あとは僕がフォーチュンを使って
攻撃に見せかけてこれを放ち、
こちらの意図を気付かれないように
わざと外して水に落とす。
 
 
 
 
 

トーヤ

ふたりとも、
僕が攻撃するから
下がって!

 
 
 
 
 
僕はフォーチュンを手にとり、
作った塊をセットした。

間髪を入れず
それをラグナに向かって放つ。
 
 
 
 
 

 
 
 
 
 

 
 
 
 
 
 
 

 
 
 

トーヤ

くっ! 外れた!

ラグナ

フッ、残念だったな。
下手くそめ。

 
 
ニタニタと笑うラグナ。
僕を蔑むような瞳で見ている。



でもこれでいい。
この状況は僕の狙い通りだからだ。

塊は僕の計算通り、ラグナの手前で落ちた。
あとはあれが水に溶ければ
この空間は麻酔ガスで満たされる。

しかもその発生源に近いラグナから
効果が現れるはずだ。
 
 
 
 

 
 
 
 
 

ラグナ

ん?
なんだこの白い煙は?
それにこれは……!?

ラグナ

ぐ……体が……
痺れていく……。

トーヤ

よしっ!

 
 
ラグナの足下付近から
麻酔ガスが発生し始めた。
それはあっという間に勢いを増して
周囲を包み込んでいく。

当然、アポロたちにもその効果は現れ、
その場に倒れ込む。
 
 

トーヤ

みんな、大丈夫だよ。
すぐに中和薬を
投与するからね。

トーヤ

でもその前にこの場を
離脱するから。

アポロ

そ……うか……。
これが考え……って
やつか……。

トーヤ

少しだけ辛抱しててね。

 
 
僕はアポロに代わって操舟を始めた。

そしてすぐに
ラグナや兵士のいる舟に接近し、
それを横目に見ながら通り過ぎて
奥へ進んでいく。



薬がしっかり効いているのか、
彼らは倒れ込んだまま動かない。

この麻酔ガスはそう簡単には
この空間から排出されないはずだから
数時間程度じゃ効果は消えない。

うまくすれば数日はこのままだ。
 
 

ラグナ

…………。

トーヤ

もし僕が非情だったら
この間にあなたへ
毒を注射して
殺していたかもね。

 
 
本音としては、
カレンに酷いことをしたラグナに
それ以上のことをしてやりたい。

罪に対する罰を与えてやりたい。




でも今は優先すべき目的がある。

それはカレンやギーマ老師を助け出すこと。
作戦を成功させること。
不老不死の薬を使った者を止めること。


私怨に取り憑かれ、
ここへ来た本来の目的を忘れてはいけない。
 
 
 

 
 
それからしばらく水路を進み、
麻酔ガスの影響が出ない位置まで
辿り着いたところで
アポロたちに中和薬を投与した。

すると程なく彼らは痺れから解放されて
ゆっくりと体を起き上がらせる。


もっとも、しばらくは薬の影響が残って
うまく体が動かせないかもだけど。
 
 

トーヤ

おはよう、みんな。

アポロ

トーヤ、お前は
あのガスの
影響がないんだな?

トーヤ

まぁね。
薬草師だから対策が
色々とあるんだよ。

ユリア

なるほどね。

エルム

さすが兄ちゃん。

 
 
状態異常無効化の特殊能力があることは
この場にいるみんなにはまだ秘密だ。

今回の騒動が解決して
落ち着いたら話そうと思う。
 
 

アポロ

おっ、前方が明るく
なってきたぞ。
もうすぐ出口なのかもな。

トーヤ

そうだね。

 
 
おそらくお城のどこかへ出るのだろう。

思っていたよりもすんなりと辿り着いて
ちょっと拍子抜けだけど、
それはそれでいい。


カレン、もうすぐ助けに行くからね。
 
 
 
 
 
 
 
 

 
 
 
 
 
 
 
 

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
前方に眩い光が広がった。
どうやら水路を抜けたらしい。

思わず閉じた目をゆっくりと開き、
周囲の様子を確認する。



するとそこには――
 
 
 
 
 
 
 
 

 
 
 
 
 
 
 
 

兵士

…………。

兵士

…………。

 
 
なんと大量の兵士が待ち受けていた!


みんな一様に剣や槍を構え、
その切っ先はこちらを向いている。
逃げ場なんてない。

水路へ戻ろうにも背中を見せた瞬間に
槍を投げられて体を貫通することだろう。





やっぱりそんなにうまくいくわけがない。

ホッとしたのが一転、
逆にこれは最大のピンチかも……。
 
 

 
 
 
次回へ続く!
 

第209幕 地下水路での必勝作戦

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