それからしばらく下水道を進んでいくと、
ユリアさんは何の変哲もない場所で
アポロに舟を止めさせた。
どうしたんだろう?
それからしばらく下水道を進んでいくと、
ユリアさんは何の変哲もない場所で
アポロに舟を止めさせた。
どうしたんだろう?
地図によるとここに
隠し通路への分岐点が
あるはずよ。
アポロ、この壁を
探ってみて。
よっしゃ。
こういう作業は
盗賊をしていた俺の
得意分野だ。
そっか。
アポロたちと初めて
出会った時は
そうだったね。
懐かしいわね。
ま、今はすっかり
足を洗ったけどな。
アポロは手で感触を確かめたり
軽く叩いてみたり、
下水道の壁を丁寧に調べていった。
そしてすぐに何かを探り当てたのか、
口元を緩めて得意気な顔をする。
――と、見つけたぞ。
ここにある石が
押せるようになってる。
トラップはないみたいだ。
アポロが壁の石を押すと轟音とともに
壁の一部がせり上がっていった。
すると辺りには少しだけ砂埃が舞って、
さらに壁の奥から涼しげな風が
こちらに向かって吹いてくる。
ランタンを向けてみると、
水路はずっと奥まで
続いているのが見えた。
その壁は整形されたきれいな石を
積んで作ってあって、
まるで城壁のようだ。
いずれにしても下水道の壁とは
明らかに作りが違うのはハッキリ分かる。
しかも水路の幅も高さも
今まで通ってきた下水道の3倍ほどある。
いかにも
隠し通路っぽいな。
バカねぇ。
隠し通路なんだから
当たり前じゃない。
ですが、これは
嫌な予感がしますね。
嫌な予感?
この空間なら侵入者、
あるいは
城から脱出する際には
追撃者を迎え撃てる
じゃないですか。
そういう造りに
なってるんじゃ
ありませんか?
あ……。
エルムの言うことはもっともだ。
アポロやユリアさんも
同じことを思ったようで
表情が固まっていた。
額には冷や汗か浮かび、
苦笑いをしている。
そういう嫌な予感ってさ、
大抵は当たるんだよな。
おバカ。
思ってても言わないのが
お約束でしょ。
本当になりそうだもんね。
その予感、当たりですよ……。
っ!?
不意に水路の奥から声が響いてきた。
それから程なく指揮官らしき人物と
数人の兵士たちが小舟でやってくる。
まぁ、待ち伏せをされている
想定だったから
やっぱりなって感じだけど。
ただ、小物ばかりで
拍子抜けしました。
ラグナさん……。
僕たちの前に立ち塞がったのは、
カレンの家で執事をしている
ラグナさんだった。
まさかこんな場所で
遭遇することになるなんて。
もちろん、
相手が誰であろうと
通しませんがね。
ここを守るのが
私の役目ですから。
それにそこのゴミ、
確かカレンお嬢様に
付きまとっていた
下民でしたね。
ぐ……。
始末すればグラン様に
お褒めいただける。
さらにお前の亡骸を
お嬢様へ見せれば、
邪魔な本来の人格を
徹底的に破壊できる。
ど、どういう意味だ?
教えてあげましょう。
カレンお嬢様は
そもそもグラン様が
王都へ送り込んだ
スパイなのですよ。
っ!?
そんなの嘘だッ!
僕の言葉にラグナさん――
いや、ラグナは鼻で笑った。
カレンがスパイだったなんて
信じられない。
それに彼女の無垢で優しい心は
本物だったって僕には分かってる。
だけどラグナはそんな僕の心を
見透かしたように話を続ける。
当然、お前の知っている
カレンお嬢様には
そんな自覚などない。
カレンお嬢様には
魔法の儀式によって
別の人格を埋め込んで
あるのですよ。
えっ?
強制的に作り上げた
多重人格者と言えば
分かりやすいでしょう。
そのもうひとつの人格が
我々に情報を流して
くれていたのですよ。
っ!?
それを聞いて僕はハッとした。
ウィル船長の船で
最初に副都へ向かった時、
船倉で様子がおかしいカレンと
遭遇したことがあった。
――そうか、あれはカレンであって
カレンではない人格だったのか。
それなら色々と辻褄が合う。
僕を襲ったのも、
そのことを覚えていなかったのも当然だ。
次回へ続く!