そう言い、ポケットに手を入れたまま立ち上がるランディ。
つーか、今日は自由だよな。
挨拶だけのつもりだったから
俺は出るぜ。
色々と準備もあるし。
そう言い、ポケットに手を入れたまま立ち上がるランディ。
修練場には行くのかよ?
ダナンが落ち着き払った表情でランディに問う。
愚問だっつーの。
一言で返事をしたランディは、ミリーナに手振りで礼を表し、そのまま酒場を後にした。
あの野郎は何か知ってやがる。
そうなら待ってらんねぇ。
酒場を出たランディは、指定された時間など待ちきれず、コフィンが既に修練場にいないか先に行こうとしていた。
ランディ、
アタシもついて行くわ!
自分も何となく
ついて行くっす。
ランディが後ろを振り向くと、不敵な笑顔を見せるシャインと、笑顔満開のハルが立っていた。
自分、ハルっす。
ハル=ビエント。
これからよろしくっすよ♪
シャイン=ウェザードよ。
そのままシャインでいいわ。
コフィンの事を
探してるんでしょう?
見透かしたかのように話すシャイン。
顔を合わせてから短い時間だが、ランディがペンデュラムに固執するのは直ぐに分かっていた。シャインの目的は一獲千金なので、ランディの目的に協力しつつ、ペンデュラムを倒せば王室からガッポリ報酬がもらえるかも? などと、儲かる可能性を見いだそうとしていたのだ。
ちなみにハルは面白そうというだけで着いてきたらしい。
コフィンを探す宛もなかったランディは、シャインとハルに軽く挨拶し受け入れた。
ペンデュラムの情報を引き出したいシャインは、訓練所とは真逆の場所にコフィンがいるかもしれないと告げる。歩く時間を得たシャインは、ペンデュラムの事を聞き出す。ランディから見れば、協力者に情報提供するのは当然なのでゆっくりと順を追って話し始めた。
現在の善政を築き上げてきた王政。
それに反発する組織。
規模や構成員が全く不明の組織だが、
決して表には顔を出さず
反王政行動を行う集団が居るという。
巷ではその名前だけを知るものが殆どで、
酒場で酒の肴にされているだけなのが現状。
それ故、いい加減な噂話も多く、
情報の信憑性は低いものが殆ど。
ランディが得た情報で
唯一信憑性の高いものは、
ペンデュラム=冒険者というものだった。
王政側はペンデュラムに対して
無関心の態度を取っている。
確かに実害はなく、
正体の分からぬ者を割り出す労力を考慮すると、
放置も頷けるということだ。
聴けば聴くほど、その実態が靄にかかっていく気分だ。反面、刺激的な物語としては想像を掻き立てられる。
魔物が這出る迷宮の謎はあれど、善政により統治され平和が築かれた日常。その日常のスパイスに、まことしやかに語られる物語。それがペンデュラムエリー。
そもそもペンデュラムエリーと言う名前の由来は、その時分に流行った絵本の一つ、『占い師エリー』がモデルなのだ。振り子を使う占い師・少女エリーが、物事の分別を読者に問うストーリーが、老若男女に受けた。
善政をしく現王政の是非を問う組織。それはその喉元に死神の鎌を振り子の様に振る者というイメージから名付けられたようだ。
へぇ~。
で何でそんな奴等のこと
調べてんのよ?
色々あんだよ、
ほっとけっつーの。
(ウルウルウルウルウル)
何だてめぇ、気持ち悪ぃなー。
目を潤ませんじゃねぇ!
気色悪ぃ、って泣くなよ、
っゎーったよ、
話すから泣くなっつーの。
シャインは、少し渋い表情で歩いている。
王政側が放置の態度を取っている限り、懸賞金もない。シャインの考えは脆くも崩れさった。だが、報奨金という形なら状況次第では有り得ない事ではないと考えた。
だがランディが話していた様に、政府高官故にランディの母親が殺された、という情報が事実なら、危険度は一気に上昇する。核心に迫った者の命は危険にさらされるというわけだ。
表むきに調査する事は、シャインにとっては避けた方が無難なようだ。
でも危なくないっすか?
だろーよ。
だがそんなもんは
望む所っつー感じだな。
ランディにとっては、単純に情報収集という意味もあるが、その危険が向こうからやってくるのは大歓迎。その危険には真実味があり、貴重なペンデュラムの情報が得れるかもしれないからだ。
それだけのリスクを背負っているランディの元に、ペンデュラムを匂わす言葉を放ったコフィン。気にならない訳がないのだ。それに侮辱ともとれる言葉に、神経を逆撫でされた事も相まって、ランディの気をはやらせていた。
おい、もうすぐ
冒険者区の端っこに着くぞ。
どこに居んだ?
シャインが適当に目指していた場所に、コフィンは当然居なかった。
目の前には古物商。はっきり言って居るわけがない。不自然な店を目指してしまっていたので、シャインは突発的にコフィンの趣味だと大ボラを吹いた。
その後、ホラ話ついでに、もう一件ある古物商に向かうシャインとランディだった。