今から修練場に行っても少し早いが、あちこち動き回るよりどっしりコフィンを待つ事にしたランディ。それに既にコフィンが先に来ている可能性も否定できないからだ。

 シャインとハルも二つ返事で修練場を目指す。二人で修練場を目指す道中、コフィンの事をランディに話した。

 雑踏の大通りを抜けると、訓練場が見えてくる。

 修練場は訓練場内にある施設の一つ。
 訓練場の中でもかなりの面積を占めている場所だ。 訓練生だけでなく、冒険者も使える施設となっている。



 迷宮ほどではないが薄暗く、だだっ広い部屋から細長い部屋、六人と魔物を入れたらとても戦いにくい小さな部屋が用意されている。迷宮内の通路を想定した場所もあり、実戦形式と言える造りの建物もある。

 そんな実戦形式の部屋でもなく、何もないフリースペースも広く取られており、裏庭に近い野外にランディは居た。現在の時刻からすれば、殆どの訓練生は昼食でいない。

 修練場には全員が来ていた。物騒な事にならないかと、アデルとロココは心配そうな顔を見せていた。


 そして約束の時間にもうすぐなろうかというところで、コフィンが姿を見せた。

コフィン

お待たせしま……

ランディ

くだらねぇ挨拶は
いらねぇっつーの。
ペンデュラムの事
知ってんなら話しやがれ!

 コフィンを目の前にすると、熱くなるランディ。好戦的な視線でコフィンを睨めつけている。それを受けて動じる事のないコフィンは、 泰然たる態度で上着を脱ぎ脇に置いた。

コフィン

それならば、
これを見て判断すると
いいでしょう。

 コフィンがシャツの袖をまくると、何か黒いタトゥーが見える。何の形だろうか。大きな鎌が振り子の様に……!!


 シャインは此処に来るまでランディが話していた事を思い出した。

 占い師エリーの話。ペンデュラムエリーの語源になった一つの絵本。

 振り子を使い占う少女エリーの物語をなぞらえて、反王政組織の名前を誰かがペンデュラムエリーと呼んだのだ。現王政の是非を問うように、死神の鎌を振り子の様に振り、首元に突き付ける姿をイメージして……。

 コフィンのタトゥーは、まさにその死神の鎌を振っているデザインだ。つまり、そう、コフィンはペンデュラムの一員の可能性が高いという推測に繋がる!

 リュウとユフィは即座に気付く。それにコフィンの相方であるアリスが、誰よりも眉を潜めていた。

ランディ

…………

 無論、ランディもとっくに気付いている。

 ペンデュラムに会えば、色々と聞き出すつもりだったが、酒場での言葉が口をついた。

ランディ

色々聞きてぇ事もあるけどよぉ
返り討ちとか
言ってくれたのを
確認してみっか。

 無造作にコフィンに近付くランディの手には、一振りの長剣が握られている。一触即発の空気の中、鞘から銀色の刀身が抜かれた。

 周囲の者達が止める間もなく、速度のある切り払いがコフィンを襲う。

 金属の衝突音が修練場に響き渡る。この場所では珍しい事ではないが、これは訓練や練習ではない。真剣による私闘と言ってよい。



 コフィンは抜剣と同時に攻撃を捌き、ランディとの立ち位置を入れ替えた。

ランディ

本気で来いっつーの。
切りがいがねーだろーが!

 目に燃えたぎる炎を宿らせたランディは、コフィンに銀色の刃を向ける。

コフィン

既に切られた事も
気付かない者に、
本気など出す必要はありません。

 コフィンの言葉の意味を理解した直後、ランディの両膝から力が抜けていく。両膝下数センチの脛部から、多量の出血が目に飛び込んでくる。激痛と共に両膝を付くと、調度傷口に体重が掛かり、更なる激痛が身体中を駆け回る。

コフィン

そもそも若造でありながら、
私に剣で挑んで来るなど
油断しすぎです。
まぁその程度なら油断せずとも
力量も知れたものでしょう。
ペンデュラムに関わった時点で、
遅かれ早かれ死ぬ事には
変わりありませんでしたね。

 片手に持った長剣を構えず下げたまま、ランディにゆっくり近付くコフィン。

 ランディは激痛も忘れる程の殺気をコフィンから感じた。

 ~兆章~     103、油断

facebook twitter
pagetop