ユリアさんの声が響くと同時に
僕は前方へ突き倒された。
直後、閃熱の帯が頭上をかすめていき、
前方で炸裂する。

――その場に響く轟音と漂う高熱、
焦げ臭い煙。
 
 
 
 
 
 
 
 

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

ユリア

か……は……。

アポロ

ユリア!

 
 
上半身を起こして振り向くと、
そこではうつ伏せに倒れ込んで
低くうめいているユリアさんの姿があった。

アポロはそのかたわらで真っ青な顔をして
彼女の体を揺すっている。


よく見るとユリアさんの背中の部分は
服が黒こげになり、
露出した肌はひどい火傷を負っている。



まさ……か……僕は庇われた……?
 
 

ダイス

チッ! 勘のいいヤツめ。
攻撃に気付かなければ
ザコども全員が揃って
楽に死ねただろうに。

 
 
ダイスは広げた手のひらを前方に突き出し
ニタニタと怪しく微笑んでいた。

その手のひらでは、
魔法力で生み出された残火が
少しずつ収まっているのが見える。


つまりこれは
ダイスの魔法による不意打ち。
無防備な僕たちを後ろから
攻撃するなんて!

――なんて卑怯なんだッ!!!!!!
 
 

トーヤ

許せない……許せない!

トーヤ

……でも今は
ユリアさんの治療を
優先しないと。

トーヤ

アポロ、どいて!
すぐに治療するから!

アポロ

…………。

 
 
アポロは黙ってその場を退いた。
やや俯いているせいか、
その表情はフードに隠れていて見えない。

ただ、その握った拳は小刻みに震えている。
 
 

アポロ

……トーヤ。
ユリアを頼む。

トーヤ

あ……う、うん……。

 
 
低くて落ち着いているようなアポロの声。
なんだろう、
いつものおちゃらけた雰囲気は全くない。

そして彼は僕たちを庇うような位置に立って
ダイスの方を向いている。


一方、僕は袋から経口回復薬を取り出して
ユリアさんに飲ませた。
そのあと、
軟膏タイプの回復薬を患部に塗る。


――この二重の回復効果で容態は劇的に
改善するはず。
 
 

ユリア

トーヤくん……。

 
 
苦痛に満ちた表情が
ユリアさんからすぐに消えていった。
ちゃんと薬が効いているみたい。


ただ、火傷の痕は
しばらく残ってしまうかも。
これに関しては継続した治療が必要だ。

く……女の子の体なのにこんな傷が……。
 
 

トーヤ

すみません、
僕がもっと注意していれば。

ユリア

リーダーを守るのは
当然じゃない。
それよりも
キミが無事で良かった。

 
 
ユリアさんは
僕を慰めるように微笑んでくれる。

でもそれがかえって苦しいし、
この苦しみを絶対に忘れちゃいけない。
 
 

アポロ

…………。

 
 
 

ザッ

ザッ     

  ザッ
 
 

トーヤ

アポロ?

 
 
ユリアさんが回復するのと同時に
アポロはダイスへ向かって
ゆっくりと歩き出した。

その際、僕が事前に渡しておいた
魔法力の回復薬が入った瓶を
懐から取り出し、
コルクの栓を口で開けて中身を飲み干す。


ほどなく彼は立ち止まり、
人差し指をダイスに向ける。
 
 
 

 
 
 

アポロ

ダイスとか言ったな?
――テメェは俺が殺す!
なんとしてでも殺す!!

アポロ

八つ裂きにして、
臓物をモンスターの
エサにしてやるッ!!!

ダイス

ククク、出来るのか?
力のないお前に?

アポロ

お前はユリアを傷付けた。
俺たちを卑怯な手段で
殺そうとした。
万死に値する!

ダイス

卑怯?
隙を見せたお前たちが
悪いのだ。

アポロ

俺の最強魔法で
ぶっ殺してやる!

ユリア

っ!?
ダメっ、アポロ!
あれは――!

 
 
アポロの言葉を聞いた途端、
ユリアさんは眉を曇らせて叫んだ。
しかもまだ回復しきっていない体なのに
アポロを止めようとして藻掻いている。

ただ、体を起こすので精一杯で、
表情を歪めながら
アポロを見つめることしかできない。



――彼女がここまで狼狽える姿、
初めて見る。



そんなユリアさんに対して、
アポロは全く意に介していない。
 
 

アポロ

ユリアは黙ってろ。
俺は完全にキレたんだ。

ユリア

でもっ!

 
 
 
 
 

アポロ

うるせぇっ!

 
 
 
 
 

ユリア

っ!?

 
 
アポロの激しい叱責に
ユリアさんは体をビクンと振るわせた。

そばにいる僕も怖さを感じるほどだ。
 
 

アポロ

リスクなんて
承知の上なんだよ。
破邪魔法が効かねぇんだ、
奥の手を使うしか
ねーだろーがよ。

アポロ

なんとしてでも
ヤツを殺す。
そうじゃねぇと
気が収まらねぇ!

アポロ

クレアさん、
離れててくれ。
巻き添えを
食いたくないならな。

クレア

…………。

 
 
その殺気と重苦しい空気を察したのか、
クレアさんは大人しくその場から離れる。

こうしてアポロはダイスと
一対一で対峙した。


彼はいったい何をする気なんだ……?
 
 

 
 
 
次回へ続く!
 

第201幕 卑劣なり、ダイス!

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