アポロが魔法の詠唱を始めると、
彼の足下には
魔法力で出来た魔方陣が浮かんだ。

そして淡い銀色の光に包まれていく。



あれはおそらく破邪魔法――



本来、僕たち魔族には扱えない、
対魔族用の攻撃魔法だ。
これは特異体質を持つアポロだからこそ
出来る芸当だ

さすがにダイスも驚いているのか、
目を丸くしている。
 
 
 
 
 

アポロ

食らえッ、破魔滅砕陣!

 
 
 
 
 

 
 
 
 
 
アポロの叫び声とともに、
彼を覆っていた銀色の光が
掲げた両手の上で収束した。
それがダイスに向かっていって降り注ぐ。

この魔法は破邪魔法の中でも最高位。
まともに食らえば
大抵の魔族は消滅してしまうし、
高位の魔族でもただでは済まない。
 
 
 
 
 

 
 
 
 
 

アポロ

どうだ!
肉片すら残らねーだろ!
俺を舐めてるから
こういうことに
なるんだよ。

 
 
 
 
 
 
 
 

ダイス

……舐めてなどおらんよ。

アポロ

なっ!?

 
 
光が収まった向こう側には
なんとダイスが先ほどと変わらぬ姿で
立っていた。

しかも見る限り、
ダメージを受けている様子がまるでない。
少なくとも外傷は皆無だ。



……僕は夢でも見ているのだろうか?
あれを食らって無傷だなんてありえない。
 
 

ダイス

まさか魔族の身で
破邪魔法を使うとは。
確かに多少は驚いたぞ。

ダイス

だが!
それでも私の実力には
遠く及ばぬわ!

アポロ

う……そ……だろ……。

トーヤ

…………。

 
 
――おかしい。

魔族やそれに準ずる種族であれば
破邪魔法によるダメージを
受けないはずがない。


もし無傷ならダイスは魔族以外の種族か
何らかの方法で
それを防いだということになる。

いや、あの気配は紛れもなく魔族。
ということは、破邪魔法に対して
その威力を無効化する何かがあるのかも。
 
 

ダイス

これで己の無力さが
分かっただろう。
安心しろ、
クレアを片付けたあとで
ゆっくり殺してやる。

アポロ

くっ……。

ダイス

あるいは逃げたければ
逃げてもよいぞ。
ザコの一匹や二匹、
どうにでもなるからな。

ダイス

それくらいの情けは
かけてやる。
私の優しさに
感謝するがよい。

クレア

みんな、行きなさい!
この場は私が
なんとかするわ!

 
 
クレアさんは
ダイスへ視線を向けたまま叫んだ。
つまりこちらを振り向く隙を与えるのも
危険な相手なんだろうな。


まぁ、破邪魔法を食らって
無傷なくらいだから
その実力はなんとなく分かるけど。



でもこのままクレアさんだけに任せて
戦線離脱をして良いのだろうか?

するとそんな僕の気持ちを
察したかのように
クレアさんは言葉を続ける。
 
 

クレア

大丈夫。
これは私たちにとっても
好都合だから。

クレア

この場でダイスを
足止めできるなら
私たちの本隊へ向かう
戦力を削げる。

ダイス

それはこちらのセリフ。
ほかのザコどもはともかく
クレアが勇者どもに
合流されては
厄介だからな。

 
 
……悔しい。

でもこの場はクレアさんに任せて
僕は僕の役割を果たすのが大事だ。
最終的な目標を見誤ったらいけない。


僕の存在こそが
今回の作戦の鍵を握っている。
こんなところでモタモタしていられない。

だから僕はこちらの真意を
ダイスに悟られないよう
それらしい理由を
みんなに向かって言い放つ。
 
 

トーヤ

……行こう、みんな。
僕たちがいても
クレアさんの足手まといに
なるだけだ。

アポロ

くっ……。

 
 
 
 
 

 
 
 
僕はダイスにチラリと視線を向けて
睨み付けると、
即座にその場から駆け出した。

そして副都のある方へ向かって
砂浜を疾走する。

するとアポロたちも
僕に続いて後ろから付いてくる。
 
 

ユリア

トーヤくん!
危ない!

トーヤ

っ!?

 
 
 
 
 

 
 
 
 
 
その声が響いたのと同時に、
僕は左後方から前へと突き倒されていた。

直後、閃熱の帯が頭上をかすめていき、
前方で炸裂する。
 
 

 
 
 
次回へ続く!
 

第200幕 破邪魔法が効かないッ!?

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