バラッタ船長たちの船艦が
副都へ向けて砲撃を開始した。
町のあちこちから黒い煙が上がり、
それから一拍遅れて轟音が響いてくる。



見ている景色と音にズレがあるのを
目の当たりにするのはやっぱり変な気分。

これは音が空気を伝わる速さと
視界に入ってくる景色――
つまり光の速さにタイムラグがあるからだ。

――と、敵艦隊へ砲撃した時に
イリスさんが教えてくれたんだよね。



バラッタ船長もそうだけど、
船員さんは本当に物知りだと思う。

でも彼らから見たら
僕の薬草師としての知識や技術に対しても
同じような感想を持つだろうから
それと似たような感覚かもね。
 
 

クロード

もうすぐ陸地に着きます!
皆さん、
心構えはいいですね?

トーヤ

うん!

 
 
僕たちは声を揃えて返事をした。

すると小型艇は徐々にスピードを落とし、
前方から激しく吹き付けてきていた
海風の勢いが弱まってくる。


それとともに眼前に迫ってくる砂浜。
副都から少し距離はあるけど、
安全に近付くには
ここがギリギリのラインだと思う。
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
こうして僕たちは無事に上陸した。

ここはまだ副都側の張った結界の中には
入っていないから、
魔法を使うことが出来る。

でも砂浜を抜けた先に
結界の境界が見えているから
少し進んだだけで魔法は
使えない状態になる。
 
 

クレア

もう少しすると
副都攻撃グループが
派手に大暴れを始める
手はずになっているわ。

トーヤ

僕たちはそれに合わせて
副都へ侵入するんですね?

クレア

えぇ、そうよ。
今のうちに副都の入口まで
移動しておきましょう。

トーヤ

そちらで待機
というわけですね。

アポロ

でもよぉ、
どうせ副都は水浸し
なんだろ?
小型艇で直接、
侵入すりゃいいのに。

トーヤ

水浸し?
あぁ、水路のことかぁ。

 
 
確かにアポロの言う通りだ。

副都は町の中に
水路が張り巡らされているから
移動をするには舟が必要になる。

ここで陸地に上がったら
改めて町で舟を調達しなければならない。



……まぁ、舟はあちこちにあるから
容易に調達できるだろうけど。
町は攻撃を受けて混乱しているわけだし。

でもそんな疑問をクレアさんは一蹴する。
 
 

クレア

副都の中と外を結ぶ
水路には水門があるの。
侵入する前にそこを
閉められてしまったら
どうにもならないわよ。

クレア

攻撃魔法が使えるなら
破壊して進むことも
可能だけどね。

アポロ

そういうことか。
それじゃ、仕方ねーな。

ユリア

クダクダ言わずに
さっさと歩きましょう。

クレア

……でもそう簡単には
いかないみたいね。
お出迎えのようだから。

トーヤ

えっ?

 
 
クレアさんが向けた視線の先――
そこにはいつの間にか
小さな人影があった。

隙がない身のこなしで佇んでいたけど、
僕たちがその存在に気付いたのを
確認すると
ジワジワと歩み寄ってくる。
 
 

ダイス

不審な船を目撃したと
見張りの兵から
報告があったものでな。

ダイス

こうして出向いてみれば
いやはや大物ではないか。
のぉ、クレアよ。

 
 
その男は不敵な笑みを浮かべた。
話の内容から察すると、
どうやらクレアさんを知っているらしい。

相手がクレアさんだと知っていながら
あの落ち着きと雰囲気――
つまり相手も
それなりの実力者なんだろうな。
 
 

クレア

副都守備隊の副隊長様が
部下も引き連れず
直々にやってくるとはね。
よほど戦力が
ひっ迫しているのかしら?

ダイス

お前ならその理由は
想像がつくのではないか?
ギーマが我らの手の中に
あるのだぞ?

クレア

なんのことかしらね……。

トーヤ

っ!?

 
 
そういうことか……。

つまりすでに不老不死の薬の製造が
始まっているんだ。
その材料としてヤツの部下は
犠牲になったんだろう。


薬が完成しているかどうかは別として、
急がないとどんどん犠牲者が
増えてしまうのは間違いない!
 
 

アポロ

副都守備隊の副隊長って
それなりに強そうだな……。

ダイス

我が名はダイス。
魔王ヘレナ様の
四天王筆頭だった者だ。

トーヤ

魔王ヘレナ?

ライカ

魔王ミュラー様の
前の代の魔王様です。

ライカ

即位なさっていたのは
今から約五百年前なので
私も直接は
存知あげませんが。

 
 
今の女王様が即位する前の
魔王はノーサス。

その前が魔王ミュラー様で、
それは女王様が勇者アレクの力によって
今のお姿に生まれ変わる前の存在だ。


その一代前の魔王様ってことか……。
 
 

ダイス

今の私は
全盛期ほどの力はないが
使い魔レベルの貴様を
葬る力くらいはあるぞ?

クレア

年寄りの冷や水って言葉、
知らないのかしら?

ダイス

フフフ、感じるぞ。
貴様の恐れを。
言葉では強がっていても、
恐怖の波動をこの私に
隠し切ることはできぬ。

アポロ

やいやいやい!
ふたりだけで話を
進めんなよ!
俺たちを無視すんな!

 
 
その時、クレアさんとダイスの会話に
アポロが割って入った。


確かに僕たちはその場にいないみたいな
扱いを受けていたもんね。

だが、ダイスはチラリと
アポロを見ただけで軽くため息をつく。
 
 

ダイス

……ザコなど眼中にない。
つまりそういうことだ。

アポロ

テッメェ……ッ!

ダイス

この場にて私と対等に
戦うことが出来る力を
持つのはクレアのみ。

ダイス

もっとも、
最終的には私が勝つがな。

アポロ

舐めやがって……。

ダイス

試してみるか、若造?

アポロ

言われなくたって
そうすらぁ!

アポロ

…………。

 
 
 

 
 
 
 
挑発に乗ったアポロは僕たちの前に出た。
そして魔法の詠唱を始める。

すると彼の足下には
魔法力で出来た魔方陣が浮かび、
淡い銀色の光に包まれていく。


あの魔法はきっと――
 
 

 
 
 
次回へ続く!
 

第199幕 立ちはだかる強者

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