僕とエルムは大砲のところへ移動した。

そこには弾を装填する作業を担当する
船員さんたちがいて、
すでに最初の1発は
発射の準備が終わっているようだ。


ちなみに艦橋では
バラッタ船長が指揮をして
クロードがその補佐を務めている。

本当にクロードは器用だよなぁ。


クレアさんとユリアさん、
それにアポロは船員さんたちとともに
白兵戦に備えている。


ライカさんは怪我人が出た時のために
すぐに治療が出来るように薬や包帯などを
準備している。

僕も薬草師としては
ライカさんの手伝いをしたいところだけど
今回は全てを彼女に任せようと思う。
 
 

トーヤ

これが大砲か……。

エルム

思っていた以上に
大きいですね。

 
 
砲身は僕の身長を倍にしたくらいの
長さだろうか。
太さも抱えるほどある。

その横には装填用の金属の弾と
火薬があって
撃ったあとでもすぐに次を
発射できるように準備してある。
 
 

イリス

提督、
この隙間から外を覗いて
照準を合わせてください。

トーヤ

っ!? 女の子?

イリス

イリスと申します。
以後、
お見知りおきを。

トーヤ

僕はトーヤです。
よろしく。

エルム

エルムです。

トーヤ

イリスは大砲を
撃ったことが
あるんだよね?

イリス

うぃ、トーヤ提督。

トーヤ

今、ここから撃ったら
どれくらいの距離で
どの辺に着弾するか
目安は分かる?

イリス

そうですね……。

 
 
イリスは鷹のような鋭い目つきで
海の方を睨んだ。

そして少し考え込んでから口を開く。
 
 

イリス

そうですね、
この位置からなら
この船と敵艦の距離を
10等分した場合の
8等分先辺りに
着弾すると思われます。

トーヤ

なるほど、射程は
それくらいってことだね?

イリス

うぃ、トーヤ提督。

トーヤ

あ、えっと、
提督って呼ばれるのは
慣れてないから
呼び捨てでいいよ。

イリス

呼び捨てだなんて
とんでもないことです。
では、トーヤさんと
お呼びすることにします。

トーヤ

うん、それでいいよ。

トーヤ

あとは実際に撃ってみて
感覚を掴むしかないな。
照準や空気抵抗の誤差も
今は分からないし。

イリス

さすがトーヤ提――
いえ、トーヤさん。

トーヤ

エルム、
いつ僕の感覚と大砲の扱いが
リンクするか分からないから
ラーニングの準備を
しておいてね?

エルム

すでに準備完了です。
常に吸収できるように
なってます。

トーヤ

うん、オッケー。
じゃ、もうすぐ射程に入る。
いけると思った瞬間に
1発目を撃つからね。

イリス

では、最初は私が
体で撃ち方を
お教えします。

トーヤ

わっ!

 
 
 
 
 

 
 
 
 
 
大砲の前で照準器を覗きこんでいた僕の
背中側からイリスは抱きついてきて、
両腕と手を僕のそれと重ねた。



右肩の上には彼女の顔があって
息遣いがハッキリと聞こえてくる。
それに柔らかな感触と
体温が伝わってきてすごく熱い。

なんだかいい匂いもする。
 
 

トーヤ

なんだろ……
このドキドキは……。

イリス

どうしたのですか、
トーヤさん?

トーヤ

あ、うんっ、
なんでもないよ!

トーヤ

いけないいけない。
自分のなさなければ
ならないことに
集中しなきゃ。

イリス

もうすぐ射程に入ります。

 
 
 
 
 

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

トーヤ

カウントに入るよ。
5……4……3……
2……1……てぇ!

 
 
 
 
 

 
 
 

 
 
 
 
 
僕の声に合わせて
イリスは大砲を操作した。
その瞬間、
耳をつんざくような轟音とともに
目の前が閃光に包まれる。


さらに体に感じるのは
焼けた火薬の臭いと振るえる空気、
足下から伝わってくる振動――。


これらは全て
フォーチュンではありえない感覚だ。

そして気が付くと発射された弾丸は
敵艦のやや右に逸れ、
惜しくも着弾とはならなかった。



ただ、今の1発でほぼ感覚は掴めた。
なぜなのかは分からないけど、
直感的に感じ取れたんだ。

五感が全て研ぎ澄まされている感じだ。
 
 

イリス

弾込めぇ~っ!

船員

ヤー!

 
 
イリスの指示で
即座に次の弾の装填が始まる。

その船員さんたちの動きは手慣れていて、
僕の想像していたよりも速く
次の弾が発射できる状態となった。



――よし、いける!
 
 

トーヤ

イリス、離れていいよ。
もう分かったから。

イリス

えっ? う、うぃ!

 
 
戸惑いつつもイリスさんが僕から離れ、
涼しい感覚が背中や腕などに広がった。

一方、僕は照準器を睨みつつ、
こちらの船と敵艦の動きを予測しながら
全ての感覚が一致した瞬間に弾を発射する。
 
 
 
 
 

 
 
 

 
 
 
 
 
再び広がる閃光と轟音。
臭いと振動と――そして命中した確信!

根拠はないけど手応えを強く感じる!!




直後、遠くの敵艦から
煙と破片が舞い散るのが見え、
それから一拍遅れて炸裂音が響いてきた。

敵艦の土手っ腹には巨大な穴が空き、
瞬く間にそこから浸水して
沈み始めたのだった。
 
 

トーヤ

ふぅ……。

トーヤ

やったぁっ!

イリス

う……そ……。
たった1発試し撃ちを
経験しただけで
こんなに高い精度で
命中させられるなんて……。

トーヤ

エルム、
ラーニング出来た?

エルム

はいっ! もちろんです!

トーヤ

イリス、
エルムにも別の位置の
大砲へ案内してあげて。

イリス

ぁ……。ぅ、うぃ!

 
 
イリスはボケッとしていたみたいだけど
すぐに気を取り直して
エルムを別の大砲のところへ
連れていった。

そしてエルムもすぐに砲撃を始める。





うん、順調に命中させられているみたい。
よーし、僕も負けてられないぞ~!
 
 

 
 
 
次回へ続く!
 

第196幕 トーヤ、新たな覚醒!

facebook twitter
pagetop