次の問題は敵の艦隊に対して
どう対処すべきかということだ。
大きく分けて選択はふたつ。



――敵を殲滅するか逃げるか。



いずれにしても戦闘が
避けられないというのは
間違いないだろうけど。
また、無事に済むということもない。

しかも魔法が使えないというのがネックだ。
戒めの海域を脱出できれば
選択肢の幅も広がるんだろうけど。


ということは、
ここは逃げる方がいいんだろうなぁ……。
 
 

トーヤ

よし、全速力で
この海域を離脱しよう。

バラッタ

――トーヤ、
俺は艦隊の殲滅を
進言する。

トーヤ

えっ?

ライカ

それは危険なのでは?

アポロ

あぁ、多勢に無勢だぜ?

ユリア

まだこれだけ距離が
離れているわけだし、
逃げ切れそうだもんね。

エルム

敵の攻撃だって
届きませんよ、きっと。

トーヤ

クロードとクレアさんは
どう思う?

クレア

私は殲滅を支持するわ。
さっきも話に出たけど
ここで副都側の戦力を
削いでおきたいから。

クロード

実は私は艦隊撃破を
前提として
船の装備を進めたので、
殲滅支持です。

クロード

ただ、逃げられるなら
逃げた方がいいです。

 
 
やっぱり逃げを支持する方が多数派か。

でも普通に考えたら
そういう意見になるのが自然だよね。


でもバラッタ船長が何の根拠もなく
戦いを挑もうと考えるとは思えない。
 
 

トーヤ

バラッタ船長、
戦うのはリスクが
高すぎませんか?
殲滅を勧める理由を
教えてください。

バラッタ

1つ目は敵もお前さん方も
俺たちがこの場を
乗り切ろうとするなら
逃げる選択をすると
考えているということだ。

アポロ

おいおい、
意味わかんねーよ。
そんな禅問答みたいな。

エルム

僕はなんか分かったかも
知れません。

 
 
エルムは納得したように
ポンと手を打った。
恥ずかしながら僕は
アポロと同様に未だにわけが分からない。

逃げると思っているから戦うだなんて、
そんな天の邪鬼みたいな……。
 
 

エルム

戦うという選択肢は
意表をつく行動だと
いうことですよね?

エルム

つまりそこに隙や混乱が
生まれやすい。

バラッタ

おっ、坊主!
頭が切れるじゃねーか!!
そういうことだ。

 
 
バラッタ船長はにたっと笑った。
どうやらエルムの答えは正解らしい。


そっか、確かに想定外のことがあると
慌てちゃって対処にもたつくもんね。

特に艦隊みたいに集団行動が必要な場合、
ひとつの乱れが波及して大きくなったり、
なかなか元の状態に戻れなかったり
するもんね。
 
 

トーヤ

でもすぐに体制を整えて
反撃をしてくることも
考えられるんじゃ?

バラッタ

ああ、その通り。
その可能性はあり得る。
そこで2つ目の理由――
それがこの船の性能だ。

バラッタ

見た感じ、
敵の戦艦は旧式。
機動力はこちらが
勝っている。

トーヤ

つまり走り回って
攪乱させることも
できるわけですね。

バラッタ

まぁな。
逃げようと思えば
いつでも逃げ切れる。
その自信はある。

バラッタ

だったら逃げるにしても
攻撃してからの方が
いいだろう?

アポロ

でも機動力っていっても
船のスピードは
似たり寄ったりで
大きな差はねんじゃね?

 
 
するとクロードは人差し指を立て、
チッチッチと言いながらそれを左右に振る。



――まぁ、そうだろうね。

明確な差がないんだったら
バラッタ船長が
わざわざ理由のひとつとして
挙げないだろうし。
 
 

クロード

この戦艦には陸走船で
使われている技術が
応用されています。

クロード

吸い上げた水を
後方へ噴射して
その勢いを利用する装置が
装備されているのです。

ユリア

それを使うと
どうなるの?

クロード

船体が少し浮き上がり
高速になると
船底の翼を使って水面を
滑るように走れます。

バラッタ

帆船はもちろん、
魔力を動力にした
魔動船よりも速い!
最新の技術だぜ!

クロード

もちろん、
ウィル船長にはその装置が
装備されていることを
教えていませんでしたが。

 
 
この戦艦って見た目は中古だけど
中身は魔改造されていたんだね……。

そうだよね、
マイルさんやクロードが手配した船だもん。
何も秘密がない方がおかしい。
 
 

 
 
 
次回へ続く!
 

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