その後、僕は船の中を歩き回って
クロードやクレアさんを探し出し、
一緒に艦橋へ移動した。

ちなみにこの船の艦橋は
魔動城の艦橋ほど規模は大きくなくて、
船員さんの数もウィル船長を含めて
数人程度しかいない。

また、魔動城の艦橋は機械だらけだったけど、
こちらは簡素で帆船に近いかもしれない。


僕たちは艦橋に着くと、
その隅に佇んで様子を見守る。
 
 

ウィル

お、おい、
なんであんたらが
ここにいるんだよ?
気が散るんだが……。

トーヤ

どうぞ僕たちのことは
お気になさらず。

ウィル

ここで何かを
するわけじゃないんだろ?
それにあんたらに
やってもらうことも
ねーし。

ウィル

船室で居眠りでも
どんちゃん騒ぎでも
好きにしてていいんだぜ?

トーヤ

好きにしてていいなら
僕はここにいます。

ウィル

……頑固だなぁ、
あんたも。

 
 
ウィル船長は頭を抱えていた。

でも頑固なのは
ウィル船長だって同じだと思う。


別に僕たちは口を出しているわけでもなく、
静かに見守っているだけなんだから
そこまで嫌がられる筋合いはない。
 
 

クレア

ここにいる理由が
必要だというなら
あなたがサボらないか
監視してるってことで
どうかしら?

ウィル

サボらねーよ!
俺が操船しなかったら
誰が操船するんだよ?
代わりはいねーだろ!

ウィル

ったくよぉ!
浅瀬に乗り上げて
この船を
動けなくしてやろうか?

クロード

それは困りますねぇ。

クロード

では、正論を言いますが
ここにいる理由は
私たちの立場の問題です。

ウィル

立場?

クロード

ウィル船長、
あなたは船長で、
この船の責任者です。

ウィル

その通り。俺は偉い。

クロード

一方、私たちは
この船のオーナー。
また、その中において
トーヤがリーダーです。

クロード

つまりトーヤは
提督であって
私たちは提督の補佐役。

トーヤ

提督だなんて
照れくさいなぁ。

クロード

よってこの場にいるのは
当然であり、
しかも指揮系統上は
私たちの方が
立場が上になります。

クレア

つまりウィル船長は
この船の長ではあるけど、
逆に言えば
艦隊に属する1隻の船の
長に過ぎないってこと。

クレア

まぁ、艦隊と言っても
この1隻しかないけど。

 
 
 
 
 
 

 
 
 
 
 
 
 
 

クロード

組織として見た場合、
艦隊全てを統括する
提督の方が立場は上です。
お分かりですよね?

 
 
 
 
 

 
 
 
 
 
 
 

ウィル

うぐ……。

 
 
迫るクロードの威圧感とやや強い口調に
ウィル船長はタジタジ。
何も言い返せず、
思わず一歩退いてしまう。

いつもの優しいクロードからは
想像できないくらい苛烈な態度だなぁ。
 
 

クロード

それとも私たちが
口出しをしても
よろしいんですか?

クロード

静かに操船出来る現状に
不満があるなら
細かく指示を出しますよ?

ウィル

だーっ! わーったよ!
ここにいても良いが、
静かにしてろ!
シロートに口を出されると
余計にストレスだ!

クロード

ご理解いただけて
よかったです。

ウィル

くそ……
ドヤ顔しやがって。
『はい、論破!』とでも
言いたいんだろッ?

クロード

論破も何も
正論じゃないですか。
しかも最初に
そう言いましたし。

ウィル

っっっ!!!
お前なんか
大っ嫌いだ~!

 
 
ウィル船長はクロードとクレアさんに
完全に言い負かされていた。
――というか、このふたりを相手に
口で勝とうとする方が無謀だと思うけど。


クロードは一流の商人である
マイルさんの秘書として数々の交渉に
携わってきたわけだし、
クレアさんは女王様の秘書として
政務に携わってきた。


僕が知っている範囲で
太刀打ちできそうなのは
セーラさんやタックさん、
それにレインさんくらいじゃ
ないかなぁ……。
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
こうして僕は艦橋に常駐するようになり、
睡眠や食事の時にはクレアさんが
提督代行を担うことになった。

クレアさんも艦橋にいられない時は
クロードが副提督として
仕事をしてくれる。

もっとも、艦橋には僕たち3人のうち
2人は確実にいるようにしているから、
不測の事態が起きない限り
クロードが指示を出すケースは
起きないと思うけどね。



そしてウェイブの町を出航してから
3日が経過し、
僕たちの船はギガル川が注ぎ込む
極北の海へ入った。

岩礁に乗り上げることを避けるため、
船はやや沖へ進んで、
そこから副都へと舵を切るらしい。


それでもここから副都まで
あと3日もあれば辿り着くだろう。
 
 

トーヤ

カレン、待っててね。
もうすぐ助けに行くから。

 
 
 
 
 
 
 
 

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

カレン

もう、トーヤのバカ!
遅いじゃない!

 
 
 
 
 
 
 
 

 
 
 
 
 
 
 
 

トーヤ

――なんて、
怒られちゃうかなぁ。

トーヤ

…………。

トーヤ

カレン……。
怒られたっていい。
キミの声が
聞きたいよ……。

 
 
僕は前方の水平線の無効へ視線を向けた。
あの彼方に副都があって
カレンはそこにいる。

今、見えているのは水面と青い空、
そして白い入道雲。



景色は単調だけど
船は確実に前へ進んでいる。

早く副都に着かないかな……。
 
 

トーヤ

……ん?

 
 
その時、僕は前方の遙か彼方に
島があることに気が付いた。



――おかしい。

以前にアンカーポートから
副都へ向かった時、
島の近くなんて通らなかったはずだ。

海図を見せてもらったこともあったけど
航路の近くに島はなかった。
 
 
これはどういうことなんだ?
 
 

 
 
 
次回へ続く!
 

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