荷物の積み込みが終わり、
僕たちの乗った戦艦はウェイブを出港した。
戦艦が通れるということは、
川幅が広いだけじゃなくて
それなりに深さもあるということ
なんだろうなぁ。
――それにしてもこうして甲板にいると
吹いてくる風が涼しくて心地良い。
荷物の積み込みが終わり、
僕たちの乗った戦艦はウェイブを出港した。
戦艦が通れるということは、
川幅が広いだけじゃなくて
それなりに深さもあるということ
なんだろうなぁ。
――それにしてもこうして甲板にいると
吹いてくる風が涼しくて心地良い。
よぉ、オーナーさん。
こんなところで
何をしてるんで?
あ……。
さっきのおじいさん。
僕が風に当たっていると、
さっきウィル船長と問答をしていた
おじいさんが後ろから声をかけてきた。
荷物を運んでいる様子はないし、
仕事をサボっているのかな?
あっしは仕事を
サボっているわけじゃ
ありやせんぜ?
っ!?
なぜ僕の考えていることが
分かったんですか?
はーっはっは!
顔に書いてありまさぁ。
そ、そうですか……。
あっしの主な仕事は
船の見張りでしてね。
見張りは交代制で、
今は休憩の時間なんですよ。
そうでしたか。
オーナーさんこそ
こんなところで
油を売っていて
いいんですかい?
えっ?
見たところ、
坊ちゃんは立場のある
お人のようだ。
いつでも全体に指示を
出せる状態になってねぇと
ダメじゃねぇですかねぇ?
あ……
そ、そうですね……。
おじいさんの言う通りかも。
なんだか耳が痛い。
確かに僕は定期船の一般客みたいな
感覚でいた。
でも今はそうじゃない。
もっと自覚を持たないとな……。
平時は特に何もせず、
艦橋に常駐して
周りへ意識を向けている
だけでいい。
するとクルーの連中は
坊ちゃんの心構えと
姿勢を見て、
適度な緊張感を持って
仕事に当たりやすからね。
そして万が一の時には
的確かつ迅速に
指示を出して対処する。
指揮官ってのは
そういうもんだ。
は、はい。
それに川は海と比べて
船の動きが制限される。
両岸から攻撃を
受けることもある。
その時、
指揮官が甲板にいて
真っ先にやられちまったら
大変じゃねぇかい?
そういう危機管理を
意識しておくのも
指揮官として
大切なことだぞ。
おじいさん……。
仰る通りです。
指摘してくださり、
ありがとうございます。
偉そうなことを言って
うるさいジジイだと
思ってるんじゃねぇのか?
まさか、とんでもない!
人の言うことに
聞く耳を持つというのは
大切なことだ。
だが、誰にだって
信念や譲れないものは
あるだろう。
その折り合いを
うまくつけることだ。
はい!
僕が元気よく返事をすると、
おじいさんはガハハと豪快に笑って
僕の頭をぐしゃっと撫でた。
坊ちゃんを見ていると
知り合いを思い出すぜ。
純真で真っ直ぐで、
心の中に強さを秘めた
あいつにな……。
おじいさんの瞳は
まるで自分の子どもを思っているかのように
優しかった。
船員さんは色々な場所を旅しているから、
僕なんかとは比べものにならないくらい
たくさんの出会いと別れを
繰り返してきているんだろうなぁ。
さ、そろそろ艦橋へ
お行きなせぃ。
おじいさん、
また色々なお話を
聴かせてもらっても
いいですか?
……ふふ、あいつと
同じようなことを
言いやがって。
そういうところまで
似てるとはな。
はい?
いんや、独り言だ。
そうだな、
暇な時なら構わんぜ。
ただし、
手ぶらで来るなよ?
あはは。
では、ワインでも
お持ちしますね。
こうして僕はおじいさんと
また話をする約束をした。
そして会釈をして艦橋へ向かったのだった。
そういえば、
いつの間にかおじいさんの口調が
フレンドリーになっていたなぁ。
あれがおじいさん本来の喋り方なのかも。
それにあの気品と威厳は
単なる船員さんじゃないような気がする。
次回へ続く!