クレアさんが王都から戻り、
全ての準備が整った僕たちは
陸路でウェイブの町へ戻った。

そして今はクロードの案内で
桟橋の横に停泊している戦艦のところへ
やってきている。


もっとも、戦艦といっても側面に大砲が
いくつか装備されている程度で
想像していたよりも攻撃力は高くない。

むしろ船体が金属で出来ていて
防御力の方を重視している感じだ。

周囲では船員さんたちが
たくさんの大きな木箱や樽、布袋など
物資を積み込む作業をしている。
 
 

クロード

これが私たちの乗る
戦艦です。
払い下げなので
色々と心許ないですが。

アポロ

確かにパッと見は
スゲーって思うけど、
よく見ると
あちこち腐食してるし
中古感は否めねーな。

トーヤ

いや、
僕は充分だと思うよ。

エルム

装備してある武器は
あとから追加した
感じですね。

クロード

てはは……。
エルムくんの仰る通り。
買い取った時には
何も武器がなかったので
急いで装備させたのです。

ユリア

つまりそれだけ余計に
おカネがかかってるって
ことでしょう?
さすがクロードさんは
大商人ねっ♪

クロード

いえ、全てはマイルの
やったこと。
私は手配と指示を
しただけですよ。

ライカ

いえ、それだって
クロードさんだから
出来たことだと思います。

トーヤ

マイルさんの
信頼も厚いしね。

クロード

恐縮です。

クレア

みんな、話はそれくらいに
しておきなさいな。
私はさっさと
船に乗りたいんだけど?

トーヤ

――ですね。

クロード

では、
船室へ行きましょう。

 
 
 
 
 
 
 
 
 

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
僕たちはクロードに先導され、
タラップを上って甲板へと移動した。
するとそのタイミングで船室から
ウィル船長が現れる。

彼は僕たちを見るとニヤリと頬を緩めた。
 
 

ウィル

よぉ、久しぶりだな。
まさかまた会うとはな。
よろしく頼むぜ、
雇い主さん方よ。

トーヤ

よ、よろしく……。

ウィル

まっ、船のことなら
俺様に任せておけ。
確実に副都へ
送ってやるからよ。

トーヤ

…………。

 
 
――やっぱり違和感がある。


ウィル船長から
邪悪さしか伝わってこない。

僕たちのためにという意思が
全く感じられないんだ。
 
 

ウィル

んっ?
おいっ、そこのジジイ!

老船員

…………。

ウィル

イモの入った
布袋を運んでいる
臨時雇いのクソジジイ!
お前だよ!

 
 
その時、ウィル船長は船員のおじいさんを
指差して怒鳴った。

その人は僕の身長くらいはある、
イモの入った布袋を肩に載せて
埠頭をゆるゆると歩いている。
 
 

老船員

それはあっしのこと
ですかい?

ウィル

ほかにジジイがいるか?

老船員

あっしは人間でして
年齢だけなら
あっしよりもジジイが
周りにたくさんいますが?

ウィル

っっっ!
見た目がジジイなのは
テメーだけなんだよ!

老船員

人を見た目で
判断するのは
感心しやせんねぇ。

ウィル

うるせー!
船長様に対して
口答えすんな!

老船員

すいやせーん♪

 
 
おじいさんはヘラヘラと笑いながら
軽く頭を下げた。
どう見ても反省しているようには
感じられない。

でもウィル船長より
頭の回転は良さそうだ。
なんとなく気品みたいなものもあるし。
 
 

老船員

それであっしに
何かご用ですかい?

ウィル

ジジイ! サボるな!
もっとキビキビと動け!
ひとりがそんな姿でいると
ほかの船員にも悪影響が
出るんだよ!

老船員

そりゃ、こんな年寄りに
肉体労働をさせるのが
悪いんじゃ
ないですかねぇ?

老船員

船長ってのは、
各船員の得意分野を
把握して
適材適所に配置して使う。

老船員

あっしが今まで
働いてきた船では
どこもそうでしたがね?

老船員

つまりそれが
出来ていないアンタは
船長として無能ってこと
でさぁね。

ウィル

なっ!?
このクソジジイ!
口ばっかり達者で
いやがって!

ウィル

テメーはクビだ!

老船員

へぇ……。

老船員

なぁ、坊ちゃん!
そこにいる坊ちゃんは
この船の
オーナーさんでしょう?

トーヤ

ぼ、僕っ?

 
 
おじいさんは僕に向かって
声をかけてきた。

突然のことで戸惑ってしまったけど、
すぐに気を取り直して大きく頷く。
 
 

老船員

船長はあんなことを
言っとりますが、
あっしのクビを切ることに
同意なさるので?

ウィル

なっ!
このクソガキは
関係ないだろう!

クロード

ウィル船長。
雇い主に対して
クソガキだなんて
失礼ですよ?

クロード

むしろあなたのクビを
切りますよ?

ウィル

う……。
じょ、冗談だよ……。
どうかお許しを、
トーヤ……様……。

トーヤ

なんか言い方が
たどたどしくて、
抵抗感ありありなのが
丸わかりだなぁ。

老船員

で、オーナーさん。
どうなさいます?

トーヤ

僕たちの意思を無視して
勝手に船員さんを
クビにするのはダメです。

ウィル

ぐ……。

老船員

はーっはっは!
船長さんよ、
そういうこった!
残念だったな!

ウィル

くそ……。
苛つくジジイだ……。

トーヤ

でもおじいさんも
船員という立場なら
船長の指示に従って
仕事をしてください。

老船員

なっ……。

ウィル

ひゃひゃひゃ!
言われてやんの!
ざまーみろ、クソジジイ!

老船員

むむむ……。

クロード

プッ……ククク……。

 
 
なぜかクロードが手で口を押さえ、
笑いを必死に噛み殺していた。

そんなに面白いやり取りだったかな?
 
 

ライカ

やれやれですね……。

エルム

それにしても、
あのふたりのやり取りって
普段のアポロさんと
ユリアさんに似てますね。
ボケとツッコミ具合が。

アポロ

あ? どこがだよ!

ユリア

エルムくーん?
あとで船倉の裏ででも
少しお話を
しましょっか?

エルム

っ!?

 
 
エルムは『しまった!』という
顔をしていた。
口が滑ったという感じ。
すかさず僕の後ろに隠れてくる。

仕方ないので僕は間に入り、
アポロとユリアさんをなだめたのだった。
 
 

 
 
 
次回へ続く!
 

第188幕 どっちもどっちな船員たち

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