その後、僕はクロードやユリアさんの
治療をしてから
再びクロウとアーシャさんのところへ
歩み寄った。


……もうどちらも動くことはない。

なんだろう、この胸の苦しさは。
戦いには勝ったのに全然嬉しくない。
 
 

クレア

……トーヤ。
戦いには非情さも必要よ。

トーヤ

グッ……。

 
 
冷たく言い捨てるかのような
クレアさんの言葉に、
僕の心の中で一瞬だけど
憎悪が膨れあがった。

思わず彼女を睨んでしまったほどだから。


でもクレアさんの言っていることは
きっと正しい。
アーシャさんの状態がよく分からない以上
放っておくのは危険すぎる。

あの場はクロウとアーシャさんを倒すのが
僕たちにとって最善の策だったんだろう。

だけど……だけど僕は納得できない。

アーシャさんは話せば分かり合える人だ。
今もそう信じている。




……やっぱり僕は魔族らしくない。

自分でもそう思う。
アレスくんの影響を
強く受けているからなんだろうな。

でも、魔族とか人間とかじゃなくて
僕は僕だ。

僕という存在として納得できないんだ。
 
 

クレア

トーヤの気持ちは
私にだって分かる。
でもアーシャは
私たちにとって脅威なの。

クロード

変数としての影響が
大きすぎる――
ということですよね。
私もそれは理解できます。

ユリア

確かにね。
今後も敵として
立ちはだかるかも。

クレア

不測の事態を
避けるためにも
排除しておくのが最善だと
私は判断したのよ。

トーヤ

でも、排除するやり方が
正しいなんて
僕は思いたくありません。

トーヤ

それにアーシャなら
きっと僕たちの味方に
なってくれたと思います。

クロード

トーヤ……。

ユリア

難しい判断よね。

 
 
クロードとユリアさんは
クレアさんの気持ちも僕の気持ちも
両方とも理解してくれているみたい。

だからこそ、間に挟まれて苦しそうだ。


するとそれを見ていたクレアさんは
涼しい顔をして僕を見やる。


――なんだろう、この寒気は?


それに少し怖い。
これが本来の彼女の空気なのだろうか……。
 
 

クレア

私にとって最優先なのは
ミューリエの想い。
こうしてあなたたちと
行動をともにしているのも
彼女の意思があるから。

クレア

極論を言えば、
もしミューリエが
あなたたちを抹殺しろと
命令したなら
私は躊躇なくそうする。

クレア

そのことは覚えておいて。

トーヤ

クレアさん……。

 
 
そうだ、僕とクレアさんは
主従の関係にあるわけじゃなかった。

あくまでも今回の作戦を実行する上で
リーダーと参謀という関係に
なっているに過ぎない。


クレアさんの本来のご主人様は
女王様なんだ。

だから女王様の脅威になり得る存在は
排除しようという判断に至って当然だ。
 
 

クレア

……だけどね、
私にだって
私の意思はあるわよ。
そこは勘違いしないで。

トーヤ

えっ?

クレア

使い魔だから
最終的にはミューリエの
意思が尊重される。
それは事実。

クレア

だけどどうしても
納得がいかないなら
死を選んででも
自分の意思を通すわ。

クロード

でもクレア様がそこまで
意思を通そうとするなら
女王様が
折れそうですけどね。

クレア

あら、クロード。
よく分かってるじゃない。
そういう結果になることが
ほとんどでしょう。

ユリア

私もそう思います。
女王様は優しいですもんね。

クレア

でも、ミューリエって
元・魔王だけあって
意外に冷たいのよ?
どうしても譲れない時には
私を切るでしょう。

トーヤ

そうですかね?

クレア

でもそれでいいの。
むしろ重要な判断の時、
使い魔なんかを尊重して
自分の信念を曲げるなら
幻滅するわ。

クレア

ミューリエには
常に気高くあってほしい。

 
 
この時、僕はクレアさんの本心に
触れたような気がした。

そしてご主人様であり、
この世にクレアさんを生み出した女王様に
似ているなぁとも思った。



そういえば、
デリンさんとサララも全然違うようでいて
優しいところとか似てたかも。
 
 

クレア

それに私、
何の目算もなく
アーシャを無力化した
わけじゃないのよ?

トーヤ

どういうことですか?

クレア

王都にはアーシャを
なんとかできそうな
誰かさんがいるでしょ?

トーヤ

あっ!
セーラさんと
ガイネさん!

クレア

えぇ。
あのふたりなら
制御石を破壊された
アーシャがなぜ動けたのか
分かるでしょうし。

 
 
そうだよなぁ。
それも残された謎なんだよね。
常識で考えれば起こりえないことだから。

ただ、セーラさんたちなら
解明してくれそうだ。
 
 

トーヤ

でも王都へ戻る時間が
ありますか?

クレア

今後の遊撃グループは
副都攻撃グループの
進軍を受けてからの
動きになる。

クレア

それまでここで
敵を睨みつつの待機という
ことになるでしょう。

クロード

その時間を利用して
王都へ戻るわけですね?

クレア

えぇ、情報の伝達も兼ねて
私が転移魔法で
王都へ行ってくるわ。
もちろん、
結界の境界までだけど。

トーヤ

それでも
歩いて移動するよりは
早いですからね。

トーヤ

では、アーシャさんのこと
お願いします。
セーラさんたちにも
よろしく伝えてください。

クレア

分かったわ。

 
 
こうしてトイトイ砦を
奪回することに成功し、
ここでの戦いは僕たちの勝利となった。



もちろん、
魔動城はすぐには使えない状態だし、
怪我人もたくさんいる。
だから手放しでは喜べない。

それに一刻も早く作戦を成功させて、
カレンやギーマ老師を救わないと。
 
 

 
 
 
次回へ続く!
 

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