クロウの一撃を受け、
僕は動けなくなってしまった。

みんなも大ダメージを受けていて
戦える状態どころか
早く治療をしないと命が危ない。

ライカさんだけは
回復させることが出来たけど
すぐには動けないし……。


そして自動人形のアーシャさんは
クロウに逆らったことで
意識を司る制御石を破壊されてしまった。

つまり僕たち魔族でいうところの
魂が抜け出てしまった状態だ。


もはやどうにもならない……。
 
 

クロウ

しかし圧倒的な
展開というのは
つまらないですね。

クロウ

唯一、苦々しいのは
アーシャです。
制御石を
握られているというのに
僕に逆らうなんて。

アーシャ

…………。

 
 
アーシャさんの姿が遠くに見える。
彼女は倒れ込んだまま動かない。

セーラさんがいれば
応急処置とか制御石を交換するとか、
何らかの対処が出来ただろうなぁ。

僕は生物の治療しか出来ないのが悔しい。



もしかしたら
ガイネさんが技術者の道へ進んだ理由は
非生物の治療ということを
意識したことがあったからなのかも。

ガイネさんと会った時、
僕もそのことに気付くべきだった。

くそ、後悔先に立たずか……。
 
 

クロウ

制作者のクライン同様、
アーシャもクズだった
ということですね。

クロウ

クラインめ、
結局は欠陥品しか
作れぬまま死にやがって。

クロウ

死の間際に完成したコレも
結局は欠陥品とは、
役立たずの極みです。

トーヤ

アーシャさんは
クラインという人が
作ったのか……。
誰なんだろう……?

アーシャ

……ン……うな……。

クロウ

……ん?

アーシャ

クライン博士を……
す……るな……っ!

クロウ

なッ!?
なんだこれはっ?

アーシャ

クライン博士を
侮辱するなっ!

 
 
僕は信じられない光景を目撃していた。

だってそこには怒りに満ちた表情の
アーシャさんが立っていたのだから。


制御石を壊されているのだから
本来なら動けるはずがない。

これを説明するならただ一言――奇跡だ。
 
 

クロウ

バカなっ!
なぜ動けるっ!?
制御石は
破壊したはずなのに!

アーシャ

うぁああぁっ!

クロウ

うぐっ!

 
 
 

 
 
 
 
 
アーシャさんの一撃が
クロウにヒットした。
今度は左腕が切り落とされる。


床には彼の血が飛び散って
水たまりのようになっている。
ただ、それでも倒れないのはすごい。

ワナワナと唇を震わせ、
苦痛に満ちた顔でよろけるクロウ。
 
 

クロウ

あ、ありえない!
なぜこんなことがっ!

アーシャ

許さない……
許さない許さない
許さない――。

 
 
アーシャさんは
我を失っているかのようだった。

ゆらりとした動きで
大剣を引きずりながらクロウへ歩み寄る。
 
 

トーヤ

そうだ!
この隙に回復を!

 
 
 

  
 
 
僕は奥歯の奥に仕込んである錠剤タイプの
回復薬を噛みしめた。

おかげで腕が動ける程度には回復できた。


あとは袋に入っている回復薬で
本格的に回復したらみんなの治療を……。
 
 

クロウ

くそっ、くそぉおおぉっ!

アーシャ

許さない許さない――

 
 
 

 
 
半狂乱になって抵抗するクロウ。
でもアーシャさんは
全ての攻撃を大剣で軽々と受け流していく。

さすがクレアさんを退けただけはある。
 
 

トーヤ

よし、このチャンスを
逃してなるものか!

 
 
僕はクロウに気付かれないように
袋からそっと回復薬を取り出し、
それを飲み込んだ。

すると全身に温かな感覚が広がり、
傷がみるみる回復していく。
疲れもとれて元気がみなぎってくる。


――うん、
これならみんなの治療へ向かえる。
 
 

トーヤ

まずはクレアさんだ。

 
 
僕は目立たないようほふく前進で
クレアさんに近付いていった。

本当は立ち上がって走っていきたいけど、
クロウに気付かれてしまったら
元も子もないもんね。



それから程なくして
僕はクレアさんのところへ辿り着く。
 
 

クレア

う……く……。

トーヤ

クレアさん、
すぐに治療しますね。

 
 
僕は体力と魔法力が同時に回復する薬を
クレアさんに飲ませた。

するとクレアさんは
すぐに全快して立ち上がる。
 
 

クレア

ありがとう、トーヤ。
あとは私に任せなさい。
すぐに決着を付けるから。

トーヤ

えっ?
無理はしないで
くださいよ?

クレア

大丈夫。
手負いの相手に
トドメを刺すくらい
造作もないから。

 
 
そう言うと、
クレアさんは両手にそれぞれダガーを持ち
そこに魔力を込めていった。

すると刀身は炎のような
真っ赤な光を帯びて輝き始める。
 
 

クレア

っ!

 
 
クレアさんは疾風の如き速さで
クロウの方へ突進。
そして円の動きと羽のような身軽さで
ダガーによる連続攻撃を仕掛けた。

まるで踊り子が
舞いを披露しているかのような
無駄のない動きと妖艶さだ。
 
 

クロウ

ぎゃああああぁ……。

 
 
断末魔の叫びがフロアに響き渡る。

不意を衝かれたクロウは
その攻撃をまともに食らい、
全身が切り刻まれた。

その傷口から
血液が噴水のように吹き出している。


続けてクレアさんはアーシャさんの
胸にダガーを――
 
 

トーヤ

っ!?
クレアさんっ、ダメです!
アーシャさんは敵では
ありません!

 
 

僕は慌てて叫んだけど……遅かった……。



クレアさんはアーシャさんの胸に
ダガーを突き刺していた。
そこには自動人形の命ともいうべき
魔法玉が埋め込まれている。


それが傷付くということは
僕たち生物で言えば
急所を衝かれるのと同じ。

刺し傷のあたりから魔法玉の中に
収められていたであろう魔法力が
光となって吹き出している。
 
 
 

 
 
 

トーヤ

そ……んな……。

 
 
僕が歩み寄るとクロウはもちろん、
アーシャさんも事切れていた。
 
 

 
 
 
次回へ続く……。
 

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