僕は抵抗する意欲を失い、
呆然とクロウの姿を眺めていた。

でもその時、
ひとつの影が目の前を横切り、
次の瞬間にはライカさんの頭を掴む腕が
切り落とされる。


え……? これ……は……?
 
 

クロウ

あぎゃあぁあああぁっ!

 
 
クロウの腕は
アーシャさんの大剣による一撃によって
切り落とされていた。

さらにアーシャさんは間髪を入れず
クロウに蹴りでの一撃を入れて吹っ飛ばし
ライカさんから離れさせる。



クロウの側であるアーシャさんがなぜ?

しかもアーシャさんは
怒りに満ちた瞳でクロウを睨んでいる。
 
 

アーシャ

ライカさんと
トーヤさんには
危害を加えないと
約束しましたよね?

クロウ

あ……ぁ……。

クロウ

アーシャ、貴様ぁ!
僕に逆らう気かっ?
僕は貴様の主人だぞ!
貴様の生殺与奪を
握っているのだぞ?

 
 
クロウの口調が荒いものへと
変わっている。
よほど想定外の事態で、
食らったダメージも大きいのだろう。

そんなクロウに対してアーシャさんは
淡々と返答する。
 
 

アーシャ

それと約束を
守ることとは別問題です。
約束は守ってもらわないと
困ります。

クロウ

僕に逆らうな!
この制御石を壊せば
貴様の活動は
止まるのだぞッ?

 
 
 
 
 

 
 
 
 
 
クロウは残った左手を懐に入れ、
青く輝く宝石を取り出した。

そして怒りで血走った目を
アーシャさんに向け、
それを軽く握りしめる動作をする。
 
 

クロウ

このまま力を込めれば
制御石は粉々になる。
そうすれば貴様は
動けなくなるぞ?

アーシャ

そのように
作られているので、
それは当然です。

アーシャ

だから何なのです?
約束は守ってください。

クロウ

融通の利かんヤツめ!
この出来損ないの
自動人形がっ!

トーヤ

……っ!?

トーヤ

自動人形?
そうか、アーシャさんは
自動人形だったのか!
だから驚異的な力や
自己治癒能力が……。

トーヤ

でも意思を持つ
自動人形なんて
ガイネさんくらいしか
作れないんじゃ……。

アーシャ

トーヤさん、
早くライカさんの治療を。

トーヤ

――っ!?
う、うんっ!

 
 
 

 
 
 
僕はライカさんに駆け寄った。

すでに虫の息。
慎重に体に触れてみるけど、
反応は鈍っている。
 
 

トーヤ

酷い……。
全身の骨が折れている。
ライカさんの顔にも
傷が……くっ!

トーヤ

さぁ、回復薬を飲んで。

 
 
僕は回復薬を取り出して、
ライカさんの口に注ぎ込もうとした。

でも液薬は口からこぼれ落ちるだけで
飲み込んでくれない。
つまり薬を飲み込む力がないのだろう。



――こうなったら最後の手段。
ライカさん、どうか許してください!

ライカ

…………。

 
 
僕は回復薬を口に含み、
口移しでライカさんに飲ませた。

柔らかくてひんやりとした感触を
唇に感じつつ、
そのまま薬を吹き出して飲み込ませる。

唇がひんやりしているということは
すでに体温が下がっているのだろう。
どうか回復して、ライカさん!




今はまさに生きるか死ぬかの瀬戸際。
少しでもタイミングが遅れていたとしたら
助からない。

――神様、お願いです。
どうかライカさんの命をお救いください。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

ライカ

あ……ぅ……。

トーヤ

ライカさん!

 
 
ライカさんの体から生命の息吹を感じる。
やった、なんとか間に合ったみたいだ。

僕は思わず涙が零れた。
 
 

ライカ

トーヤ……さん……。

トーヤ

ライカさん!
良かった、気が付いた!
もう大丈夫です!

ライカ

トーヤさんが
助けてくれたのですか?

トーヤ

ううん、僕だけじゃない。
アーシャさんも。

ライカ

アーシャさんが?

 
 
アーシャさんは依然として
クロウを睨んだまま牽制し続けている。

でもライカさんが
回復したのには気付いたみたいで、
口元が少し緩んでいるような気がする。
……僕の気のせいかもしれないけど。
 
 

トーヤ

僕はクレアさんたちの
治療をしてきます。
ライカさんはもう少し
安静にしててください。

ライカ

はい……。

クロウ

そんなこと
させると思うか?

 
 
 
 
 

 
 
 
 
 
起き上がったクロウは
手に持っていた宝石を躊躇なく破壊した。

そして一気に間合いを詰めて
僕の目の前に立つ。
その突然の出来事とスピードに驚いて
僕は動くことが出来ない。



いや、これは恐怖で足が動かないんだ。
全身に鳥肌が立ち、
震えが止まらない……。
 
 

クロウ

制御石を破壊しました。
もはやアーシャは
動きません。

クロウ

次はキミの番です。

トーヤ

う……うぐ……。

 
 
 
 
 

 
 
 
 
 

トーヤ

が……は……。

 
 
衝撃と痛みが脳を突き抜け、
一瞬、目の前が真っ白になった。
全身から力が抜け、その場に倒れ込む。

うまく息が出来ない……。
 
 

クロウ

おっと、力が
入りすぎましたか。
加減が分からなくて。

クロウ

そもそもキミは
ほかのみんなよりも
弱いということを
忘れていました。

トーヤ

……っ……。

クロウ

下民の分際で
僕に楯突こうなど
100億年早いわッ!

 
 
クロウは僕の顔に唾を吐き捨てた。

でも僕は食らったダメージが大きすぎて
避けるどころか
指でそれを拭うことさえ出来ない。


あぁ……僕はこのまま死ぬのか……。
 
 

 
 
 
次回へ続く!
 

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