アーシャさんはなぜ僕に
診察をしないのか問いかけてきた。

やっぱりここは僕の考え方を
素直に伝えた方がいいのかもしれないな。
その方がスムーズに話が収まるような
気がするし。
 
 

トーヤ

僕たちは診察や治療を
するのが仕事です。
でもそれは体だけじゃない。
心も含めてのことなんですよ。

アーシャ

心?

トーヤ

こうして話をしたり、
相手の気持ちを考えたり。
それだって医療行為の
ひとつなんですよ。

トーヤ

そして患者さんの中には
異性に体を触られることに
抵抗を持つ人もいます。

ライカ

アーシャさんのように
気にしないという人も
いますけどね。

トーヤ

男子である僕でも
女子であるライカさんでも
今は同じことが出来る
状況です。

トーヤ

だから僕はアーシャさんの
診察をするのは、
同性であるライカさんの方が
良いと判断したわけです。

アーシャ

……経緯に関しては
理解しました。
つまりトーヤさんは
私に気を遣って
くれたのですね。

トーヤ

そういうことです。

アーシャ

優しいのですね。
ありがとうございます。
では、ライカさん。
診察をお願いします。

ライカ

はいっ!

 
 
こうしてライカさんがアーシャさんの
触診をしていった。

もちろん、僕たちは医師ではないから
カレンのように細かい部分まで
診察をすることは出来ないけど。


でも痛い部分がないかとか
単純なことなら僕たちにも分かる。

以前、ギーマ老師に言われたな。
患者さんにとっては医師でも薬草師でも
同じようなものだって。



カレン、ギーマ老師、
今はふたりとも囚われの身。
絶対に助け出してみせる!
 
 

ライカ

どうやら何も
問題はないようですね。

トーヤ

……ん?
ちょっと待って。
その腕の傷……。

 
 
ライカさんによる触診が終わり、
捲った服の袖をアーシャさんが
戻そうとした時だった。

僕はアーシャさんの腕に
傷が残っていることに気付く。


それは大きな切り傷の痕。
すっかり塞がってはいるけど、
痕だけは生々しく残っている。
 
 

アーシャ

何度も同じ場所に
ダメージを受けると、
どうしても傷が
残ってしまうのです。

アーシャ

ただ、生命活動に
支障はありませんので
ご心配なく。

トーヤ

ライカさん、
確かスッピーナ軟膏が
ありましたよね?

ライカ

はい、持っています。

アーシャ

……なんですか、それ?

トーヤ

古傷を治療する薬です。
筋肉や骨などへの
蓄積したダメージを
緩和する効果が
あるんですよ。

 
 
ライカさんは薬箱の中から
スッピーナ軟膏を取り出すと、
それをアーシャさんの古傷に塗り込んだ。

そしてその上から
包帯を丁寧に巻いていく。
これで処置は完了だ。
 
 

アーシャ

……意味が分かりません。
この傷が残っていても
何の支障もないのに。

トーヤ

アーシャさんは
きれいな肌なんですから
もっと大切にして
ほしいです。

アーシャ

では汚い肌なら
大切にしなくても
良いのですか?

トーヤ

そういうわけじゃ
ありませんけど、
せっかくきれいなのに
勿体ないじゃないですか。

アーシャ

……よく分かりません。

ライカ

えっと、
剣だって錆びているよりは
研いできれいな方が
気持ちいいじゃないですか。

ライカ

多少は切れ味にだって
影響するでしょう?
それと似たような
ものです。

アーシャ

なるほど、
おっしゃりたいことが
よく理解できました。

ライカ

でもアーシャさん、
いくら自己治癒能力が
高いからといって
無理はしないでください。

ライカ

回復が追いつかないことも
ありえるんですから。
私は心配です。

トーヤ

僕も同じ気持ちです。

 
 
するとアーシャさんは一瞬、
目を丸くした。
かなり驚いているような感じ。

でもすぐに頬を赤らめて
嬉しそうな顔をする。
 
 

アーシャ

ありがとうございます。
心配されるなんて、
いつ以来でしょうか。
嬉しいです。

アーシャ

ライカさんとトーヤさんが
二人目と三人目です。

トーヤ

一人目は?

アーシャ

私を育ててくれた人です。
事情があって
名前は明かせませんが。

ライカ

では、薬を渡して
おきますので、
軟膏がなくなるまで
1日1回塗ってください。

アーシャ

承知しました。

トーヤ

肌に合わないとか、
何かあったら遠慮なく
言ってください。

ライカ

雑談をしたいなぁとか、
そういうのも大歓迎です。

アーシャ

分かりました。
トーヤさん、ライカさん。
このご恩は忘れません。

トーヤ

ははは、大げさですね。
じゃ、僕たちは失礼します。

 
 
僕たちはアーシャさんに挨拶をして
その場を離れた。


アーシャさんは無口で淡泊な感じだけど、
近くで接してみると
思っていた以上に感情が豊かだ。

単に人付き合いが苦手なだけかもしれない。


またお話できたらいいな……。
 
 

 
 
 
次回へ続く!
 

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