アーシャさんはなぜ僕に
診察をしないのか問いかけてきた。
やっぱりここは僕の考え方を
素直に伝えた方がいいのかもしれないな。
その方がスムーズに話が収まるような
気がするし。
アーシャさんはなぜ僕に
診察をしないのか問いかけてきた。
やっぱりここは僕の考え方を
素直に伝えた方がいいのかもしれないな。
その方がスムーズに話が収まるような
気がするし。
僕たちは診察や治療を
するのが仕事です。
でもそれは体だけじゃない。
心も含めてのことなんですよ。
心?
こうして話をしたり、
相手の気持ちを考えたり。
それだって医療行為の
ひとつなんですよ。
そして患者さんの中には
異性に体を触られることに
抵抗を持つ人もいます。
アーシャさんのように
気にしないという人も
いますけどね。
男子である僕でも
女子であるライカさんでも
今は同じことが出来る
状況です。
だから僕はアーシャさんの
診察をするのは、
同性であるライカさんの方が
良いと判断したわけです。
……経緯に関しては
理解しました。
つまりトーヤさんは
私に気を遣って
くれたのですね。
そういうことです。
優しいのですね。
ありがとうございます。
では、ライカさん。
診察をお願いします。
はいっ!
こうしてライカさんがアーシャさんの
触診をしていった。
もちろん、僕たちは医師ではないから
カレンのように細かい部分まで
診察をすることは出来ないけど。
でも痛い部分がないかとか
単純なことなら僕たちにも分かる。
以前、ギーマ老師に言われたな。
患者さんにとっては医師でも薬草師でも
同じようなものだって。
カレン、ギーマ老師、
今はふたりとも囚われの身。
絶対に助け出してみせる!
どうやら何も
問題はないようですね。
……ん?
ちょっと待って。
その腕の傷……。
ライカさんによる触診が終わり、
捲った服の袖をアーシャさんが
戻そうとした時だった。
僕はアーシャさんの腕に
傷が残っていることに気付く。
それは大きな切り傷の痕。
すっかり塞がってはいるけど、
痕だけは生々しく残っている。
何度も同じ場所に
ダメージを受けると、
どうしても傷が
残ってしまうのです。
ただ、生命活動に
支障はありませんので
ご心配なく。
ライカさん、
確かスッピーナ軟膏が
ありましたよね?
はい、持っています。
……なんですか、それ?
古傷を治療する薬です。
筋肉や骨などへの
蓄積したダメージを
緩和する効果が
あるんですよ。
ライカさんは薬箱の中から
スッピーナ軟膏を取り出すと、
それをアーシャさんの古傷に塗り込んだ。
そしてその上から
包帯を丁寧に巻いていく。
これで処置は完了だ。
……意味が分かりません。
この傷が残っていても
何の支障もないのに。
アーシャさんは
きれいな肌なんですから
もっと大切にして
ほしいです。
では汚い肌なら
大切にしなくても
良いのですか?
そういうわけじゃ
ありませんけど、
せっかくきれいなのに
勿体ないじゃないですか。
……よく分かりません。
えっと、
剣だって錆びているよりは
研いできれいな方が
気持ちいいじゃないですか。
多少は切れ味にだって
影響するでしょう?
それと似たような
ものです。
なるほど、
おっしゃりたいことが
よく理解できました。
でもアーシャさん、
いくら自己治癒能力が
高いからといって
無理はしないでください。
回復が追いつかないことも
ありえるんですから。
私は心配です。
僕も同じ気持ちです。
するとアーシャさんは一瞬、
目を丸くした。
かなり驚いているような感じ。
でもすぐに頬を赤らめて
嬉しそうな顔をする。
ありがとうございます。
心配されるなんて、
いつ以来でしょうか。
嬉しいです。
ライカさんとトーヤさんが
二人目と三人目です。
一人目は?
私を育ててくれた人です。
事情があって
名前は明かせませんが。
では、薬を渡して
おきますので、
軟膏がなくなるまで
1日1回塗ってください。
承知しました。
肌に合わないとか、
何かあったら遠慮なく
言ってください。
雑談をしたいなぁとか、
そういうのも大歓迎です。
分かりました。
トーヤさん、ライカさん。
このご恩は忘れません。
ははは、大げさですね。
じゃ、僕たちは失礼します。
僕たちはアーシャさんに挨拶をして
その場を離れた。
アーシャさんは無口で淡泊な感じだけど、
近くで接してみると
思っていた以上に感情が豊かだ。
単に人付き合いが苦手なだけかもしれない。
またお話できたらいいな……。
次回へ続く!