モンスターの攻撃を食らってしまった
アーシャさんだったけど、
そのタフさと回復力によって
すぐに立ち上がって攻撃に転じた。

実際に目の当たりにすると、
その特殊能力の凄さがあらためて分かる。


でもこれはなんだか……。
 
 

エルム

ロンメルに匹敵する
回復力とタフさですね。

ロンメル

ふむ……。

トーヤ

大丈夫なんでしょうか?

マイル

心配ない。
あの程度の攻撃なら
数分もすれば全回復する。

ユリア

あれじゃ、
トーヤくんやライカさんは
商売あがったりね。

トーヤ

え、えぇ……まぁ……。

 
 
――なんだろう、この違和感は。

ロンメルの例があるし、
アポロが言うように特殊能力は様々だから
アーシャさんの自己治癒能力が高い
ということ自体は不思議じゃない。




でも……でも別の何かに違和感があって
胸の奥がモヤモヤする。

薬草師としてたくさんの患者さんを
診てきた上での何かが……。
 
 

ライカ

自己治癒能力が
あんなに優れているなんて
驚きですね。

ロンメル

俺だってあれくらいの
自己治癒能力はある。
ライカもエルム同様
世間知らずだな。

ライカ

っ!
何百年もダンジョンに
引きこもっていた人に
言われたくありません!

ロンメル

うぐ……。
ち、知識の有無とは
無関係だろう。

アポロ

ロンメルも今回は
一本とられたな。

 
 
その後、アーシャさんを中心とした
傭兵さんたちの活躍のおかげで
モンスターの襲撃を退けることが出来た。

そして彼らを収容すると魔動城は
ウエストサイドへ向かって動き出す。


なお、僕とライカさんは
救護班の皆さんと一緒に
ホールくらいの広さの格納スペースで
怪我をした人たちの
治療に当たることになった。

やっぱり僕にはこの仕事の方が落ち着く。
もちろん、怪我人や病人はいない方が
良いに決まっているけどね。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
怪我人のほぼ全員の治療が終わり、
あとは救護班の皆さんだけで
手が足りるということで
僕はライカさんと一緒に
部屋へ戻ることにした。

その時、僕は格納スペースの片隅にいる
アーシャさんの姿が目に留まる。


――そういえば、
彼女の怪我は大丈夫なんだろうか?
 
 

トーヤ

ライカさん。

ライカ

はい?

 
 
僕はライカさんに目線で
アーシャさんの方向を指し示した。

するとライカさんも
アーシャさんに気付いて
ハッと小さく息を呑む。
 
 

トーヤ

アーシャさんに
声をかけた方が
いいですよね?

ライカ

そうですね。
あれだけの攻撃を
受けたわけですから。

ライカ

表面的には無傷でも
内臓や脳にダメージを
受けているかも
しれませんから。

トーヤ

僕もそう思います。
今までは大丈夫
だったからといって
今回もそうであるとは
限りませんしね。

ライカ

では診察を
させてもらいましょう。

 
 
僕とライカさんは
アーシャさんに歩み寄った。

アーシャさんは僕たちに気付くと
ポカンとしながらこちらを見つめる。
 
 

アーシャ

何か御用ですか?

トーヤ

あ、あの、こんにちは。
戦闘、お疲れさま。

アーシャ

……いえ。
あれが仕事なので。

ライカ

怪我は大丈夫ですか?

アーシャ

はい。自己治癒能力により
問題ないコンディションに
回復しています。

トーヤ

一応、診察を
させてもらっても
いいですか?

アーシャ

あなたたちは?

トーヤ

あ、紹介が遅れました。
僕はトーヤ。
彼女はライカさん。
僕たちは薬草師なんです。

ライカ

よろしく。

アーシャ

私はアーシャです。
なるほど、おふたりは
薬草師さんですか。
でも診察は不要です。
何ともないので。

トーヤ

内臓や脳など
表から見えない場所が
ダメージを受けている
こともありますから。

アーシャ

……不要です。
こうして活動できている
ということは、
問題がないという
ことですから。

トーヤ

…………。

 
 
頑なに診察を拒否するアーシャさん。
意外に頑固な性格なのかな?
それとも診察されるのが嫌だとか?


でも僕たちは薬草師。
怪我をしているかもしれない人を
放ってはおけない。

処置が遅れて
もしものことがあってはいけない。
診察して何も問題ないなら
それはそれでいいんだから。
 
 

トーヤ

アーシャさんは
戦闘が仕事だと
おっしゃいましたよね?

アーシャ

はい。

トーヤ

僕たちは患者さんを
診察したり
治療したりするのが
仕事なんです。

トーヤ

だから診させて
もらえませんか?

アーシャ

……仕事ですか。
それなら
仕方ありません。

 
 
あれだけ頑なだったアーシャさんが
あっさりと同意してくれた。

もしかしたら
ちゃんと理にかなった説明さえすれば
すんなりと聴いてくれる人なのかも。
 
 

トーヤ

では、ライカさん。
触診をお願いします。

ライカ

はいっ。

アーシャ

トーヤさんは
触診をしないのですか?

トーヤ

えっ?

アーシャ

だって
仕事なのでしょう?

トーヤ

でもライカさんと
やることは同じなので。
それなら同性同士の方が
アーシャさんも
安心かなぁって。

アーシャ

……仕事なのに
そんなことを
気にするなんて
おかしいです。

トーヤ

そ、それはそうだけど。

 
 
うあ……。
なんとなくアーシャさんの性格が
少し分かったような気がする。


アーシャさんはプレーンなんだ。
イノセントではなくプレーン。

だから筋の通った説明をすれば
受け入れてくれる反面、
それと違うことをしようとすると
納得するまで絶対に退かないと思う。


どう説明したら
アーシャさんは納得してくれるかな……。
 
 

 
 
 
次回へ続く!
 

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