僕は背負っている
フォーチュンに手をかけつつ、
みんなに出撃を促そうとした。


でもその時、
すかさずマイルさんが
大声でそれを制する。
その表情はなぜか穏やかだ。
 
 

マイル

待ちたまえ。
トーヤくんは大将だ。
無闇に動くものではない。

トーヤ

で、でも……。

マイル

それにあの程度のザコ、
傭兵たちで充分。
そしてこの魔動城の
守備力を信頼したまえ。

クロード

トーヤ、
本当に大丈夫ですよ。
私たちは万が一に備えて
ここで待機していれば
よいのです。

 
 
マイルさんを後押しするように、
クロードも僕にそう声をかけてくる。

でも本当に出撃しなくていいのかな……。
 
 

ロンメル

トーヤよ、
ここはこいつらに
任せるとしよう。

トーヤ

ロンメル……。

ロンメル

聞くところによると
こいつらはウェイブの町を
守り通せていたのだ。

ロンメル

その実力を見せて
もらおうではないか。

アポロ

お、そういえば
そんな話だったな。
そうしようぜ、トーヤ。

トーヤ

う……うん……。

マイル

そうするといい。
百聞は一見にしかず。
見ていたまえ。

 
 
マイルさんが自信満々なだけあって
その後に出撃した傭兵さんたちは
魔法を主体とした攻撃で
次々とモンスターを蹴散らしていった。

それをくぐり抜けて
魔動城に近付いたモンスターに対しては
物理攻撃で滅していく。



確かにこれなら安心して見ていられる。

でもそれならそれで
僕に出来ることがある。
僕は怪我をした傭兵さんたちのために
回復薬を準備しておこう。
 
 

エルム

す、すごい……。

ライカ

傭兵の皆さん、
頼もしいですね。

アポロ

でもよ、
なんか想像と違うな。
大砲は使わないのか?
……つまんねーの。

ユリア

もしかして形だけで
実用に向かないとか?

マイル

はっはっは。
あれはドラゴンや
ゴーレムのような巨大な
相手に対して使うものだ。

エルム

ですよね。
あんなに小さな敵では
的が小さすぎますもんね。

エルム

ただ、当たれば
即死でしょうけど。

マイル

切り札は最後まで
とっておくものだからね。
それにザコに使うのは
コストに見合わんだろう。

 
 
 
 
 

 
 
 
 
 

 
 
 

 
 

 
 
――その時だった。

どこからかたくさんの悲鳴が上がり、
その後も傭兵さんたちに向けられた
炎や吹雪の塊が見える。
 
 
 
 
 

  
 
 
 
 
そしてその直後に
僕たちの前に姿を見せたのは
巨大なモンスターだった。

大きな体の割に動きが素速くて
ブレスも吐き出している。
 
 

マイル

大砲の準備をしろ!

船員

了解!

アポロ

いよいよぶっ放すのか?

マイル

大砲は撃つまでに
タイムラグがある。
いつでも撃てるように
しておくだけさ。

マイル

ただし、
あくまでも念のため。
使うことには
ならないと思う。

ライカ

どういうことですか?

マイル

『彼女』がいるからだよ。
傭兵団最強の彼女がね。

 
 

 
 
 
 
 
 
 
 

大剣を持った女の子

…………。

 
 
 
 
 
マイルさんの指し示した方向には
ウェイブの酒場で大剣を持っていた
女の子の姿があった。

陸走船の甲板の隅に立ち、
無表情のまま大剣を軽々と抜いて
静かに構えている。
 
 

エルム

すごいですね。
あの小さな体で
大剣をことともなく
構えられるなんて。

ロンメル

世間知らずが……。
見た目で判断するな!
魔界では見た目と実力が
一致しない輩など
いくらでもいる。

ロンメル

そんなことでは
寝首を掻かれるぞ?

エルム

う……。

トーヤ

ロンメルの言う通りかも。
セーラさんも小さな体で
巨大な斧を
自在に振り回すからなぁ。

マイル

彼女の名はアーシャ。
ウェイブでは最前線で
活躍してくれた強者だ。

クロード

魔法は使えませんが、
それを補って余りある
剣技の持ち主です。

クロード

スタミナや防御力、
回復力にも
優れているんですよ。
無傷で連戦をこなすことが
何度もありました。

 
 
そうだったのか。
彼女がそんなに強い傭兵さんだったとは
思わなかった。

エルムほどじゃないけど
僕も少し驚いたかも。
 
 

ライカ

あの、
それは生まれ持っての
体質でしょうか?

マイル

そうだろうな。
特殊能力を持つ魔族は
そこそこいる。
能力のタイプも
様々だからな。

ユリア

アポロは魔法容量が
極端に少ないっていう
特殊能力があるもんね。

アポロ

そこじゃねぇっ!
魔族なのに破邪魔法が
使えるって点だよ!
分かっててからかうな!

ユリア

ふふっ♪

 
 
でもアポロの言う通りだ。

僕やエルムだって特殊能力を持っている。
どんな能力が存在していたとしても
不思議なことじゃない。


ロンメルやティアナさん、
タックさんのように
種族特有の能力を持つ場合だってあるし。
 
 

アーシャ

やぁっ!

 
 
 

 
 
 
アーシャさんは
目にも留まらないスピードで
剣を振るっていった。

モンスターはその動きについていけず
全身が傷だらけになっていく。


ただ、モンスターも
大人しくしているわけじゃない。
苦痛に藻掻き苦しみつつも手足やシッポを
無茶苦茶に振り回して反撃する。
 
 

アーシャ

っ!?

 
 
 

 
 
 
 
 
そしてついにモンスターの一撃が
不意にアーシャさんに
ヒットしてしまった。

彼女は地面に
激しくたたきつけられてしまう。


それでも程なくアーシャさんは
フラフラと立ち上がり、
モンスターの反撃が始まる前には
先ほどまでと変わらぬ動きで
攻撃に転じる。



あの回復力とタフさは驚異的だ……。
 
 

 
 
 
次回へ続く!
 

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