エルムはマイルさんが『その後』の商売を
見据えていると言った。
それに対してマイルさんは
興味深げな反応をしている。

その後の商売というのは何なんだろう?
 
 

エルム

利権にまみれた
副都の貴族院が勝つと
搾取される税金も
上がるはずです。

エルム

一方、女王様は
自由な経済を
推進しています。
これだけでも女王様につく
メリットが大きいです。

アポロ

お前、ガキのクセに
頭が回るな。

エルム

『ガキのクセに』は
余計です。

 
 
ムスッとしてエルムだったけど、
すぐに気を取り直して小さく咳払いをして
話を続ける。
 
 

エルム

そして女王様には
勇者様たちがついている。
その事実だけでも
副都側への牽制になる。

エルム

ほかにも情報を分析し、
マイルさんは王都側が
有利と見たのでしょう。

ロンメル

なるほど、クロードが
副都で呼び戻されたのは
万が一の時のために
中立を保っておくためだな。

マイル

…………。

ロンメル

つまりあの時点では
どちらに転ぶか決まって
いなかったのだろう。

トーヤ

っ? どういうこと?

ロンメル

状況次第では
そのまま我々を見限り、
しれっと副都側に
ついていたかもしれん
ということだ。

トーヤ

えぇっ!?

 
 
僕は慌ててマイルさんへ視線を向けた。
するとマイルさんは否定することなく
むしろ堂々と頷いてそれを認める。

まさかマイルさんがそんなことを
考えていたなんて……。
 
 

マイル

ま、私も商人だからね。
そういう気持ちが
あったことは
否定しないよ。

トーヤ

そうか……。
それでパーティから
離れる時のクロードは
複雑な顔をしていたんだ。

マイル

だが、サンドパークに
戻ってきたクロードから
私は初めて脅されたよ。

トーヤ

脅された?

クロード

お、脅すだなんて
そういうわけでは……。

ライカ

どういうことですか?

マイル

もしトーヤくんたち
王都側を見限るなら、
我が社を辞めると
迫られたのさ。

トーヤ

えっ?

クロード

わわっ!
マイル、それ以上は――

マイル

照れることはない。
私もその気持ちに
動かされて
最終的には王都側へつく
決意をしたのだからね。

マイル

クロードにそこまで
言わせる相手を
無下には出来ない。

トーヤ

クロード……。

 
 
クロードは頬を真っ赤にして照れていた。
でもクロードがそんなにも僕たちのことを
思っていてくれたなんて嬉しい。

やっぱりクロードは僕の大親友だ。
 
 

クロード

あはは、
恥ずかしいですね。
でもそれだけ私は
トーヤや皆様のことを
大切に思っているのです。

マイル

私はクロードと
キミたちの間には
深い絆が出来ているのだと
確信したよ。

マイル

クロードはこう見えて
冷静で計算高くて
想像以上にドライなんだ。

トーヤ

そうは見えませんけど。
すごく温かくて
優しいですよ。

クロード

トーヤ……。

マイル

トーヤくんはそれだけ彼に
気に入られているのさ。
そうした気持ちをキミに
気付かせないくらいにね。

ライカ

それでマイルさんは
王都側に
ついたわけですか。

マイル

もちろん、情報を分析して
結果的に王都側が
有利と見たのは事実さ。

マイル

それに腹を括ったからには
王都が勝つように動くのは
当然のこと。

マイル

それなら女王様にも
貸しを作っておける。
戦後の商売にも有利だと
いうことだな。

トーヤ

そうか、それが大きな
リターンというわけですか。

マイル

ま、そういうことさ。

ユリア

事ここに至っては
もうあとには
退けませんね?

マイル

フフッ、
旗色が悪くなったら
キミたちの首を差し出して
命乞いをするさ。

クロード

マイル!

 
 
クロードの叱責にマイルさんは
ニタニタしているだけ。
冗談なのか本心なのか判断がつかない。

マイルさんのことだから
冗談だと……信じたいけど……。


するとそこへロンメルが
割って入ってくる。
 
 

ロンメル

構わん。魔族であれば
それくらいのことを考えて
当然だ。

ロンメル

本心を隠して
近付かれるよりも
よっぽど信用できる。

アポロ

それにもしもの時は
真っ先に俺がコイツらを
殺してやればいいだけだ。

トーヤ

ロンメルだけじゃなく
アポロまで……。

マイル

はーっはっは!
魔族なら
そうでなくてはな!

マイル

トーヤくんたちは
純粋すぎて魔族らしくない。
だが――

マイル

私はその純粋さが
嫌いじゃない。
守るべき価値のある
存在だと思っているよ。

トーヤ

マイルさん……。

 
 
マイルさんは無垢な笑みを浮かべていた。
今の言葉はきっと嘘じゃないと思う。
根拠はないけどそんな気がする。

やっぱり根は悪い人じゃない。
 
 
 
 
 

 
 
 
その時、不意に轟音とともに
魔動城全体が大きく揺れた。
まるで巨大な地震でもおきたかのように。

でもそれなら周りの木々が
揺れていないのはおかしい。
 
 

マイル

ん? なんだ?

船員

モンスター襲来ッ!!
2時の方向です!

 
 
伝声管から差し迫ったような声が響いた。
きっと見張りをしている人が
伝えてきたのだろう。

僕たちは一斉にその方向へ視線を向けた。


すると空には翼をはためかせながら
飛翔している、
細かく黒い無数のモンスターの姿を
発見する。


見た目はまるで蚊柱のようだけど
彼らみたいに無害じゃないんだよね、
きっと……。

明らかに僕たちに
攻撃をしてきているんだから。
 
 

マイル

空を飛ぶモンスターか。
しかもあの数は厄介だな。

マイル

すぐに撃退を!
傭兵たちに出撃するよう
命令を出せ!

船員

了解!

 
 
にわかに緊張感が高まり、忙しくなる艦橋。

乗組員さんたちがバタバタと走り回り、
警報も流される。


僕たちも戦いの準備をしないと……。
 
 

 
 
 
次回へ続く!
 

第173幕 平穏な瞬間(とき)は過ぎ去って

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