魔動城の内部は以前に乗ったことのある
陸走船とそんなに変わりはなかった。

確かにあちこちに
武具や食料が置いてあったり
傭兵さんたちが鍛練をしたり
乗務員さんたちが忙しそうに
あちこち走り回ったりしてるけど。


それらを考えれば、
乗り物としての居住性は
犠牲になっていると言えるかもしれない。
 
 

クロード

皆様には個室を
ご用意したいところですが
こんな状況ですから
大部屋でご勘弁ください。

トーヤ

クロード、
それは気にしないで。
野宿に比べればマシだし。

クロード

あ、トーヤとクレア様は
個室です。
指揮官という立場ですから。

トーヤ

え?
みんなと一緒でいいよ。
指揮官といっても
名目上に過ぎないし。

ロンメル

馬鹿者、お前はもう少し
自分の立場を意識しろ。
リーダーがそんなことでは
我々の士気に関わる。
もっと堂々としていろ。

ライカ

私たちはトーヤさんの
その気持ちだけで
充分です。

 
 
ロンメルとライカさん以外のみんなも
僕の方を向いて頷いてくれている。


僕の方こそ、
みんなの気持ちだけで
充分なんだけどなぁ。

そうなると、
みんなを納得させる理由を
考えるしかないか……。

僕は少し考え込んで、
思いついた理由をみんなに告げる。
 
 

トーヤ

みんなが一緒の方が
僕は安心なんだけどな。

トーヤ

それに護衛の数が
少ない方が
危ないと思うんだ。

アポロ

なるほど、一理あるな。
トーヤも考えてるんだな。

トーヤ

よしっ♪
アポロは
納得してくれたぞ。

ユリア

……トーヤくん、
それ、咄嗟に思いついた
理由でしょ?

ユリア

私はアポロみたいに
鈍感じゃないの。
騙されないからね?

トーヤ

うぐ……。
ユリアさん、鋭い……。

トーヤ

いえ……その……
僕はホントに――

 
 
するとユリアさんは手振りで
僕が話すのを制止して、
こちらを冷たい視線で見つめてくる。

なんだろう、この威圧感。
少し背筋が冷たくなる……。
 
 

ユリア

ぶっちゃけ、
トーヤくんには状況次第で
私たちを捨て駒にする
覚悟でいてもらわないと
困るからね?

トーヤ

えっ?

ユリア

トーヤくんが私たちを
即座に切り捨てるような
非情な性格じゃないのは
分かってる。

ユリア

でも戦争っていうのは
そういうことよ。
目的のためには
つらい判断もしなければ
ならないことがある。

ユリア

指揮官であるなら尚更。
それを忘れないで。

 
 
ユリアさんの言葉は僕の心を
大きく振るわせた。
目が覚める思いというのだろうか。



そうだ、みんなは今回の作戦において、
僕に命を預けてくれている。
リーダーはその責任を背負っているんだ。

使い魔であるエルムやロンメルは至っては
そもそも全ての運命を
僕に任せてくれているわけだし。


そのことを決して忘れちゃいけないんだ。
 
 

トーヤ

ありがとうございます。
では、リーダーとして
あらためてお願い――
いえ、命令します。

 
 
 
 
 

トーヤ

みんな一緒の部屋に。
そして僕を
守ってください。

 
 
 
 
 

ユリア

トーヤくん……。

アポロ

よっしゃ、分かった!
任せておけ!

エルム

はい、僕は
兄ちゃんに従います。

ロンメル

承知。

ライカ

トーヤさんの思うままに。

クレア

ふふ、分かったわ。

ユリア

…………。

 
 
ユリアさんは面食らったまま
しばらく沈黙していた。

でもやがてフッと頬を緩めて
小さく息をつく。
 
 

ユリア

うん、そういうことなら
全力で守らせてもらうわ。

クロード

では、そのように
手配させていただきます。

トーヤ

ワガママを言って
ごめんね、クロード。

クロード

いえ、むしろこれほど
トーヤのことを頼もしいと
思ったことはありません。

クロード

あ、そうそう!
今後は私もトーヤたちの
メンバーのひとりとして
加わりますのでよろしく!

トーヤ

えっ?

クレア

クロードが加わること、
ミューリエやマイルと
話はついてるわ。

トーヤ

そうだったんですか。

クロード

私は前衛を
務めさせていただきます。

トーヤ

助かるよ、クロード!

 
 
こうして再びクロードが
僕たちのパーティに加わった。
これほど心強いことはない。

戦力的にというのもあるけど、
信頼できる仲間が増えて
そばにいてくれるだけで
勇気が湧いてくるから。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
その後、魔動城で移動を開始して以来、
僕は船における艦橋の部分へ
常駐することになっていた。

ここには僕たちの
グループメンバーのほかに
マイルさんやその側近の人たちがいる。



大抵は何もすることがないんだけど、
常に緊張感に包まれていて
精神的に疲れる。

――何もないのはいいことなんだけどね。
 
 

クロード

どうしたのですか?
やはり緊張しますか?

トーヤ

う、うん。
やっぱりまだ慣れないよ。

マイル

こんなもの、
慣れない方が良いのだ。
戦争マニアでも
ない限りはな。

ロンメル

意外だな。
貴様は商人だろう?
戦争が続いた方が
武器や道具が売れて
儲かるのではないか?

 
 
そう問いかけられたマイルさんは
感慨深げな表情をして軽く俯いた。

それからゆっくり顔を上げ、
確信に満ちたような瞳をこちらに向ける。
 
 

マイル

そういう時代が
あったことは否定しない。
だが、これからは違う。
確実に世界が変わる。

マイル

いや、女王様が即位して
すでに少しずつ
変わり始めている。

マイル

もはや武器で儲ける
時代ではないのだよ。

ライカ

確証があるのですか?

マイル

商人としての勘だ。
だが、世界を見ていて
その息吹を感じているのは
確かだ。

エルム

それに戦争に巻き込まれて
死んでしまったら、
意味ないですもんね。
――あの世におカネは
持っていけませんから♪

 
 
 

 
 

 
 
 
その言葉にみんなが声を上げて
ドッと吹き出す。
 
 

アポロ

だが、その考え方なら
マイルさんは
この場にいないで真っ先に
逃げ出すんじゃないか?

ロンメル

アポロよ、甘いぞ。
商売にリスクは
つきものだ。
そしてリスクが大きいほど
それに見合ったリターンが
なければならない。

ライカ

つまりマイルさんは
大きなリターンがあると
考えてこの場にいる
ということですか?

ロンメル

そういうことだ。

 
 
するとそれを聞いていたマイルさんは
両手を上げながら
わざとらしく首を左右に振る。
 
 

マイル

いやいや、参った。
鋭いね、ロンメルくん。
部下として
スカウトしたいよ。

エルム

おそらくマイルさんは
『その後』の商売を
見据えているのでしょう。

マイル

ほぅ?

 
 
エルムに向けたマイルさんの瞳が
キラリと輝いた。
そして興味深げに次の言葉を待っている。



そういえば、
かつてセーラさんに対しても
似たような反応をしていたような気がする。

エルムの言うその後の商売って
何のことなんだろう?
 
 

 
 
 
次回へ続く!
 

第172幕 変わらない想い、変えていく意識

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