魔動城の内部は以前に乗ったことのある
陸走船とそんなに変わりはなかった。
確かにあちこちに
武具や食料が置いてあったり
傭兵さんたちが鍛練をしたり
乗務員さんたちが忙しそうに
あちこち走り回ったりしてるけど。
それらを考えれば、
乗り物としての居住性は
犠牲になっていると言えるかもしれない。
魔動城の内部は以前に乗ったことのある
陸走船とそんなに変わりはなかった。
確かにあちこちに
武具や食料が置いてあったり
傭兵さんたちが鍛練をしたり
乗務員さんたちが忙しそうに
あちこち走り回ったりしてるけど。
それらを考えれば、
乗り物としての居住性は
犠牲になっていると言えるかもしれない。
皆様には個室を
ご用意したいところですが
こんな状況ですから
大部屋でご勘弁ください。
クロード、
それは気にしないで。
野宿に比べればマシだし。
あ、トーヤとクレア様は
個室です。
指揮官という立場ですから。
え?
みんなと一緒でいいよ。
指揮官といっても
名目上に過ぎないし。
馬鹿者、お前はもう少し
自分の立場を意識しろ。
リーダーがそんなことでは
我々の士気に関わる。
もっと堂々としていろ。
私たちはトーヤさんの
その気持ちだけで
充分です。
ロンメルとライカさん以外のみんなも
僕の方を向いて頷いてくれている。
僕の方こそ、
みんなの気持ちだけで
充分なんだけどなぁ。
そうなると、
みんなを納得させる理由を
考えるしかないか……。
僕は少し考え込んで、
思いついた理由をみんなに告げる。
みんなが一緒の方が
僕は安心なんだけどな。
それに護衛の数が
少ない方が
危ないと思うんだ。
なるほど、一理あるな。
トーヤも考えてるんだな。
よしっ♪
アポロは
納得してくれたぞ。
……トーヤくん、
それ、咄嗟に思いついた
理由でしょ?
私はアポロみたいに
鈍感じゃないの。
騙されないからね?
うぐ……。
ユリアさん、鋭い……。
いえ……その……
僕はホントに――
するとユリアさんは手振りで
僕が話すのを制止して、
こちらを冷たい視線で見つめてくる。
なんだろう、この威圧感。
少し背筋が冷たくなる……。
ぶっちゃけ、
トーヤくんには状況次第で
私たちを捨て駒にする
覚悟でいてもらわないと
困るからね?
えっ?
トーヤくんが私たちを
即座に切り捨てるような
非情な性格じゃないのは
分かってる。
でも戦争っていうのは
そういうことよ。
目的のためには
つらい判断もしなければ
ならないことがある。
指揮官であるなら尚更。
それを忘れないで。
ユリアさんの言葉は僕の心を
大きく振るわせた。
目が覚める思いというのだろうか。
そうだ、みんなは今回の作戦において、
僕に命を預けてくれている。
リーダーはその責任を背負っているんだ。
使い魔であるエルムやロンメルは至っては
そもそも全ての運命を
僕に任せてくれているわけだし。
そのことを決して忘れちゃいけないんだ。
ありがとうございます。
では、リーダーとして
あらためてお願い――
いえ、命令します。
みんな一緒の部屋に。
そして僕を
守ってください。
トーヤくん……。
よっしゃ、分かった!
任せておけ!
はい、僕は
兄ちゃんに従います。
承知。
トーヤさんの思うままに。
ふふ、分かったわ。
…………。
ユリアさんは面食らったまま
しばらく沈黙していた。
でもやがてフッと頬を緩めて
小さく息をつく。
うん、そういうことなら
全力で守らせてもらうわ。
では、そのように
手配させていただきます。
ワガママを言って
ごめんね、クロード。
いえ、むしろこれほど
トーヤのことを頼もしいと
思ったことはありません。
あ、そうそう!
今後は私もトーヤたちの
メンバーのひとりとして
加わりますのでよろしく!
えっ?
クロードが加わること、
ミューリエやマイルと
話はついてるわ。
そうだったんですか。
私は前衛を
務めさせていただきます。
助かるよ、クロード!
こうして再びクロードが
僕たちのパーティに加わった。
これほど心強いことはない。
戦力的にというのもあるけど、
信頼できる仲間が増えて
そばにいてくれるだけで
勇気が湧いてくるから。
その後、魔動城で移動を開始して以来、
僕は船における艦橋の部分へ
常駐することになっていた。
ここには僕たちの
グループメンバーのほかに
マイルさんやその側近の人たちがいる。
大抵は何もすることがないんだけど、
常に緊張感に包まれていて
精神的に疲れる。
――何もないのはいいことなんだけどね。
どうしたのですか?
やはり緊張しますか?
う、うん。
やっぱりまだ慣れないよ。
こんなもの、
慣れない方が良いのだ。
戦争マニアでも
ない限りはな。
意外だな。
貴様は商人だろう?
戦争が続いた方が
武器や道具が売れて
儲かるのではないか?
そう問いかけられたマイルさんは
感慨深げな表情をして軽く俯いた。
それからゆっくり顔を上げ、
確信に満ちたような瞳をこちらに向ける。
そういう時代が
あったことは否定しない。
だが、これからは違う。
確実に世界が変わる。
いや、女王様が即位して
すでに少しずつ
変わり始めている。
もはや武器で儲ける
時代ではないのだよ。
確証があるのですか?
商人としての勘だ。
だが、世界を見ていて
その息吹を感じているのは
確かだ。
それに戦争に巻き込まれて
死んでしまったら、
意味ないですもんね。
――あの世におカネは
持っていけませんから♪
その言葉にみんなが声を上げて
ドッと吹き出す。
だが、その考え方なら
マイルさんは
この場にいないで真っ先に
逃げ出すんじゃないか?
アポロよ、甘いぞ。
商売にリスクは
つきものだ。
そしてリスクが大きいほど
それに見合ったリターンが
なければならない。
つまりマイルさんは
大きなリターンがあると
考えてこの場にいる
ということですか?
そういうことだ。
するとそれを聞いていたマイルさんは
両手を上げながら
わざとらしく首を左右に振る。
いやいや、参った。
鋭いね、ロンメルくん。
部下として
スカウトしたいよ。
おそらくマイルさんは
『その後』の商売を
見据えているのでしょう。
ほぅ?
エルムに向けたマイルさんの瞳が
キラリと輝いた。
そして興味深げに次の言葉を待っている。
そういえば、
かつてセーラさんに対しても
似たような反応をしていたような気がする。
エルムの言うその後の商売って
何のことなんだろう?
次回へ続く!