六十部の作戦会議は長引いた。全ては明日の為とはいえ、ガッツリと説明を聞かされ、覚えさせられた。おかげで今日は早く寝られそうだ。

――重要な作戦は明日、決行される。

鮫野木淳

さてと、重要な話をするぞ、重要な話だ

藤松紅

そんなのどうでも良い

鮫野木淳

どーても良くない。俺にとっては重要なんだ


 そう、重要な事だ。人類にとって寝るという合意は必要なことで安らぎである。故に寝る場所も重要なのだ。

鮫野木淳

いいか、この部屋で寝られるのは二人だけだ。ベッドか布団二つに一つずつ、この意味がわかるか

凪佐新吾

あの、詰めて寝れば良いんじゃないの

鮫野木淳

凪佐、それは違う。一人に一つあることが重要なのさ

藤松紅

要は二人で一つの布団で寝たくないってことだろう

鮫野木淳

……うん

藤松紅

あのな……


 藤松は呆れて物が言えない。頭を抱え鮫野木に提案をした。

藤松紅

だったら、下で寝てこい。毛布貸してやる

鮫野木淳

ああ、どうもって! ここ俺の部屋なんだけど、毛布もな!

鮫野木淳

下って、ソファーでか、ソファーで寝ろってか!

藤松紅

そういう事になるわな

鮫野木淳

いやいやいや、ないないない


 両手を左右に振って鮫野木は否定する。

鮫野木淳

そんなところで寝たら、風邪を引いてしまう

鮫野木淳

ちゃんとした布団の上で寝たいんだ。そもそも、ここは俺の部屋だ。ベッドで寝れる権利は俺に会って良い

鮫野木淳

まぁ、俺は鬼じゃない。ベッドを貸してあげる心はあるのさ

鮫野木淳

ただ、藤松。お前にだけは貸さん! お前が下のソファーで寝ろ!!

藤松紅

なるほど、よーくわかった


 藤松は拳を鮫野木の目の前に出した。

藤松紅

よし、ジャンケンだ。ジャンケンで決めようじゃないか。ここで寝るか、ソファーで寝るか

鮫野木淳

……いいだろう

凪佐新吾

あの僕はいいの? ジャンケン

鮫野木淳

凪佐を寒いソファーで寝かせるわけにいかないだろ


 凪佐の肩に手に置いて答えた。

凪佐新吾

あ、うん

藤松紅

俺はいいのかよ

藤松紅

よーし、ジャンケンだ

鮫野木淳

おう


 お互いに見つめ合い拳を振り上げて掛け声をかける。

鮫野木淳

ジャン

藤松紅

ケン

鮫野木淳

ポン

藤松紅

ポン


 ゆっくりと暗い廊下を歩き鮫野木はリビングに続く扉を開けた。

六十部紗良

どうしたの?

鮫野木淳

六十部こそ、寝ないのか


 ドアを開けると六十部が話しかけてきた。薄暗いダイニングの椅子に六十部は本を広げ座っていた。

六十部紗良

私は眠たくなるまで寝れないから、こうして本を読んでいるの。で、あなたはどうして毛布なんて持っているの

鮫野木淳

それが、理不尽なことがあってな

六十部紗良

理不尽?


 鮫野木は六十部の向かい側に座った。

鮫野木淳

何、読んでいるんだ?

六十部紗良

あなたの部屋にあった。魔装少女リンカ、お勧めされたから暇つぶすに読んでいるの


 本の表示を見ると、魔装少女リンカ四巻だった。

鮫野木淳

へぇ、意外だな

六十部紗良

そんなに意外なの、私が小説を読むのが

鮫野木淳

いや、ラノベ読むんだな。六十部はどちらかというと純文学とか読んでいそうだからな

六十部紗良

そうね、純文学って言っても推理小説しか読んでいないわ

六十部紗良

それよりラノベ? って何かしら?


 まずはそこからか、漫画も読まないって言ってたしな。

鮫野木淳

ライトノベル、略してラノベって言うんだ。読みやすい小説とでも言っておこうかな

六十部紗良

そう、ライトノベルね。ねぇ、鮫野木くん。どうしてページの合間に絵があるのかしら?

鮫野木淳

ああ、挿絵だな。ラノベの特徴だよ。挿絵見たさに買う人も居るし、絵があると状況もわかりやすかったでしょ


 まぁ、俺もその一人なんだよな。俺はちゃんと中身も読んでいますよ。

六十部紗良

ええ、エッチなシーンも丁寧に描かれていたわ。丁度、お風呂のシーンが描かれているわよ。鮫野木くん


 そう言うと挿絵を見せてきた。挿絵では主人公のリンカと敵だったツヅルが一緒にお風呂に入っているシーンだった。答えにくい質問が飛んできたな。

鮫野木淳

いや、それは、そ、そういう物なんです。萌えの文化というか何というか、上手く説明できないけど、そういう物なんで

鮫野木淳

確かにエロい表現はあるけど、このシーンはただ、お風呂に入っているだけじゃない。これのおかげで打ち解けて、最終決戦で共に戦うことになるんです!


 六十部は本を閉じて立ち上がった。

六十部紗良

わかったわ、最終決戦ね。私達も最終決戦に備えて寝るわ。おやすみなさい

鮫野木淳

お、おう。そうか。おやすみなさい

六十部紗良

うふふ、よく寝られそうだわ


 からかう時の笑みを浮かべて六十部は楽しそうであった。

六十部紗良

そうだ、続きが観たいから、元の世界に戻ったら貸してくれる?

鮫野木淳

それは勿論

六十部紗良

なら、明日はお互いに頑張らないとね。ついでに電気、消しといてね

鮫野木淳

はいはい

 六十部はダイニングにある電球を指して二階に向った。女子は両親の寝室で寝ることになっている。ダブルベッドで窮屈しないで寝れそうだ。

 鮫野木も寝ようとダイニングの電気を消した。真っ暗になると思ったが月の光で意外と暗闇の中でも物が見える。
 静かになったダイニングからソファーに向う。向う途中で外が見れる。外にはアンノンがうようよとうごめいるのがわかった。

鮫野木淳

さてと


 カーテンを閉めてソファーに横たわる。クッションを枕にして毛布を掛けて眠りにつこう。
 明日は忙しくなる。この裏の世界から野沢心を救って、この裏の世界から出るために。

エピソード49 決戦前夜(6)

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