夕ご飯の準備を待つ中、鮫野木は頭をフル回転させて新しい話題を考えた。

 何か無いか、何か話題はなんでもいいから話題を……。

鮫野木淳

六十部は料理手伝わないのか

六十部紗良

それは無理ね。戦力外通告を出されたわ

鮫野木淳

戦力外通告って、ああ


 そんなのプロ野球でぐらいしか聞かないんだが、六十部は料理が苦手らしい。どんなことでも巧みに出来そうな六十部にこんな弱点があるとは意外だな。
 キッチンから秋斗が声をかけてくる。

久賀秋斗

サラッチが料理できなくても私が作ってあげるよ

六十部紗良

別にしなくて良いわ。自分で出来るようになるわ

久賀秋斗

うーん、難しいな。サラッチは適当が出来ないからな

六十部紗良

アレはちゃんとした量を記載してないレシピ本がいけないの、私の責任じゃないわ


 今の会話でなんとなく六十部が料理できない理由が分かった気がする。

六十部紗良

そんなことより、料理に集中しなさい

久賀秋斗

ういーす


 秋斗は料理を進める。しばらくしてキッチンからは揚げ物の音がしてきた。何か揚げ物をしているんだろうか。

鮫野木淳

ユキちゃん、何作ってるの?

小斗雪音

豚カツだよ。今日のために豚肉を取っておいたんだ

鮫野木淳

どうして?

小斗雪音

淳くんが帰ってきたからだよ。好きでしょ豚カツ

鮫野木淳

なるほど


 ユキちゃんの言う通りで俺は豚カツがこの世の食べの物で一番好きだ。

鮫野木淳

わざわざ俺の為にありがたいぜ

六十部紗良

まぁ。最後の晩餐、には丁度良いかも


 六十部はそう呟くとダイニングに向いだした。

鮫野木淳

ん? どういう意味だ

六十部紗良

言ったじゃない。明日のことで話があるって

鮫野木淳

だから?

六十部紗良

その話は夕ご飯の後でね


 そう言うと六十部はダイニングまで歩き机を引いて座る。六十部の明日のことが気にはなるが鼻に豚カツの揚げたての香ばしい臭いでそんなことも気にしなくなる。

藤松紅

おっ、美味しそうな臭いじゃないか


 二階から漫画を戻してきた藤松は臭いに釣られダイニングに向おうとしている。

鮫野木淳

おい、まだ片づいてないぞ、お前が出したんだろ

藤松紅

別に良いじゃないか。後で片付けるからよ

小斗雪音

そうだよ、藤松くん。片付けないと藤松くんの豚カツだけ三分の一にするよ


 小斗は笑顔で注意をした。手には包丁を握ったままだ。

藤松紅

えっ、それはやだな


 藤松は素早くUターンをしてリビングにある漫画の山を掴んだ。

藤松紅

なぁ、手伝ってくれよ


 藤松は呟いた。

凪佐新吾

じゃあ少し手伝うよ

鮫野木淳

駄目だ。凪佐、藤松の為にならない。自分でやらせろ

藤松紅

何だよ、良いから手伝えよ

鮫野木淳

行くぞ、凪佐。俺達も座って待ってようぜ

凪佐新吾

うん

藤松紅

それでも友達か! お前ら

 藤松の叫びもむなしく、鮫野木と凪佐はダイニングに向う。藤松は渋々、漫画を持てるだけ重ねて二階に運んだ。

 それなりに時間が経って料理が完成した。テーブルに一汁三菜と素晴らしい料理が人数分、用意される。並べられた料理は店の定食みたいだ。つい唾を飲み込んでしまう。

小斗雪音

いただきます

 小斗の掛け声で一斉に食べ始める。
 鮫野木も「いただきます」と言ってから食べ始めた。最初に手にかけたいのは豚カツだったが、味噌汁に手を伸ばして飲んだ。

 インスタントと違う味がする。手作りの味だ。鰹節から出汁を取ったんだな。味噌と合ってとても美味しい。

鮫野木淳

美味しい。この味噌汁、誰が作ったの

久賀秋斗

それは、なんと! ユッキーの味噌汁なんだよ。まさにママの味


 秋斗は自信満々に小斗が味噌汁を作ったことを自慢する。

鮫野木淳

ママの味はミ〇キ―だろ

久賀秋斗

もう、そういう意味じゃないって

鮫野木淳

分かってる。出汁は一から取ったのか?

小斗雪音

うん、材料がそろっていたから。それに作り置きを暖めただけだから


 小斗は恥ずかしそうに答えた。

鮫野木淳

美味しいぜ。ユキちゃん

小斗雪音

そ……そう

 小斗は黙々と食べ続ける。箸を豚カツに手をかけた。小斗が豚カツを食べたとき、ザックザック――と音が聞こえた。その音を聞いて鮫野木も豚カツを食べた。

鮫野木淳

うめぇ

 噛むとカラっと揚がった綺麗なキツネ色の衣がサクサクっと音を立てる。柔らかい豚肉から肉汁が出て来る。それに加え、トロっとしたソースが良いアシストをしている。

 これは美味しすぎる。ご飯が欲しい。豚カツと一緒にご飯を食べた。自然と笑みがこぼれてしまう。

 箸が止まらないまま、食事が終わった。食器を片付けて皿を洗うのを手伝った後、六十部はダイニングにみんなを集めて約束通り話しをし出した。

六十部紗良

食事の後で悪いけど鮫野木くん。あなたが持っている短剣を見せてもらえない

鮫野木淳

これか


 鮫野木は腰のポケットに閉まっていた短剣を取り出してテーブルに置いた。

六十部紗良

じゃあ、明日の作戦会議をしましょう

エピソード48 決戦前夜(5)

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