夕ご飯の準備を待つ中、鮫野木は頭をフル回転させて新しい話題を考えた。
夕ご飯の準備を待つ中、鮫野木は頭をフル回転させて新しい話題を考えた。
何か無いか、何か話題はなんでもいいから話題を……。
六十部は料理手伝わないのか
それは無理ね。戦力外通告を出されたわ
戦力外通告って、ああ
そんなのプロ野球でぐらいしか聞かないんだが、六十部は料理が苦手らしい。どんなことでも巧みに出来そうな六十部にこんな弱点があるとは意外だな。
キッチンから秋斗が声をかけてくる。
サラッチが料理できなくても私が作ってあげるよ
別にしなくて良いわ。自分で出来るようになるわ
うーん、難しいな。サラッチは適当が出来ないからな
アレはちゃんとした量を記載してないレシピ本がいけないの、私の責任じゃないわ
今の会話でなんとなく六十部が料理できない理由が分かった気がする。
そんなことより、料理に集中しなさい
ういーす
秋斗は料理を進める。しばらくしてキッチンからは揚げ物の音がしてきた。何か揚げ物をしているんだろうか。
ユキちゃん、何作ってるの?
豚カツだよ。今日のために豚肉を取っておいたんだ
どうして?
淳くんが帰ってきたからだよ。好きでしょ豚カツ
なるほど
ユキちゃんの言う通りで俺は豚カツがこの世の食べの物で一番好きだ。
わざわざ俺の為にありがたいぜ
まぁ。最後の晩餐、には丁度良いかも
六十部はそう呟くとダイニングに向いだした。
ん? どういう意味だ
言ったじゃない。明日のことで話があるって
だから?
その話は夕ご飯の後でね
そう言うと六十部はダイニングまで歩き机を引いて座る。六十部の明日のことが気にはなるが鼻に豚カツの揚げたての香ばしい臭いでそんなことも気にしなくなる。
おっ、美味しそうな臭いじゃないか
二階から漫画を戻してきた藤松は臭いに釣られダイニングに向おうとしている。
おい、まだ片づいてないぞ、お前が出したんだろ
別に良いじゃないか。後で片付けるからよ
そうだよ、藤松くん。片付けないと藤松くんの豚カツだけ三分の一にするよ
小斗は笑顔で注意をした。手には包丁を握ったままだ。
えっ、それはやだな
藤松は素早くUターンをしてリビングにある漫画の山を掴んだ。
なぁ、手伝ってくれよ
藤松は呟いた。
じゃあ少し手伝うよ
駄目だ。凪佐、藤松の為にならない。自分でやらせろ
何だよ、良いから手伝えよ
行くぞ、凪佐。俺達も座って待ってようぜ
うん
それでも友達か! お前ら
藤松の叫びもむなしく、鮫野木と凪佐はダイニングに向う。藤松は渋々、漫画を持てるだけ重ねて二階に運んだ。
それなりに時間が経って料理が完成した。テーブルに一汁三菜と素晴らしい料理が人数分、用意される。並べられた料理は店の定食みたいだ。つい唾を飲み込んでしまう。
いただきます
小斗の掛け声で一斉に食べ始める。
鮫野木も「いただきます」と言ってから食べ始めた。最初に手にかけたいのは豚カツだったが、味噌汁に手を伸ばして飲んだ。
インスタントと違う味がする。手作りの味だ。鰹節から出汁を取ったんだな。味噌と合ってとても美味しい。
美味しい。この味噌汁、誰が作ったの
それは、なんと! ユッキーの味噌汁なんだよ。まさにママの味
秋斗は自信満々に小斗が味噌汁を作ったことを自慢する。
ママの味はミ〇キ―だろ
もう、そういう意味じゃないって
分かってる。出汁は一から取ったのか?
うん、材料がそろっていたから。それに作り置きを暖めただけだから
小斗は恥ずかしそうに答えた。
美味しいぜ。ユキちゃん
そ……そう
小斗は黙々と食べ続ける。箸を豚カツに手をかけた。小斗が豚カツを食べたとき、ザックザック――と音が聞こえた。その音を聞いて鮫野木も豚カツを食べた。
うめぇ
噛むとカラっと揚がった綺麗なキツネ色の衣がサクサクっと音を立てる。柔らかい豚肉から肉汁が出て来る。それに加え、トロっとしたソースが良いアシストをしている。
これは美味しすぎる。ご飯が欲しい。豚カツと一緒にご飯を食べた。自然と笑みがこぼれてしまう。
箸が止まらないまま、食事が終わった。食器を片付けて皿を洗うのを手伝った後、六十部はダイニングにみんなを集めて約束通り話しをし出した。
食事の後で悪いけど鮫野木くん。あなたが持っている短剣を見せてもらえない
これか
鮫野木は腰のポケットに閉まっていた短剣を取り出してテーブルに置いた。
じゃあ、明日の作戦会議をしましょう