人……形……?
考えていた。
この状況から脱する方法を。
腕力でねじ伏せるか
2対1とは言え
向こうは非力な老人と女。
それに
女が時計塔にいたあの女なら
自分が動けば
灯里に危害を加えるであろう侯爵に
反旗を翻すかもしれない。
「助けてくれ」の対象が灯里なら、の話だが
だが、もし違ったとしても腕力差ではこちらに優がある
灯里を抱えている侯爵は身動きが取れないも同じ。
なら、実際には女との1対1だ
それでも
今ここで灯里を奪い返すのは
無理かもしれない。
だが、
自分ひとり脱することはできる。
そうなれば
外に助けを呼びに行ける。
連続事件の重要参考人なら
たとえ相手が華族でも
警察だって重い腰を上げるだろう。
あとは、外のどこかにいる紫季に連絡が取れれば――
しかし
この人形のように
侯爵の言葉の前に、
その考えは脆く崩れ去った。
人、形……?
火花が散った時に見えた
侯爵の足元。
それは
紫、季……?
長い黒髪が見える。
その陰から何かがこぼれている。
血ではない。
骨でもない。
光沢のある円盤型のもの。
細長い棒状のもの。
くるくると丸まった
金属片のようなもの。
それは人間が持ち得ない
自動人形の
部品。
どういう……こと、だ……?
紅い簪と振袖で
「撫子」と認識するように
ゴシック調のドレスだから
「紫季」と思っただけなのかもしれない。
そうでなければ
紫季が
自動人形だという世界に
足を踏み入れているに違いない。
でも、紫季は
彼女は人形ではない。
怒るし、嫌味も言う。
既に用意された台詞を
選んで吐いているのではなく
自分で考えて
喋っている。
それは
自動人形にはできないことだ。
だが
その一方で
もしかしたら、とも思う。
人形のような無表情さ。
人形のような容姿。
彼女が血を流しているところも
見たことなどない。
だから
紫季から歯車がこぼれ落ちていても
違和感を感じない
……の、かもしれない。
この娘のパーツをそのまま移植してもよかったのだが、私の撫子はもっとおっとりした大人しい娘なのだよ。
何を、言っている?
家事ができるのは子女として持つべき才能のひとつだが、それだけではもう古い
何を、言っているんだ……?
私がいなくなった後もひとりで生きていけるためには、もっと優秀でなくては
ここは自分が戻りたかった
あの最初の世界なのか?
それとも
違う世界なのか?
そして
そ、れが……
龍神池で見つかった
ピアノに秀でた娘を襲った理由か?
木下女史を
襲った理由か?
わからない。
わからないけれど――
俺は、もう見逃して後悔するのは嫌だ
助けてくれると、信じています