そうだ。紫季は


彼女は侯爵らがここにいることを
知っているのだろうか。
灯里の不在を
不審に思いはしないだろうか。


もし知らなかったとしても
晴紘が大騒ぎしていたのを聞けば
何かあったと思うだろう。



警察なりに通報してくれれば。
表沙汰にしてくれれば
まだ手はある。








しかし、紫季は
未だに姿を見せない。





こんな時に外出か?

納品……に紫季ひとりで出るはずはないし

それか、ここも紫季のいない世界、とか


「紫季のいない世界」とは
言い換えれば
自分のいた世界ではない。

残酷な考えになるが
よその世界の灯里がどうなろうと……


見捨て……られるのか? 俺は



木下女史の時に
犯行を止めなかった自分に。

犯行を見逃して後悔した自分に。
















手を出せば過去が変わってしまいます






ああ、もしかして。
あの女が言っていたことは――













助けてくれると信じています






この世界の灯里を救えってことか?
ここがあの女のいるべき世界なのか?

でも、それなら

……


侯爵の傍らに立つあの女が
晴紘に願いを託した女なのだとしたら

何故
何も言わない?
何も動かない?

違うのか?

何を考えているかは知らぬが、見られた以上、ここから出すわけにはいかない


歯車から火花が散った。

一瞬の閃光が

侯爵の足元を照らす。









この人形のように

人……形……?

【漆ノ弐】生贄を捧ぐ・参

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