あり得ない
機械の塊である自動人形に
生身の人間の身体を与えるなど。
義手や義足と発想は似たもの
かもしれないが、
あれは自分の意思で
動かせるわけではない。
いつか来る未来には
脳や神経と機械をつなぐことが
できるかもしれないが……
この時代ではまだ無理な話だ。
我々人形技師は、より自然な動きをし、より人に近い人形を作ることに専念している。
この数年で技術は格段に上がったが、まだ頂点に到達することはない
森園輝はそう言っていた。
人と同じもの――人をを作り出すということは自身が神と化すことと同義だ
技術の問題ではなく、倫理に近いのかもしれない
とも。
そして、
倫理とやらを吹っ飛ばせば、人間のように作ることは可能……?
科学の進歩は素晴らしい。SF小説にもあるだろう?
明言はしなかったが
……示唆してもいた。
今はまだ
その技術はない、と思われている。
しかし
西園寺侯爵は知っている。
そのためにパーツとなった「人間の娘」たちは?
彼女らとて同じだろう
あの台詞は
侯爵がこの連続事件に関わっていると、
娘たちを人形のパーツにしたと、
そう
明言したも同じだ。
……
何故、俺に話した。
もし捕まっても
俺が虚偽を言っていると
シラを切るつもりか?
それとも
ここから生きて
出すつもりはない、と……
そういうことなのか?
紫季のように。
撫子はその辺の自動人形とは構造が違う。さすがは森園輝の遺作と言うところだ
私もわずかばかりだが医学をかじったことがある。人体の仕組みは多少なりとも知っている
その目からしても素晴らしい出来だ。
内部構造はほぼ人体と同じ。心臓の、骨の、筋肉の代わりに同じ仕組みの「部品」を使ってはいるが。
そうだ。
だから灯里にしか直せない
だから、他の人形技師ではなく灯里のところに寄越していたのだろう?
だがそれでも最初の撫子は機械だった。
いや、どの人形でもそうだ。人間の皮を被った機械。
皮をはいでしまえば、それはもう人間とは似ても似つかぬモノ
自動人形とはそういうものだ。
そうでなければ自動人形とは呼べない
輝も灯里も、そう思っ
私は「人間の娘」が欲しいんだよ
永遠に美しく、永遠に従順な、「人間の」娘が
何が……言いたい
私の撫子は美しく従順だ。
しかし侯爵家令嬢というもの、他者より秀でていなければいけない
機械のようにいつでも同じ成果を上げる優秀さではない。たまには劣ることも失敗することもある優秀さ。その細かな機微はやはり人間にしか持ち得ない
侯爵の声が
呪いの言葉ように聞こえる。
私は撫子をさらに作り替えようと考えた。材料の違いはあれど、撫子の構造は人間と同じ
ならば、人間の「部品」でも代用はきくはずだ。そうは思わないかね
そんなことのために、
なんの罪もない娘たちは。
木下女史は。
瞳子がいけないのだ。あれが撫子になり得なかったから。
あれが、機械に拒否反応を起こして死んだりしなければ
ど……ういう、こと、だ?
瞳子、とは森園輝が作った人形。
今は撫子と呼ばれている。
そしてもうひとり。
森園輝の妻。
灯里の母親。
「撫子の身代わり」と乞われて
侯爵家に行ったと言う。
侯爵が言う「瞳子」とは……
機械と……拒否、反応……?
……生身のほうか?