僕は耳を疑った。
だって僕が人為的に造り出された存在だと
聞かされたから。

つまり僕は本来この世界には存在しない
異質な生物だということになる。
 
 

トーヤ

う……そ……
ですよね……?
僕が……そんな……。

レオン

何事もなければ
トーヤには平穏に一生を
終えてほしかった。

レオン

でも神様は私にさらなる
罰を与えるために
それをお許しに
ならなかった。

レオン

私のせいでトーヤにまで
辛い想いを……。

 
 
 
 
 

トーヤ

うぁああああああああああぁーっ!

 
 
 
 
 
 
分からない分からない分からない!



聞きたくない聞きたくない聞きたくない!



信じたくない信じたくない信じたくない!





僕は……僕はっ!
 
 
 
 
 

アレス

トーヤくんっ!

トーヤ

僕はっ、僕は造られた
存在だったなんて!

 
 
 
 
 

アレス

トーヤくんは
トーヤくんだよ!

 
 
 
 
 

 
 
 
 
 

トーヤ

っ!?

 
 
僕はアレスくんに抱きしめられていた。
こんなに力強くて大きくて熱いのは
初めて感じるかも。


全身から力が抜けて、
不思議と心が落ち着いていく……。


これ……アレスくんの持っている
勇者の力なのかな……?
 
 

アレス

トーヤくんが
どんな存在だって
トーヤくんには変わりない。
こうして自分の意思を
持っているんだから。

アレス

僕はずっとトーヤくんの
友達だし、仲間だよ。
家族だよ!

アレス

それはレオンさんだって
ミューリエだって
クリスくんだって
同じだと思う。

トーヤ

あ……。

 
 
アレスくんに言われて気が付いた。

ついさっき女王様が、
前魔王の力と意思を受け継いだことに
罪悪感を抱いていた時に
女王様は女王様だと僕は思った。

僕だって同じじゃないか。
僕は僕なんだ。

アレス

みんなの顔を見て。
苦しそうにしてるでしょ。
それはトーヤくんのことを
大切に想っているから。

アレス

キミの心の痛みを
自分のことのように
感じているからだよ。

ミューリエ

…………。

レオン

…………。

クリス

…………。

トーヤ

アレスくん……。

アレス

それにね、
ここにいる全員が何らかの
重い過去を持っている。
僕たちは似た者同士だ。

アレス

全然、変じゃないよ。
そうでしょ?

トーヤ

っ!?

 
 
――確かにそうかもしれない。



アレスくんは勇者の血をひいている。
それだけの理由で魔王を倒す旅に
無理矢理出されたと聞く。

女王様も僕みたいに単なる魔族じゃなくて
自然の摂理に逆らった存在として
ここにいる。

お師匠様だって不老不死となって
永遠に罪を背負ってひっそりと
生きていかなければならない。

クリスさんはご先祖様が勇者の仲間で、
その時の約束をこれからも
子々孫々ずっと守っていく運命を
背負っている。




――そうか、僕だけじゃないんだ。

なによりアレスくんが言うように
僕は僕だ。
どんな出生であっても、僕は僕なんだ。


こんなことで負けてられない。
もっと強くなきゃ、
カレンに笑われちゃう。


うん、僕はそのカレンを
助けなければならないんだ。
立ち止まってなんかいられない!
 
 

トーヤ

アレスくん、ありがとう。
僕はもう大丈夫だよ。

アレス

そっか……。
それでこそ僕の家族の
トーヤくんだ!

トーヤ

うんっ! えへへ。

 
 
アレスくんが一緒にいてくれて良かった。
どんなに暴れても決して僕を
離さないでいてくれたから。


一生の友達――ううん、
僕の大好きなお兄ちゃんだ。

なんだかエルムが僕のことを慕ってくれる
その気持ちが分かったような気がする。


僕もエルムのことを今まで以上に
気にかけてあげないといけないな。
 
 

トーヤ

お師匠様、
僕をこの世に
生み出してくれて
ありがとうございます。

レオン

っ!

トーヤ

おかげでアレスくんや
優しい皆さんと知り合えて
幸せな気持ちを
こうして感じています。

トーヤ

感謝しています。
だから気に病まないで
ください。
罪の意識を感じないで。

レオン

トーヤ……。
うぅ……っ……。

 
 
お師匠様は僕たちに背を向け、
肩を震わせていた。


お師匠様が僕に
こんな弱いところを見せるなんて
初めてかもしれない。

僕たちはそんなお師匠様が落ち着くまで
温かな目で見守るのだった。
 
 

 
 
 
次回へ続く!
 

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