わだかまりが解けるように二人は笑っていた。
 過去の出来事で変わったことはある。その事を再確認できたのは皮肉にも、この世界に呼び込まれた、おかげか。
 小斗は笑うのを堪えると鮫野木に質問をした。

小斗雪音

あのさ、淳くん

鮫野木淳

なんだい?


 小斗はしっかりと顔を整える。

小斗雪音

淳くんが野沢ちゃんを助けようとしているのは、やっぱりあの日の自分に似ているから

鮫野木淳

そうだな、なんとなく分かるんだよ。あいつの気持ちが

鮫野木淳

だからかな……

鮫野木淳

元の世界に帰って、余計に助けたいと思った

小斗雪音

そうなんだ


 小斗は、ため息を吐いた。

小斗雪音

じゃあ、私も手伝わないといけないな

鮫野木淳

助かるよ。一人じゃ無理そうだったし

小斗雪音

最悪、一人でどうかしようとしてたの

鮫野木淳

まぁまぁ


 一息、落ち着いたところで扉を開けて様子を確認しに誰かリビングに入ってきた。

凪佐新吾

終わった?

鮫野木淳

凪佐、凪佐じゃないか。久し振り


 心配そうにこちらを見つめるのは凪佐新吾だった。

凪佐新吾

うん、久し振りだね。良かった仲直りしたんだね

鮫野木淳

仲直り? おいおい凪佐、俺達は喧嘩なんてしてないぜ。なぁ、ユキちゃん

小斗雪音

淳くん、あ・ま・り、調子に乗らないで


 その笑顔は何だか怖かった。

鮫野木淳

えっ、ユキちゃん!


 この様子を観た凪佐は笑った。

凪佐新吾

アハハ、お帰り

鮫野木淳

おう、ただいま


 凪佐は自分が入ってきた扉を開けに行った。扉を開けると藤松と久賀が聞き耳を立てていた。その後ろに六十部がひっそり立っていた。
 凪佐は三人に話しかける。

凪佐新吾

そんなことしてないで入ったら

久賀秋斗

もー、ナギサちゃん。大胆なんだから

藤松紅

ほっといても、入ったさ。お前が先に行くから、出るタイミングが狂ったんだ


 言い訳をしながら藤松はリビングに入っていく、久賀と六十部もゾロゾロと入ってきた。六人もリビングに集まると多少狭く感じる。
 六十部は鮫野木と目を合わせると話しかけた。

六十部紗良

久し振りね、鮫野木くん。遅かったわね

鮫野木淳

入院やら学生生活で忙しかったからな。おかげで一週間掛かったよ


 六十部は本当にシャワーを浴びていたらしく、髪が濡れて乾ききっていなかった。

凪佐新吾

入院したの、大丈夫、何処か痛くない?


 六十部とは違い凪佐は入院したことを心配してくれているようだ。凪佐のそういう所が俺は好きだぜ。

鮫野木淳

何、検査入院さ。それと、六十部の兄さんに会ったぜ。

凪佐新吾

六十部さんのお兄さんに会ったんだ

鮫野木淳

ああ、やっぱり兄弟だから似てた

六十部紗良

似てないわよ


 六十部は少しムッとして、腕を組んだ。

六十部紗良

まぁ、良いタイミングで帰ってきたわね

鮫野木淳

どういう意味だ?

六十部紗良

想定外な問題が起きたの、二つほどね

鮫野木淳

二つ?

六十部紗良

その点において、あなたは大丈夫でしょうね

小斗雪音

大丈夫だよ、紗良ちゃん。私が保証するよ

六十部紗良

そう


 そう言うと小斗は腕に巻き付けた白い布を見せた。六十部はその白い布を見て何か納得したようだ。
 鮫野木にはその行動の意味が分からないでいた。

鮫野木淳

何それ?

六十部紗良

言ったでしょう。あなたがいない間に想定外な問題が二つあったの、この布は、その対象の一つ


 六十部は腕をまくり、小斗と同じ白い布を見せつける。

鮫野木淳

それが、その布か?

六十部紗良

そうよ

鮫野木淳

何があったんだ?


 六十部は腕を下ろした。

六十部紗良

私達の偽物が現われたの

鮫野木淳

偽物!


 俺が居ない間に偽物が現われていたのか。その対処法として白い布を腕に巻いているんだな。そして偽物が現われたから、久賀は俺の事を本物か偽物と質問したんだな。
 鮫野木は驚きながらも、何処か引っかかっていた疑問が解消した。

エピソード43 記憶の約束(5)

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