屋上の扉を勢い良く開ける。小斗が屋上に初めて足を入れる。強い日差しと暖かい風が当たり、蝉の鳴き声があちらこちらで鳴り響いている。

 屋上は落下防止の為に、とても高く網目のフェンスで囲まれていた。そのフェンスに鮫野木が手をかけてグラウンドを眺めていた。

小斗雪音

鮫野木くん

鮫野木淳

…………やあ、小斗さん


鮫野木は小斗に気づいて振り向いた。
 小斗は息を整え、鮫野木に一歩ずつ近づいて行った。

鮫野木淳

ああ、別に……

小斗雪音

……


 小斗は足を止めて鮫野木に話しかける。

小斗雪音

どうして、ミコちゃんの代わりに生きようとしているの?

鮫野木淳

苦しいからさ、アイツが居ないと

鮫野木淳

だから、死のうとも思った。けど、それは逃げなんだよ

小斗雪音

逃げ?


 鮫野木は頷いた。頷いたまま地面を見つめる。

鮫野木淳

俺が彼女を死なせた事、それは俺にとっての罪だ

小斗雪音

罪? 罪だからミコちゃんみたいにしてるの

鮫野木淳

そうなるな。俺より若林が生きてなきゃいけない。代わりになることで罪を償う

小斗雪音

――やっぱりバカじゃん

 小斗が押し込めた思いを解き放した。伝えたいこと、伝えないといけないこと、全て話した。
小斗の頬に熱い涙が流れる。

小斗雪音

私はね。鮫野木くんがミコちゃんを理由に自分から逃げている事をバカって言ったんだよ

小斗雪音

だから、ミコちゃんみたいにしている君を見て、最初はおかしいと思った。気持ち悪いとも思った

小斗雪音

で、分かったの君は怖くって逃げているんだね

鮫野木淳

に、逃げてない。俺はただ……若林の


 鮫野木は顔を隠すように両手で塞ごうとした。小斗はその手を取った。

小斗雪音

違う、そうやって逃げているだけなの自分から

鮫野木淳

自分、自分に逃げている? そんなこと


 屋上に響く声が鮫野木の心に刺さる。その度に若林と過ごした記憶が思い浮かぶ、その中には小斗雪音も居る。
 強い風が吹く。まるで自分を押してくれてるようだ。

小斗雪音

鮫野木くん……逃げないでよ

鮫野木淳

…………

小斗雪音

このまま、自分に嘘を付いてると自分が死んじゃうよ。鮫野木くんじゃなくなるよ


 ふっと音の表情を覗く、彼女は泣いていた。
 鮫野木はようやく小斗が泣いていることに気が付いた。

小斗雪音

だから逃げないで向き合ってよ

小斗雪音

私も付き合うからさ

鮫野木淳

ユキちゃん……


 俺のためにユキちゃんが泣いている。自分を心配して、理解しようとして、泣いている。なのに俺は……。

小斗雪音

鮫野木くんは鮫野木くんだよ、若林命にはなれないんだよ

小斗雪音

だからさ、約束して無茶はしないって

鮫野木淳

なぁ、ユキちゃん

小斗雪音

何?

鮫野木淳

俺は俺のために生きて良いのか?

小斗雪音

当たり前じゃん

回想終了

 あの日、若林が死んだ日から、命を救われた日から三年と一ヶ月、思えばちゃんと墓参りに行ったことなかったけ。

鮫野木淳

あのさ、ユキちゃん

小斗雪音

何?

鮫野木淳

俺、ちょっと無茶すすぎましたかね?

小斗雪音

ちょっと? 一人でいろいろしてきたんでしょ!


 確かに園崎桜に会った。まぁ、ここじゃ日泉桜だけど、後は怪しい人と会って野沢を助ける方法を教えてもらったが、ユキちゃんにとっては無茶なことだったんだな。

鮫野木淳

そうでけど、必要なことだったし……ごめん

小斗雪音

もう良いよ。怒ってないから

小斗雪音

どうせ、淳くんがやりたいとでしょ?

鮫野木淳

……全くです


 図橋をつかれた鮫野木は片手で髪の毛を掴んだ。

小斗雪音

まぁ、こっちだって――殴ってごめん

鮫野木淳

別に良いよ。それぐらい

小斗雪音

そですか


 小斗は頬を膨らませた。それを見た鮫野木はつい笑ってしまう。

鮫野木淳

フッハハ

小斗雪音

なに笑ってるの?

鮫野木淳

いや、いつも通りだなって


 やっぱり、この感じが良いよ。アニメや漫画みたいな非日常的な展開は俺みたいな奴には似合わない。こういうのはアニメや漫画に出て来る主人公がやるべきだ。俺には身が重すぎる。
 でも、元の世界に帰るにはかなり無茶をしないといけないんだよな。まぁ、どうにかなるでしょう。

エピソード42 記憶の約束(4)

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