女王様は僕たちの遊撃グループが
副都を攻撃する本隊で、
アレスくんのグループは囮だという。
それってどういうことなのっ!?
女王様は僕たちの遊撃グループが
副都を攻撃する本隊で、
アレスくんのグループは囮だという。
それってどういうことなのっ!?
待ってください!
僕には何の力も
ありません!
そんな僕がリーダーの
遊撃グループが
本隊だなんて……。
いや、トーヤこそが
今回の戦いにおける
最大の切り札なのだ。
そして逆に言えば、
トーヤを失うことは
我々の敗北を
意味するに等しい。
もっと詳しく話せ。
意味が分からん。
もっとも、トーヤ殿に
何か秘密があるというのは
察しがつくが……。
全員の視線が僕に集中する。
でも僕にはわけが分からない。
雰囲気から察するに、
この場でその真意を知っているのは
女王様とお師匠様だけみたいだけど……。
でもなぜお師匠様が……?
それは順を追って話そう。
ちと複雑なのでな。
それでよいな?
うむ……。
まず、敵はギーマの身柄を
手に入れた。
それは何を意味するか。
本人の意思とは無関係に
不老不死の薬を作らせる
ということか……。
あぁ、おそらくは。
拷問、魔法、薬物、催眠。
手段は分からんが
どんな手を使ってでも
やるだろう。
そうだろうね……。
だとすれば、
すでにその薬の増産に
入っているかもしれない。
時間が経てば経つほど
ボクたちが不利になるな。
その通りです。
でも短期的には――
今ならまだ
手の打ちようがあります。
なぜなら不老不死の薬を
作るために必要な原料が
揃っていないはず
だからです。
何っ?
レオンさんは
なぜそんなことが
分かるんですか?
お師匠様はアレスくんの問いかけに
一瞬口ごもった。
でもすぐに僕たちの方を
真っ直ぐに見ながら口を開く。
製法自体は私も
知っているからです。
技術足らずで調薬は
できませんけどね。
えぇっ!?
お師匠様の薬草師としてのレベルは、
おそらく魔界でもトップクラス。
ギーマ老師にも引けを取らないと思う。
それは王都や旅の中で
たくさんのほかの薬草師や医師と接して、
僕が感じていること。
なにより、みんなから薬草師として
一目置かれている僕に
知識や技術を教えてくれたのは
ほかならぬお師匠様なんだから。
――もちろん、不老不死の薬の
作り方まで知っているなんて
想定外だけど。
あなたはいったい……。
不老不死の薬の製法は
私が確立したのですよ。
基礎理論だけですけどね。
それを実際に調薬まで
磨き上げたのは
ギーマですが。
そうだったんですかっ!?
あのっ、
お師匠様はギーマ老師を
ご存知なのですかっ?
えぇ、彼は私と同門。
私の弟弟子です。
なっ!?
そうだったのか……。
お師匠様とギーマ老師が
兄弟弟子だったなんて。
それならお互いに高い技術を持っていても
不思議じゃない。
……そういえば、
ガイネさんがお師匠様の名前を聞いて
ビックリしてたことがあった。
そうか、それはこういうことだったのか。
なるほどな……。
それで不老不死の薬に
必要な原料というのは?
色々ありますが、
一番用意しにくいのは
やはりアレでしょうね。
アレとは?
……命。
魔族の命ですよ。
っ?
それはどういう
意味ですか?
そのままですよ。
生命エネルギー。
分かりやすく言い換えれば
『生け贄』でしょうかね。
生け贄っ!?
魔族100万人の命。
それで不老不死の薬
1人分となります。
バカなっ!
たった1人のために
そんな莫大な犠牲を
払うなど!
だから封印したんですよ、
その薬の製法を。
私たちが表舞台から
身を隠したのも
悪用を防ぐためです。
そしてお互いに
罪を背負っていく
決意をしました。
…………。
あのっ、罪というのは
なんなんですか?
勇者様は
純粋でいらっしゃる。
お気付きにならなくて
当然かもしれませんね。
アレスよ、
ギーマは不老不死の薬を
完成させた。
それは理解しているか?
うん、もちろん。
なぜ完成したと
言い切れる?
実際に作ってみなければ
完成したと
分からないだろう?
あっ!
お師匠様……。
僕にもようやく分かった。
つまりかつてお師匠様とギーマ老師も
それだけの魔族の命を
犠牲にしたということなんだ。
臨床実験の段階を考えれば
もっとたくさんの魔族の命を……。
次回へ続く!