僕たちは隠れ里へ到着した。
真夜中だから暗くて静まり返っていて
真っ暗なのは当然だけど、
それでもここは間違いなく
僕の生まれ育った懐かしい故郷だ。
木々や土の香り、涼やかな空気、
年季の入った家々の汚れや傷――
何もかもが里を出た時と変わらない。
帰ってきたよーって叫びたい気分だけど
みんなきっと眠っているだろうから
それはやっちゃダメだよね?
僕たちは隠れ里へ到着した。
真夜中だから暗くて静まり返っていて
真っ暗なのは当然だけど、
それでもここは間違いなく
僕の生まれ育った懐かしい故郷だ。
木々や土の香り、涼やかな空気、
年季の入った家々の汚れや傷――
何もかもが里を出た時と変わらない。
帰ってきたよーって叫びたい気分だけど
みんなきっと眠っているだろうから
それはやっちゃダメだよね?
では、行こう。
トーヤ、レオンの家へ
案内してくれるか?
あ、はいっ!
僕は先頭に出て里の中を歩き出した。
一刻も早くお師匠様に会いたいから
本当は走って向かいたかったんだけど、
そこまではしゃぐのも恥ずかしいから
心の中で気持ちを抑えて進んでいく。
そして程なく前方に
お師匠様の家が見えくる。
――ん?
誰かが家の前に
立っているみたいだけど……。
よぉ、元気そうだな。
ルシード!
家の前に立っていたのはルシードだった。
彼は僕の友達で、
里では自警団員をしている。
お前は変わらないな。
瞳がキラキラと輝いて
ガラス玉みたいに綺麗だ。
は、恥ずかしいことを
言わないでよぉ。
…………。
……おかえり、トーヤ。
あ……。
あれ? おかしいな……?
すごく嬉しいのに自然と涙が滲んでくる。
胸はキュンとして温かい。
うんっ!
ただいまっ、ルシード!
こらこら、声が大きいぞ。
みんな寝てるんだから
もう少し静かにな。
てはは、ごめん……。
――勇者、
久しぶりだな。
ご無沙汰してます、
ルシードさん。
アレスくん、
ルシードを知ってるの?
うん、以前にここへ
寄ったことがあってね。
そうだったんだ……。
女王様もご機嫌麗しゅう。
……うむ。
そちらのお嬢さんは
初めて会うな。
クリスだ。よろしく頼む。
それにしてもルシード、
よく僕たちが来ることが
分かったね?
女王様や勇者のような
力ある者の気配が近付けば
嫌でも分かる。
そうなんだ……。
女王様、この場は私が
見張っております。
早く家の中へ。
分かった。
ルシードに促され、
女王様はお師匠様の家へ入った。
僕たちもそれに続く。
その時――
トーヤ!
ルシードが不意に僕を呼び止めた。
その表情は真剣そのもので、
でもなぜか瞳の奥には寂しげな空気が
漂っている。
ん? なぁに?
……あ、いや。
どうしたの?
ルシード、何か変だよ?
……俺はトーヤのことを
家族だと思っている。
今までもこれからも。
たとえ何があっても。
それだけは忘れないでくれ。
僕もルシードのこと、
家族だと思ってるよ。
……あぁ。
なんだかルシードの様子がおかしい。
でも僕のことを家族だって言ってくれて
それは嬉しい。
僕たちふたりが――ううん、
里のみんなだって大切な家族。
それは変わらないよ、ずっと。
あ……ぁ……。
おかえりなさい、トーヤ。
お師匠様ぁっ!
家の中に入ると、
リビングではお師匠様が微笑んで
出迎えてくれた。
僕は駆け寄って
思わず抱きついてしまった。
薬草の匂いの漂う懐かしい家の中。
包み込んでくるような
お師匠様の大きな体と熱い体温。
僕は本当に帰ってきたんだ……。
お茶でも淹れましょう。
それを飲んで落ち着いたら
話を始めましょうか。
僕、手伝いますっ!
では、お願いします。
僕はお師匠様と一緒に
お茶の準備を始めた。
カップやお茶、ヤカン、ポットなど
必要な物がどこに保管してあるのか、
僕には全て分かっている。
だってここは自分の家も同然なんだもん。
やがてお茶を飲みつつ、
里を出てからの話を簡単にしていて
不意にそれが途切れた時だった。
女王様がお師匠様に視線で合図を送り、
お互いに小さく頷いてから口を開く。
では、そろそろ
本題に入ろう。この話は
ここにいる者だけの
秘密にしていてほしい。
分かっている。
その点は心配するな。
今回の反攻作戦だが、
副都攻撃グループは囮だ。
えっ? そうなのっ!?
本当の本隊は
トーヤ、
お前の率いる
遊撃グループだ!
えぇっ!
青天の霹靂だった。
だって僕たちのグループが本隊だなんて!
しかも僕はそのグループのリーダー。
戦う力がない僕にそんな大役が
務まるわけがない。
なぜ僕たちが……っ!?
次回へ続く!