――三日後

 放課後の教室は部活動に使ってない限り静かな物だ。楽しく会話する生徒、勉学を教える教師が居なければ教室はただの部屋に過ぎない。鮫野木の席がある教室も今は大きな部屋でしかない。
 そんな教室に誰も居なくなるまで残るように小斗に言われ、鮫野木は二人きりになるまで長く待った。

 外からは部活動のかけ声や楽器の音が聞こえる。

鮫野木淳

何かようかな。ユキちゃん


 鮫野木は教室に自分と小斗だけになってから、小斗に話し出した。

小斗雪音

ユキちゃんって呼ばないでよ

鮫野木淳

えっ、何で?

小斗雪音

そんなの、気持ち悪いからに決まっているからでしょ

鮫野木淳

――そんな事、言うなよ


 どうして気持ち悪いとか言うんだ? ユキちゃんがそんな酷いことを言うはずがない。だって、ユキちゃんはそんな酷いこと言わない。

小斗雪音

そんな事って、何! 鮫野木くんが悪いんでしょ!

鮫野木淳

そんなに……怒るなよ


 耳がつんざくようだ。
 小斗は鮫野木の目を睨みつけて話し出す。

小斗雪音

あのさ、何で呼び出したか分かってないでしょ

鮫野木淳

え、えーと

小斗雪音

やっぱり、分かってないんだ

鮫野木淳

……


 鮫野木は黙ってしまった。自分が何故、怒られている事と小斗が呼び出した理由が分からないでいた。

小斗雪音

どうしちゃたの? 鮫野木くんはミコちゃん。若林の事、忘れたの?

鮫野木淳

忘れてない

小斗雪音

じゃあどうして、そんな態度でいられるの? 葬式の時の君は見ていられない顔をしてたじゃない!


 葬式の時の鮫野木は絶望的な顔をしていて、今にでも死にそうだった。そんな彼に話しかける雰囲気では無く、小斗は会話もせずにいた。しかし、始業式からの鮫野木は明るく別人だった。

小斗雪音

ねぇ――鮫野木くん

鮫野木淳

ん?

小斗雪音

一体、何があったの?


 鮫野木は作り笑顔にもみえる笑顔で答える。

鮫野木淳

アハハ

鮫野木淳

そうだね。葬式の時はとても悲しかった。けどね


 その笑顔は若林にそくっりだった。そして気持ち悪い。どう考えても無理をしている。何故、そんな笑顔でいられるのか理解出来ない。

小斗雪音

……


 余りにものことで声が出そうにない。

鮫野木淳

考え方を変えたんだよ。若林の代わりに生きるって

小斗雪音

はぁ?

鮫野木淳

聞こえなかった? 俺は若林命の代わりに生きる。

小斗雪音

ミコちゃんの変わり……に?

小斗雪音

――バカじゃないの

鮫野木淳

――えっ


 今まで聞こえていた外の音が聞こえなくなった。教室は完全に凍り付いている。

鮫野木淳

な、なに、なに言ってるのユキちゃん?


 小斗の言った事が良くわかないな。バカ、バカって何だ? 若林命の変わりに生きる事か、あいつの代わりに生きることが馬鹿らしいって事か。

鮫野木淳

バカなのはユキちゃんの方じゃないの

小斗雪音

……!

鮫野木淳

だって、俺が居なければ若林は死ななかった。そうだろ、廃墟が好きだったから、俺が居たから海に誘ったんだ。俺が廃墟に行くのを断ったから、若林は死んだんだ

鮫野木淳

だから、若林の代わりに生きるって、決めたんだ……それをバカにするな

小斗雪音

私はそういう意味で、バカって言ってない

鮫野木淳

同じだろ!

小斗雪音

同じじゃない!

 二人は声を荒らげる。深刻な顔をした鮫野木は教室から出て行った。そして、教室は小斗雪音だけが残った。

――秒針の音だけが聞こえる。

 しばらく経つと外から部活動のかけ声が聞こえ始めた。小斗は急いで鮫野木の後を追いかける。

 教室から出て廊下を見渡す。けれども生徒の姿すら無い。小斗は廊下を走って鮫野木が居そうな場所を回った。だが、見つからない。鮫野木のことだから人が集まる場所は行かない。家に帰った可能性はあるが、それは無い。学校に居る。ただの勘だが小斗にはそう思えた。

小斗雪音

人が居ない場所、人が集まらない場所

小斗雪音

まさか、あそこなら


 小斗は思い付いた場所に向った。階段を駆け上がり息が切れそうになる。それでも鮫野木に伝えないと行けない思いがある。それを伝えないと自分が嫌いになりそうだった。

エピソード41 記憶の約束(3)

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