――三日後
――三日後
放課後の教室は部活動に使ってない限り静かな物だ。楽しく会話する生徒、勉学を教える教師が居なければ教室はただの部屋に過ぎない。鮫野木の席がある教室も今は大きな部屋でしかない。
そんな教室に誰も居なくなるまで残るように小斗に言われ、鮫野木は二人きりになるまで長く待った。
外からは部活動のかけ声や楽器の音が聞こえる。
何かようかな。ユキちゃん
鮫野木は教室に自分と小斗だけになってから、小斗に話し出した。
ユキちゃんって呼ばないでよ
えっ、何で?
そんなの、気持ち悪いからに決まっているからでしょ
――そんな事、言うなよ
どうして気持ち悪いとか言うんだ? ユキちゃんがそんな酷いことを言うはずがない。だって、ユキちゃんはそんな酷いこと言わない。
そんな事って、何! 鮫野木くんが悪いんでしょ!
そんなに……怒るなよ
耳がつんざくようだ。
小斗は鮫野木の目を睨みつけて話し出す。
あのさ、何で呼び出したか分かってないでしょ
え、えーと
やっぱり、分かってないんだ
……
鮫野木は黙ってしまった。自分が何故、怒られている事と小斗が呼び出した理由が分からないでいた。
どうしちゃたの? 鮫野木くんはミコちゃん。若林の事、忘れたの?
忘れてない
じゃあどうして、そんな態度でいられるの? 葬式の時の君は見ていられない顔をしてたじゃない!
葬式の時の鮫野木は絶望的な顔をしていて、今にでも死にそうだった。そんな彼に話しかける雰囲気では無く、小斗は会話もせずにいた。しかし、始業式からの鮫野木は明るく別人だった。
ねぇ――鮫野木くん
ん?
一体、何があったの?
鮫野木は作り笑顔にもみえる笑顔で答える。
アハハ
そうだね。葬式の時はとても悲しかった。けどね
その笑顔は若林にそくっりだった。そして気持ち悪い。どう考えても無理をしている。何故、そんな笑顔でいられるのか理解出来ない。
……
余りにものことで声が出そうにない。
考え方を変えたんだよ。若林の代わりに生きるって
はぁ?
聞こえなかった? 俺は若林命の代わりに生きる。
ミコちゃんの変わり……に?
――バカじゃないの
――えっ
今まで聞こえていた外の音が聞こえなくなった。教室は完全に凍り付いている。
な、なに、なに言ってるのユキちゃん?
小斗の言った事が良くわかないな。バカ、バカって何だ? 若林命の変わりに生きる事か、あいつの代わりに生きることが馬鹿らしいって事か。
バカなのはユキちゃんの方じゃないの
……!
だって、俺が居なければ若林は死ななかった。そうだろ、廃墟が好きだったから、俺が居たから海に誘ったんだ。俺が廃墟に行くのを断ったから、若林は死んだんだ
だから、若林の代わりに生きるって、決めたんだ……それをバカにするな
私はそういう意味で、バカって言ってない
同じだろ!
同じじゃない!
二人は声を荒らげる。深刻な顔をした鮫野木は教室から出て行った。そして、教室は小斗雪音だけが残った。
――秒針の音だけが聞こえる。
しばらく経つと外から部活動のかけ声が聞こえ始めた。小斗は急いで鮫野木の後を追いかける。
教室から出て廊下を見渡す。けれども生徒の姿すら無い。小斗は廊下を走って鮫野木が居そうな場所を回った。だが、見つからない。鮫野木のことだから人が集まる場所は行かない。家に帰った可能性はあるが、それは無い。学校に居る。ただの勘だが小斗にはそう思えた。
人が居ない場所、人が集まらない場所
まさか、あそこなら
小斗は思い付いた場所に向った。階段を駆け上がり息が切れそうになる。それでも鮫野木に伝えないと行けない思いがある。それを伝えないと自分が嫌いになりそうだった。