グループ分けとメンバー編成が決まり、
あとはいつ具体的に動き出すか
というだけの状況になった。
ただ、王都守備グループでは
兵士さんたちの配置や細かい調整が
必要になるということで、
数日は王都で待機することになるらしい。
僕も女王様から追加で
兵士さんたち向けの薬の調薬を頼まれた。
状況がどうなるか分からないから
急いで作ってほしいとのことで、
徹夜で作業をしている。
そしてノルマ達成まで
あと少しというところでドアがノックされ
誰かが調薬室に入ってくる。
グループ分けとメンバー編成が決まり、
あとはいつ具体的に動き出すか
というだけの状況になった。
ただ、王都守備グループでは
兵士さんたちの配置や細かい調整が
必要になるということで、
数日は王都で待機することになるらしい。
僕も女王様から追加で
兵士さんたち向けの薬の調薬を頼まれた。
状況がどうなるか分からないから
急いで作ってほしいとのことで、
徹夜で作業をしている。
そしてノルマ達成まで
あと少しというところでドアがノックされ
誰かが調薬室に入ってくる。
あっ! いらっしゃい!
今夜も忙しそうだね。
悪いな、深夜まで
調薬をさせてしまって。
ほぅ、ここで
調薬をしているのか。
アレスくん!
それに女王様とクリスさん。
――珍しい組み合わせだ。
アレスくんと女王様は一緒にいても
不思議じゃないけど、そこにクリスさんが
加わっているのは珍しい。
でもクリスさんも平界の国のひとつを
治めているらしいから、
上に立つ者同士ということを考えれば
普通にあり得る話なのかも。
今夜もお茶を
ご馳走しに来たぞ。
ボクは彼女に誘われたのだ。
真夜中のお茶会に
参加しないか、とね。
僕はトーヤくんの様子を
見に来たんだ。その途中、
廊下でミューリエたちと
会ったんだよ。
そうだったんですか。
ちょうど区切りも良いし、
それなら少し
休憩することにします。
その時、ドアが再び開いて今度は
クレアさんがやってきた。
今夜は随分と賑やかなお茶会になるなぁ。
ミューリエ、
準備はいいわよ。
辺りに問題もなさそう。
……そうか。
っ? 何の話だ?
美味しいお菓子でも
用意してあるんですか?
そうだったら
いいんだけどね。
そっか、お菓子じゃないのは残念だなぁ。
お茶だけでもおいしいけど、
それに合ったお菓子と一緒だと相乗効果で
どちらもより美味しく感じられるもんね。
薬でも組み合わせることで
効果の強弱や性質が変わるものがあるから。
それと似たようなものだ。
直後、女王様は神妙な面持ちになって
クリスさんの顔を見つめる。
……クリスに頼みがある。
なんだ、あらたまって?
転移魔法で私たちを
ある場所へ
連れていってほしい。
本来ならそれは
私の役割だけど、
現在の王都では
魔法が使えないから。
そっか、王都の周りでは
魔族は魔法が
封じられているもんね。
深夜のお茶会に誘ったのは
なるべく目立たずに
それを頼みたかったからだ。
そういうことだったのか。
ミューリエ殿らしい。
それでどこへ行くのだ?
隠れ里だ。
本格的な戦いが始まる前に
トーヤを里の者に
会わせてやりたい。
無事に戻れるか
分からないからな。
女王様……。
そうか、女王様は僕のことを
気遣ってくれたのか。
なんだか嬉しい。
そういえば色々とあって、
随分とお師匠様や里のみんなと
会ってないなぁ……。
今回の騒動にトーヤを
巻き込んでしまった。
お師匠様とやらに私が直接、
詫びを入れたい。
ありがとうございます。
女王様っ!
……うむ。
っ?
なぜか女王様は暗い顔をしていた。
僕から視線を逸らし軽く唇を噛んでいる。
どうしたというのだろう?
ミューリエ殿、
それで予定はいつなのだ?
今すぐに。
はぁ!? 真夜中だぞっ?
あまり目立ちたくないし、
昼間は自由に動けんからな。
あの、この時間だと
お師匠様は寝ているんじゃ
ないですか?
大丈夫だ。
随分前にタックが動いて
先方と話はついている。
…………。
クリスさんは無言のまま考え込んでいた。
――でもそれも当然かもしれない。
今回のお茶会には
色々と根回しされていることが
さすがに僕にだって分かるもん。
単にお師匠様へ会いに行くだけで
普通はここまでしない。
みんなの様子を見る限り、
事情を知らないのは
僕とクリスさんだけのようだ。
……分かった。
ただし、ボクは隠れ里へ
行ったことがない。
侵さざるべき土地までで
構わないか?
ああ、それでいい。
あとは歩いて向かう。
あそこからならそんなに
離れていないからな。
では、みんなボクのそばに
集まってくれ。
僕たちはクリスさんに歩み寄った。
でもクレアさんだけは
その場に佇んだままでいる。
クレア殿、どうした?
私はここに残るわ。
万が一に備えてね。
誰かがここへ来た時に
みんながいないことを
誤魔化さないと
いけないでしょう?
なるほど……。
クレアよ、
あとは頼んだぞ。
えぇ。
では、行くぞ。
…………。
クリスさんはスペルを唱え始めた。
するとクリスさんや僕たちを囲うように
魔力で出来た魔方陣が床に浮かび上がる。
激しく光と風も舞い上がり、
その中に僕たちが包まれていく。
気が付いた時、
僕たちは森の中に立っていた。
なんとなく懐かしい景色と空気。
もしかしたらここは僕がアレスくんたちと
初めて出会った場所かもしれない。
あの時、僕はキノコや薬草を採取しに
来ていたんだよね。
……ミューリエ殿。
ここならば誰かに
聞かれる心配もなかろう。
本当のことを
話してくれるな?
考えてみれば、
このメンバーは各グループの
リーダーだ。
深い事情があるのだろう?
やはりそれに気付いたか。
さすがクリスだな。
そしてそれには
トーヤ殿と隠れ里が
関係している。
――違うか?
えぇっ? 僕が?
そうなのっ?
それは僕も知らされて
なかったんだけど?
僕はトーヤくんと一緒に
隠れ里へ行って
くれないかとしか
聞かされてなかったから。
……それらについては
レオンの家で
彼も同席のもとで話そう。
えっ? 女王様は
なぜお師匠様の名を
知っているんだ?
いや、知ってても
不思議じゃないか。
タックさんと繋ぎを
取っているんだもんね。
……でもそれなら
なぜさっき女王様は
『お師匠様とやら』なんて
言葉を使ったんだろう?
そうか、きっとお師匠様と
女王様が知り合いだと
バレてはマズイからだ。
あの場では誰かに
聞かれてしまうかも
しれないもんね。
でも、そもそも
それはなぜなんだ……?
どうしたの、トーヤくん?
難しい顔をして?
あっ!
な、なんでもないよ!
…………。
僕はなんだか嫌な予感というか
胸騒ぎが収まらなかった。
この裏にはとてつもなく大きくて
重大な何かが隠されているかのような、
そんな気がしてならなかったから……。
その後、僕たちは森の中を歩き出した。
月明かりもなくて真っ暗だけど、
女王様の『ライティング』の
魔法のおかげで問題なく進んでいく。
そして一時間もたたないうちに
僕たちは隠れ里へ到着。
真夜中なので
当然ながら静まり返っている。
――あぁ、でもすごく懐かしい!
里を出て以来、
僕は初めてここへ戻ってきたんだもん。
お師匠様、元気でいるかな……。
次回へ続く!