カゴメ中学校から移動して、着いた場所は鮫野木の家だった。こういう形で自分の家に帰ってくるとは思わなかった。
カゴメ中学校から移動して、着いた場所は鮫野木の家だった。こういう形で自分の家に帰ってくるとは思わなかった。
サメノギッチ、用心しな。鍵が開いてたよ
ああ、そうするよ
別に現実の方の家じゃないしな。それに十年前の偽物の家だしな。それにしては余り変わらないんだな外見って。
中にみんなが待っているから、安心させてやって
うん、わかった
小斗が優しく語りかけてきた。さっきまで怒っていた様子は無いようだ。
鮫野木は自分の家の扉を開けて入っていく、リビングに入ると藤松がソファーに座って漫画を読んでいた。
テーブルには漫画が積み上げられている。
藤松が鮫野木に気付くと漫画をテーブルに置いてソファーから立って漫画のタワーを崩さないように鮫野木に近づいて話しかけた。
鮫野木! 久し振りだな
おう、一週間ぶりだな。凪佐と六十部は?
ん? 凪佐は部屋で寝てる。六十部はシャワーだな。覗くなよ
あのな、覗くわけがないだろ
覗いたら女子達に殺されるわ。
そうだ、凪佐を起こしてくるよ。凪佐、お前に会いたがっていたからな
そうなのか、なんだか嬉しいぜ
藤松は鮫野木の肩を叩いて、急いで二階に向かった。
ドタバタと足音がうるさいぐらいに良く聞こえる。
さーてと、私はサラッチを呼びに行こうっと
秋斗は六十部を呼ぶため、役室に向かった。
リビングには鮫野木と小斗だけになった。
――多少、重い空気を感じる。
あのさ、あの日のこと、ちゃんと覚えてる?
最初に話したのは小斗だつた。
どの日のこと
あのね、私が君を助けた日だよ
ハハッ、ちゃんと覚えてます
なら良いんだよ
鮫野木は小斗に向って、深く頭を下げた。
ごめん
えっ、謝らなくて、良いんだよ
私も悪いし、話したい事あるんでしょ
ああ
俺とユキちゃんの間でしか分からない。暗黙の了解がある。その事はお互いに相手のことを思って、深く話せないでいた。
あのさ、ユキちゃん。提案なんだけど
なに?
現実の世界に帰ったら、話してみないか?
……うーん。どうして?
そりゃ……
ちゃんと向き合うためだよ
……うん、分かった
若林命の事やその後、ユキちゃんに助けられた事を話したことは無い。だからこそ、ちゃん話さないといけない。
ユキちゃんに命を救われた日以来ずっとうやむやにしてたことを確りしたかった。
回想
若林命が死んで夏休みが終わってすぐのこと、教室の机に一つ、花が飾られていた。花が飾られているクラスの空気はどことなく暗く悪い。
理由は単純だ。彼女は明るく、時には優しかった。誰とでも話し、誰とでも仲が良かった。
――そんな彼女がもう居ないから。
そのなクラスに居るのが辛いはずなのに俺はいつも通りに過ごしていた。
やあ、ユキちゃん。おはよう
……何
やだな、ただ挨拶しただけじゃないか
…………
どうかした?
止めてよね
眉間にしわを寄せた小斗は駆け足で自分の席に向かい座った。
席に座った小斗にクラスの友達が話しかけてきた。
ねえねえ、小斗さん。鮫野木の事なんだけど良い?
……うん
鮫野木、どうしたの? まるで別人みたいだけど、やっぱり若林さんが関係してる?
うん……多分
でも、仕方ないよ。鮫野木くん、ミコちゃんと仲良かったから
そうだけど
きっと、心配させないようにしているんだよね
私が葬式以来に会った鮫野木淳と今、教室に居る鮫野木淳は私は知らない。私が知ってる鮫野木くんは気弱だけど優しい人だった。