息を切らし、近くの公園に逃げ込んだ。周りを見渡してアンノンが居ないことを確認した。鮫野木はベンチに腰をかける。
息を切らし、近くの公園に逃げ込んだ。周りを見渡してアンノンが居ないことを確認した。鮫野木はベンチに腰をかける。
疲れた
どうも自分には体力が無い。少し走っただけで、これだ。体力の無さはどうにかしないとな。いざとなったとき逃げ切れないな。
公園で休んでいる合間に見上げた空は現実の空と変わらない。この公園も建物も臭いさえ本物と変わらない。正確に作られた街のはずなのに違和感がある。
どうして、街を作ったのだろう?
野沢を閉じ込めておくなら、わざわざ現実に近い街を作る必要は無い。NPC、人まで用意して、この街に閉じ込めているんだ? 確か名も無き者は人間の感情を理解しようと野沢を閉じ込めている。理解するために野沢が住んでいた街を再現したのか? どうして人間の感情なんて知るために野沢を利用している? 十年の間なぜ?
うーん
考えても答えは出ない。鮫野木は考えるのを止めて、みんなを探すことにした。
かれこれ、一週間も会っていない。みんなは何処に居るのだろう? とりあえずカゴメ中学校に行ってみるか。
鮫野木は勘を頼りに、カゴメ中学校に向った。しかし、おかしな事が一つあった。カゴメ中学校に向う道でNPCと一切出くわさなかった。それはただの偶然か、それとも必然か。
何だ? 様子がおかしい
鮫野木がカゴメ中学校に入ろうとしたとき、後ろから声をかけられた。
待って! 淳くん
ユキちゃん
小斗は駆け足で鮫野木に近づいて、思いっきり鮫野木のほほを手の平で殴った。
バカ!!
――いっ
鮫野木はどうしてビンタされた理由が思い付かない。
ユキちゃん、どうして?
どうして、じゃないです! 忘れたんですか!
私達との約束
嫌、忘れてない
当たり前だ、忘れてはない。俺が命を救われた日にユキちゃんと無茶をしないと約束した、その約束を一度だって忘れてはいない。けれど、俺は約束を破ったことは無い。
なら、何で無茶したんですか!
無茶って、一人で現実の世界に戻ったこと
そうだよ。紗良ちゃんから聞いた。現実の方で無茶したでしょう。だからまた戻って無茶しようとしているんでしょ
それで、怒ってるのか
そうじゃなきゃ怒ってない!
なるほど、それで怒っていたのか。でも、無茶はしていない。俺は自分で望んでやったことだ。
小斗ちゃん。俺は無茶してない――
――嘘、淳くんは……あの日からミコちゃんが死んでから、ずっと無茶している
……違うそ――
――私が知っている鮫野木淳は君みたいじゃない!
ユキちゃん、それは違う。話を聞いてくれ!
……
鮫野木は小斗の両肩に手をかけた。小斗は鮫野木の顔を見た。何かを必死に伝えようとする表情と肩に掛かる力強さに胸の奥から込み上げてきた感情が少しずつ無くなっていく。
ハイハイ、ストップ
――お前は
秋斗ちゃん
久賀は二人の様子を観て、雰囲気が悪いと思い止めに入った。鮫野木と音を離して、久賀は鮫野木に話しかける。
たく、聞いていればさ。あのさーサメノギッチ、女の子が怒ってるときは素直に聞いてろって
サメノギッチ? あっ、俺のことか
これじゃ、私が聞いたサメノギッチの話と全然違うつーの
まぁいいや、とりあえずここから離れなきゃ
どうしてだ?
説明は後、良いから付いてきて
お、おう
……うん
久賀に言われた通り、カゴメ中学校から移動した。移動しながら久賀は鮫野木に質問をした。
あのさ、サメノギッチ。聞きたいんだけど、本物だよな
ん? 何言ってるんだ。意味が分からない。それとサメノギッチって止めてくれないか?
えー、気にいらないのか
それと、本物って何だよ。まるで俺が偽物みたいに
大丈夫、淳くんは本物だよ
後ろに居た小斗が小さな声で話した。
ユキちゃん?
そっか
この会話の意味が分かるまでは、そんなに掛からなかった。