暗闇の中、

辺りを照らす手段がないかと思い、

ポケットに手を入れてスマホを探し始める。

しかし、

通路を歩いている時にはあったはずのスマホは、

左右どちらのズボンのポケットにも、

入ってはいなかった。

さっき、
転んだ時に落としたのか……。

ますます不安は高まっていき、

嫌なことばかり考えてしまう。

そういえば、初めてシャドーに襲われた時も、こんな風に分からない恐怖に怯えてたな。

…………。

グギギ……。

それに、三幻僧みたいなヤツらが本気で殺しにくる。
自分だけじゃなく、周りで仲間が死にそうになる。

死ね。

打面掌!!

かはっ!!

こんな思いをする覚悟があって、最初は光術士になりたいと思ったのに、今の俺は……。

光術士の面汚し共が。

基本的に光術士の世界で、あなたたちのような人達を歓迎していないわ。

光術士になっていいのか?

覚悟はできていると口に出すことは簡単だが、

その覚悟を揺らぐことなく保ち続けるのは難しい。

今までに、

いくつかの死線を乗り越えてきたとはいえ、

数ヶ月前までは何気ない日常を送り、

テレビで観た赤の他人の死は、

翌日には忘れてしまっている。

そんな普通の生活がガラリと変わり、

その変化に身体は追いついても、

心までもとはいかなかった。

小さな頃から、光術士の家系で育ったわけじゃない俺には、やっぱり全く別の世界だったんだ。

世間から十七歳はもう大人というように、

都合よく子供と大人の間を行き来させられるが、

壁にぶつかった時の乗り越え方など、

経験の浅い未熟な者にはそう易々と解決できない。

何もかも投げ出してしまえば、

スゥッと楽になるような気がした。

このまま待っていれば、時間切れで外に出られて、この試練の記憶が消されるはずだ。
できることなら、見えない何かにぶつかったあの日の記憶まで消してもらおう。
そしたら、もうこんな思いをしなくていいんだ。
また何も知らない生活に戻れる。

全てを投げ出す気になり、

その場に座り込んだ。

ん?

胡座をかいて両手を後ろにつくと、

左の掌に何か触れているのが分かった。

そのまま左手でつかみ、

目の前に持ってくるが何も見ることはできない。

細かく確かめる為に、

両手でその何かの形を探る。

感触は薄くて小さい紙のようで、

端の方は少しだけベタつきがあった。

これってもしかして…………。

時は遡り、第二試練開始の一分後。

部屋の中に入ると、

突然眩しい光が広がり目を瞑る。

そして、

ゆっくりとまぶたを開けた美咲の前には、

信じられない光景が広がっていた。

見慣れている家具や部屋の匂い。

それは……、

とても懐かしい感覚。

私の部屋……。

そう呟くと恐る恐る歩き出し、

机やベッド、

壁に飾ったポスターなどを触っていく。

これって本物なの?

この場所には、

絶対にあるはずのないものだと分かってはいるが、

確かに感触は本物と一緒だった。

部屋の扉を開けたら、

廊下と他の二つの部屋の扉と階段があり、

そのまま階段を降りようと進んでいく。

降りた先はリビングで、

そこにもソファーやテレビなどの、

見慣れた物ばかりが並んでいた。

どうして、私の家にいるの?

どこを見渡しても、

自分の家にしか見えない。

リビングの一角には、

思い出が刻まれた写真立てがいくつか置いてあり、

ふと目が止まる。

その中の一つを手に取り眺める。

写真には、

茜桜高校の校門前で、

入学式と書かれた看板の横に男性と女性、

制服を着ている女の子の三人が笑顔で写っていた。

お父さん、お母さん……。
それに……、私。

写真に写る父と母の笑顔を、

優しく指でなぞると、

そっと胸に抱えた。

お父さん仕事で忙しかったのに、受験頑張ったからって無理して来てくれたっけ。
お母さんもご馳走いっぱい作ってくれて……、美味しかったなぁ……。

抱えた写真立てをさらに強く抱えると、

肩を小さく震わせて、

ゆっくりと床に膝をつく。

会いたいよ……。

床には涙が流れ落ちていき、

震えた声が漏れる。

第3章--認証試練編--(72話)-第二試練②-

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