東京のある創業病院の待合室で六十部武蔵は黙って椅子に座り待っていた。消して体の調子が悪いわけではない。悪いのならわざわざ、東京の病院に行かなくても良い。あくまで目的を果たすためである。

 スマートフォンが震える。どうやら連絡が来たようだ。ポケットに締まっているスマートフォンを取り出して画面を確認をした。(吉良くん)と表示された通史画面の応答ボタンを押した。

吉良助教

もしもし、吉良です。こっちは倉庫に着きました。中は本が沢山ありました。そちらは?

六十部武蔵

そうですね、本人には会えないそうです。ですが、先生から話は聞けるそうです

吉良助教

よかった、後で情報交換しましょう

六十部武蔵

ええ、良いですけど、何か用がありましたか?

吉良助教

そうだそうだ、本なんでけど、ドイツ語で読めなくて、そういうのが沢山ありそうで

六十部武蔵

そうですか、なら本のタイトルを写真で取って、送ってください。他に気になる本があれば送ってください

吉良助教

分かりました。送りますね


 電話をしていると看護師が六十部に話しかけてきた。

看護師

お待たせしました。木船先生の手が空きましたので

六十部武蔵

――はい、分かりました。呼ばれたので切りますね。それでは

吉良助教

はい


 通話を終了して、六十部は看護師に案内されて、待合室から診察室に向かった。

六十部武蔵

失礼します

六十部武蔵

初めまして、木船先生、六十部武蔵です。すみません忙しいときに

木船先生

いえいえ、待たせてしまってすまないね、六十部先生。事情は聞いてます。どうぞ座ってください

六十部武蔵

はい


 木船先生は脳外科を専門としている医者で脳のことなら右に出る物は居ないと噂で聞いている。そんな彼に確かめたいことがあった。
 六十部は木船に言われ椅子に座る。木船は六十部が座ったことを確認すると話し出した。

木船先生

単刀直入に言うけど、私が預かっている患者、野沢心さんは目覚めるかどうかは分からない。長年、脳と付き合ったつもりだけど、私が理解している知識、経験でも、彼女を目覚めさせることは出来なかった

六十部武蔵

どんな人でも分からない事はあります。私にも

木船先生

良いんだよ慰めは

木船先生

それに加え、彼女の体が十年前からあまり成長していない

六十部武蔵

成長が止まっているのですか

 どうやら話は本当のようですね。となると私は……吉良くんを馬鹿に出来ない。

木船先生

いいえ、止まっているのでは無く、遅くなっているのです。彼女の場合、眠り続けているせいで成長の妨げになっているのでしょう

木船先生

まるで意識が別にあるように今も夢を見ている

六十部武蔵

夢ですか


 木船は黙ってうなずいた。

木船先生

世界中でも例がないのだよ。彼女の病気は例がない。お手上げだよ


 脳外科の専門医でもお手上げとは、この世に科学や医学さえも証明できない物があるのか、としたら協力者がやろうとしていることは本当にオカルトじみている。

木船先生

どうにしろ、彼女が目覚めるのを待つしかない

六十部武蔵

そうですね


 木船はため息を吐くと、六十部に質問をした。

木船先生

君はどうして、彼女の事を調べているのかね?

六十部武蔵

そうですね、彼女を目覚めさせようとしている一人の為ですかね

木船先生

どういう意味だい?

六十部武蔵

私も良く分かってないんです

木船先生

はぁ?

六十部武蔵

すみません。私が信用したかっただけに、確認しに来たんです

 自分の耳でハッキリと聞いて結論が出た。協力者の作戦に乗ろう。この世には私が知らない事がある。その中のオカルトを信じなくてはならないとは思いませんでした。
 医者としては自分の患者は自分の手で救いたかった。不可思議な物に頼ることになるとは、私もまだ未熟者ですかね。

 いずれ私は廃墟となったあの場所へ、行くことになるだろう。

エピソード38 廃墟再び(5)

facebook twitter
pagetop