両隣を木々が生い茂る一本道を上り、廃墟に向う男女の姿があった。二人の足取りはバラバラだった。女性の方が男性の五歩六歩、先を歩いている。男性が重い工具箱を持って歩いているせいではない。恐らく女性の放つ怒りのオーラが距離を離しているのだろう。

吉良助教

鬼灯先輩、怒ってますか?

鬼灯先生

嫌、お前には怒ってないさ

鬼灯先生

私はただ、呆れてるだけだ

吉良助教

そうですか


 二人が廃墟の入り口にたどり着いた鬼灯が独り言を呟いた。

鬼灯先生

こんなところ、さっさと立て壊してしまえば良いんだ

吉良助教

……

 かなり怒っているな鬼灯、まさか鮫野木くんがもう一度、ここに来るとは思わなかったんだろう。生徒思いなのは良いですけど、出来れば感情を表に出して欲しいな黙っている方が怖いですよ。

 吉良は廃墟の扉を開ける。そのまま、吉良と鬼灯は廊下に進んだ。吉良は廊下にある物置の前で止まる。

吉良助教

ここですね

鬼灯先生

ここに地下室に続く扉があるのか

吉良助教

はい、情報通りなら、この下に倉庫があります

鬼灯先生

倉庫ね

 吉良と鬼灯が廃墟に来た理由は地下にある倉庫を調べるためだ。吉良は物置の扉を開き中を除いた。中には扇風機や掃除機などといった大きな家電がしまわれていた。

鬼灯先生

倉庫が欲しいなら、別に地下に作らなくて良いのにな

吉良助教

そうですね、もし地下室を作るなら、こんな風に隠すようにしなくても

 吉良は物置から荷物を取り除くと、地下に繋がる扉が姿を見せる。床下収納の用に鉄で出来ている扉は所々寂れて、南京錠でしっかり鍵が閉められている。

吉良助教

さてと開けますか

鬼灯先生

工具箱、持ってきて良かったな

吉良助教

こんな時に備えて、持ってきたんですから……えーと、これで大丈夫かな


 吉良は工具箱から大きなペンチを取り出し、南京錠を破壊した。

鬼灯先生

案外、壊れるものなんだな

吉良助教

そうですね、驚きました


 吉良はペンチを工具箱に戻し、地下に繋がる扉を開ける。

吉良助教

本当に地下に行けるようだ

鬼灯先生

そうみたいだな


 吉良は懐中電灯で地下を照らす。はしごが地下まで続いておりそこが薄っらと見える。

鬼灯先生

私が先に行く。吉良は懐中電灯で照らしてくれ

鬼灯先生

あと、懐中電灯余っていたらよこせ

吉良助教

はいはい、問題ありませんよ。もう一つ持ってきましたから

 吉良は鬼灯に懐中電灯を渡した。懐中電灯を受け取った鬼灯はポケットにしまって地下へと降りていった。

 地下は涼しくジメジメとしていた。二畳ほどのコンクリートで囲まれた空間に扉か一つあるだけだった。
 先に降りた鬼灯は扉に手をかけて、扉を開ける。

鬼灯先生

これは――


 鬼灯が入った部屋は本棚が均等に並べられている。かなりの数があった。本棚には本がギッシリと並べられている。奥にまだ部屋が続いているようだが、ここからは暗くて良く見えない。

鬼灯先生

図書室かここは

鬼灯先生

倉庫の中は本だらけ。これだと書庫だな


 ずらりと並ぶ、本の中から一冊を手に取る。題名を見るとローマ字で書かれているのが分かった。

鬼灯先生

英語……ドイツ語か

鬼灯先生

こっちはハングル文字か。他にもありそうだな


 ドイツ語の本があった隣にハングル文字で書かれた本があった。本棚を軽く調べるだけで、二つの国の本があることがった。もしかすると、ここには世界中の本があるのではないだろうか。
 遅れて吉良が部屋に入って来る。それに気付いた鬼灯が後ろを振り向いた。

吉良助教

鬼灯先輩、先に行くなんて酷いですよ。うわ! これ全部、本ですか

鬼灯先生

だろうな。吉良、ドイツ語か韓国語、どれか読めるか?

吉良助教

えっ、英語……なら、自身が

鬼灯先生

そうか、使えんな

吉良助教

ちょと酷すぎません? あっドイツ語なら六十部先輩が読めますよ

鬼灯先生

そんなこと知ってる。だがな、アイツに頼み事はしたくないんだよ

吉良助教

分かりました。僕から頼んでおきます

 しかし、書庫を隠すように地下に作るなんて、この家の図面から地下の情報は消されていた。この場所を隠そうとしている? それとも隠しているのか?
吉良はスマートフォンを取り出して、六十部に連絡をした。

吉良助教

もしもし、吉良です。こっちは倉庫に着きました。中は図書館が開ける量の本が沢山ありました。そちらは?

六十部武蔵

そうですね、本人には会えないそうです。ですが、先生から話は聞けるそうです

吉良助教

よかった、後で情報交換しましょう

六十部武蔵

ええ、良いですけど、何か用がありましたか?

吉良助教

そうだそうだ、本なんでけど、ドイツ語で読めなくて、そういうのが沢山ありそうで

六十部武蔵

そうですか、なら本のタイトルを写真で取って、送ってください。他に気になる本があれば送ってください

吉良助教

分かりました。送りますね

六十部武蔵

――はい、分かりました。呼ばれたので切りますね。それでは

吉良助教

はい


 通話を終了して、吉良は鬼灯に話しかける。

吉良助教

とりあえず、写真撮って送ってみます。タイトルだけ分かっておきたいですし

鬼灯先生

そうか、先にやってくれ。私はもう少しこの倉庫を調べる

吉良助教

了解です


 吉良はスマートフォンで本棚に並べてある本の題名を写真アプリで移し始めた。鬼灯は倉庫の奥へと向かいある物を見つける。

鬼灯先生

あからさまに怪しいな


 鎖で塞がれた木製の扉があった。入るなと言わんばかりの雰囲気を感じる扉だった。

エピソード37 廃墟再び(4)

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