七月、夏休み間近の教室は休みの過ごし方の相談や夏休みの宿題がどれだけ出るかなの話で盛り上がっていた。鮫野木も夏休みをどう過ごすか考えていた。

 もうすぐ夏休みか、楽しみだな。何して過ごそう。そんな事を考えていたとき、後ろから僕を呼ぶ声が聞こえた。

若林命

よう、鮫野木!

鮫野木淳

何だ、若林さんか


 気軽に話しかけてきたのは若林命(ワカバヤシミコト)さんだ。周りからは男子ぽいとよく言われているが本人はその事を気にしていないらしい。
 しかし、若林さんは良く僕みたいな人と友達なんだろう? いや違うな本人はきっと面白がっているだけだ、そうに違いない。

若林命

あのさ、鮫野木よ。そろそろ下の名前で呼んでくれよ

鮫野木淳

いきなり何だよ! 別にどう呼んだって良いじゃないか!


 突然のことに鮫野木は驚く、いきなり下の名前で呼んで欲しいなんて何か変なものでも食べたか。

若林命

いやー、その、若林さんって堅いじゃん

鮫野木淳

そうかな? だったら若林さんこそ、僕のこと下の名前で呼べば良いじゃないか

若林命

うーん。何となく、淳より鮫野木って顔をしているからさ

鮫野木淳

何だよ? わざわざこれを言うために来たの?

若林命

別に……よ

若林命

あっ、そうだそうだ!


 わざとらしく、何か思い出したように若林は話し出そうとする。どうやら話を逸らしたいらしい。けど、指摘すると後が面倒臭いことになるので僕は若林さんの話を聞くことにした。

若林命

鮫野木。昨日の心霊番組見たか! 面白かったよなぁ

鮫野木淳

いや、見てないよ。それに僕が怖いのが嫌いな事、知っているだろ?

若林命

鮫野木、俺がせっかくホラーの楽しみを教えようとしたんだぜ

鮫野木淳

そうなの?


 若林は怖い物、ホラーが好きな変わった趣味を持っている。僕には理解出来ない世界だ。僕はホラーより断然、バトル物やファンタジー物の作品が好きだ。特に気に入っている魔装少女リンカは連載したばかりだが話の展開が面白い。

若林命

そうだぜ、鮫野木が読んでいるラノベ? よりスリルがあるって

鮫野木淳

いやいや、ラノベを馬鹿にしないでいただきたい。スリルならコッチの方がある。ほ、ホラーは怖いし何って言うか……グロイ


 僕はどうしても流血とかの表現がある動画や画像が苦手だ。首や腕が吹き飛ぶシーンや虫が這い寄るシーンなどを観てしまうと、その映像が頭の中で再生されるからだ。だからホラー物は苦手だ。

若林命

待て鮫野木、ホラーとグロは別だ!

鮫野木淳

え、どっちも同じだろう?

若林命

なにぃー! ジャンルとしては同じかもしれんが、内容はまったく違うのが、なぜ分からん!

鮫野木淳

何だよ、それ


 若林の大きな声に小斗が気づいた。その声をする方を見ると鮫野木と若林の言い合いをしている。その事を知った小斗が止めに入る。

小斗雪音

まぁまぁ、鮫野木くん、ミコちゃん。その辺にして

若林命

おぉ、ユキちゃん。聞いてくれ、鮫野木がホラーとグロが同じだって言う


若林は小斗に抱きつく。

小斗雪音

ミコちゃん、暑いよ

若林命

おう、ごめんごめん

 若林は小斗から離れた。解放された小斗は意見を若林に言う。

小斗雪音

私も怖いのが苦手だから、分からない

若林命

あー、分かんないかぁ

小斗雪音

だから、強引に好きな物を押しつけるのは良くないよ

若林命

うーん、そうだな。ごめんな鮫野木

鮫野木淳

別に良いよ


 謝ったところで若林が提案をする。

若林命

そうだ! 夏休み二人ともどうするんだ?

小斗雪音

そうだね、特に予定は無いかな。鮫野木くんは?

鮫野木淳

えっ、僕も予定はコレといって


 若林は嬉しそうに話し出した。

若林命

ならなら、海。海に行こうぜ!


 海か悪くないけど若林さんが率先して物事を進めようとしている。何か企んでないだろうか心配だ。

小斗雪音

良いね。行こう! ね、鮫野木くん

鮫野木淳

う、うん


 小斗の勢いに押され、鮫野木は断れなくなった。

若林命

なら、決まりだな! 楽しみだな

 若林の笑顔を見て鮫野木の心が揺れる。

 小斗さんは若林さんと友達だからしょうがないとしても、若林さんはどうして僕と仲良くしてくれるのだろう? そういえば、いつから若林さんと仲良くしているっけ? きっかけが思い出せない。少なくても中学生に入ってからだ。

若林命

鮫野木、どうかしたか?


 心配した若林が話しかけてきた。

鮫野木淳

いや、何でもない

鮫野木淳

海だけど何処か当てがあるの?

 若林は自信満々に答える。
 どうしてここまで海に行きたいんだろう? 泳ぎたいなら近くのプールでも良いよな。

若林命

それなら問題ない。良い場所を知っている

 どうしてここまで海に行きたいんだろう? 泳ぎたいなら近くのプールでも良いよな。

小斗雪音

へぇー良い場所って何処?


 若林が提案した良い場所が気になって小斗が質問をした。

若林命

ユキちゃん、それは秘密だよ

小斗雪音

どうして、教えてよ!

若林命

楽しみは最後まで取っておかないと

 若林は不敵な笑みを浮かべていた。
 これは何かあるな、そう思っていたが何も聞かずに夏休みになるまで過ごした。

 こうして俺は海に行く事になった。若林が海に行くと言わなければ俺は海に行かなかっただろう。けして、結末が最悪な事を知っていても俺は海に行かなければならない。

エピソード33.5 あの日、僕は俺になった(前編)

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